【上瀬谷の行方(1)】相鉄の野望 下り線誘客の目玉に

混み合う上り線の車内からあふれ出てくる乗客=7日午前7時20分ごろ、相鉄線横浜駅ホーム

 上瀬谷通信施設跡地を舞台に、壮大な開発計画が進められている。期待と不安が交錯する現状を描く。

 車体がゆっくりと止まり、列車の接近を知らせる機械音が鳴りやんだ。左右のドアが時間差で開き、乗客がすし詰めの車内から勢いよく飛び出していく。

 9月上旬の平日午前7時過ぎ。通勤ラッシュのピークを迎えた相鉄線横浜駅に人波があふれ出した。新型コロナウイルスの感染拡大で混雑率は緩和されたが、上り線の車中は互いの肩が触れ合うほどに混み合っている。

 横浜駅で空っぽになった電車は間もなく、反対方向へと走りだす。すると、殺伐としていた車内の光景は一変する。

 座席のあちこちに「空き」が目立ち、立っている人は数える程度しかいない。両手で新聞を広げても十分な空間があり、上り線とは対照的に穏やかな時間が流れていた。

 相鉄グループの広報担当が苦笑交じりにつぶやく。

 「朝の下り線は乗客がまばらで、輸送能力が余ってしまって」

 相鉄線は他社路線に比べて定期券利用者の割合が高い。それは、乗車の目的が通勤や通学という「日常」に集中し、行楽のような「非日常」での利用が少ないことを意味する。

 沿線には鶴ケ峰や三ツ境駅からバス便が出ている「よこはま動物園ズーラシア」などがあるものの、観光資源が潤沢とは言い難い。下り線に大勢の乗客を呼び込める目玉施設の「不在」は、長らくの経営課題だった。

 その答えを導くのに最適とも言える場所が、沿線に残っている。約242ヘクタール、東京ドーム50個分超もの面積が広がる「上瀬谷通信施設跡地」(横浜市瀬谷区、旭区)。南端から約1.5キロ先に、相鉄線の瀬谷駅がある。

 この土地は戦後間もなく米軍に接収され、2015年に返還された。民有地と国有地がそれぞれ約45%ずつを占め、残り10%弱を横浜市が所有する。一部が農地や野球場として利用されているが、手つかずのまま生い茂った草木が目立つ。

 「未開の地」を横浜の新名所に変え、国内外から人を呼び込んでにぎわいを生み出す─。

 相鉄はそんな野望を掲げ、上瀬谷開発への並々ならぬ意欲を示してきた。

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