戦力外2度、制球難、独立L4球団… 元ドラ1右腕が挑む再生の道「諦めずよかった」

埼玉武蔵戦に登板した栃木・北方悠誠【写真:荒川祐史】

2011年ドラフト1位でDeNA入りした北方悠誠が米国で身につけた自信

一度は諦めかけた道を、今再び力強く歩む人がいる。それがルートインBCリーグ栃木の北方悠誠だ。ドジャース傘下マイナーに籍を置いたまま、9月1日から古巣・栃木に加入した26歳右腕は、また来シーズン米球界に戻ってメジャーを目指す。

5日の敵地・埼玉武蔵戦では日本復帰後、初めてのマウンドに上がり、1イニングを無失点。最速154キロのストレートで打者3人を抑えた。「急ピッチに調整して、なんとか抑えられてよかったです」とホッとした笑顔を浮かべたが、3月に帰国して以来初めての実戦マウンドとしては上々の出来だっただろう。

北方の野球人生は、なかなか個性に溢れている。佐賀・唐津商では3年時に夏の甲子園に出場。2回戦で作新学院(栃木)に敗れたが、2試合(18イニング)で防御率2.00、23奪三振と存在感を示し、2011年ドラフト1位でDeNAに指名される。プロ入り後は時速150キロ超のストレートを武器に1軍定着を目指すも、投球フォームを試行錯誤。その影響もあってか、一時はキャッチボールすらできないイップスの症状に悩まされた。

DeNA、育成契約したソフトバンクと2度の戦力外通告を受けて、2016年からは独立リーグでプレーした。2019年までBC群馬、四国IL愛媛、BC信濃、BC栃木と渡り歩きながら、投手としての再生に着手。投球フォームや制球が落ち着きだすと、一時は110キロ台まで落ち込んだストレートは最速160キロを超えるまでのV字回復を遂げた。

紆余曲折を経ながらも、自分なりのスピードで成長を続ける北方に可能性を見出したのが、MLBのドジャースだ。昨年5月にマイナー契約を結び、7月からは傘下ルーキーリーグでプレー。13試合に投げて防御率7.20、奪三振率12.6を記録した。オフにはオーストラリアでのウインターリーグに参加し、同じく13試合に投げて防御率2.53、奪三振率18.6と調子を上げ、いざ臨んだ今季スプリングトレーニングだったが、あいにくのコロナ禍で解散、3月には帰国した。

「投球の幅を広げるため」新球に挑戦「スプリットとツーシームの間のような」

まだシーズンを通じて経験したことがない米球界だが、すでにいろいろな気付きを得たようだ。「(ストライク)ゾーンに投げられたら、ファウルだったり空振りを取れていた。真っ直ぐはしっかり腕を振って投げたら通用した」と、自分の強みは球威あるストレートであると再認識。ただし、それ以外は「足りないところばかりだったので」と苦笑いをしながら、「あと1つ変化球があれば、投球の幅が広がると思っています」と課題を語る。

「今、練習しているのは、変化球をもう1つ。ちょっと速いチェンジアップ系(の球)というか、スプリットとツーシームの間のようなボールを練習しています。腕を振って投げるボールですね。フォークはあるので、もう1つ加えられたらと思います」

もともと最速160キロに達するストレートの他にも、スライダー、カーブ、チェンジアップ、フォークなど多彩な変化球を持つ。だが、ルーキーリーグとはいえ、パワーある打者たちと対戦する中で、スライダーと対になるようなボールがあれば、より効果的にアウトを重ねられると感じたようだ。練習中の新球はまだ実戦では試していないが、再び渡米する際には完成形に近付けておく予定だ。

この春もルーキーリーグからスタートし、1A、2A、3Aとメジャーに続く階段を上がる予定だった。今季はマイナーリーグ自体がキャンセルされ、それも叶わぬこととなったが、その分、ここから古巣・栃木で実戦を通じて積み重ねることは大きな意味を持つ。

「全体にレベルアップして(アメリカに戻りたい)。去年だったら少しずつしか上がれないかもしれない。2つも3つも昇格したいので」

2度の戦力外にイップス。大いに悩み、迷い、苦しんだ時期もあったが、最悪の時を脱し、今では自信を持ちながら明確な目標に向かって歩みを進めている。

「諦めずに続けてよかったなと思いました」

北方が歩む再生の道は、野球に限らず、幅広い分野で躓きを感じている人にとって、心強い励みとなるはずだ。「そうなったらいいですね」。26歳右腕は照れくさそうに笑ったが、諦めない心と地道な努力が道を拓くことを、身をもって証明し続けていきたい。(佐藤直子 / Naoko Sato)

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