withコロナの職場はAIでマネジメント。リモートワークの“すれ違い”を解決する方法は、後悔から生まれた。

©ザ・ハフィントン・ポスト・ジャパン株式会社

新型コロナウイルスの感染拡大によって、多くの職場がリモートワークにシフトしました。一方、リモートワークが定着すると、画面越しのやりとりとなり、「本当のところ、相手がどんな風に感じているのかが知りたい...」といった悩みも生まれています。

こうしたリモートワークで陥りがちなコミュニケーション不足を補おうとする動きがあります。特にセンシティブな人材評価や、1対1の面談といった場面で、企業の人事担当者が頼りにするツールがいま、注目されています。

「サボっているんじゃないか?」「怒ってる?」 リモートで生まれたコミュニケーションの“ずれ”

関心を集めているのは、マネジメントのサポートツール「KAKEAI」(カケアイ)。AIを使い、上司と部下のコミュニケーションをサポートするものです。

とくにリモートワークで生まれがちなのが、「さぼっているんじゃないか?」という疑心暗鬼や、「今、声かけて大丈夫かな?」といった不安です。疑心暗鬼や不安が生まれると、上司と部下のコミュニケーションはズレがちになり、ズレると、顔を合わせることもないのでリカバリーする機会もない。

KAKEAIを開発した「株式会社KAKEAI」に寄せられた企業の声からは、withコロナの職場のリアルな現状が伝わります。

“慣れもあってテレワークでも業務は回るようになってきた。しかし、オフィスにいた時のように、上司と部下が、お互いの様子を見たり、感じたりするコミュニケーションができないことにより、「さぼっているんじゃないか」という疑心暗鬼や、「今、声かけて大丈夫かな?」「返信がないけど、何か怒っているのかな?」という不安から、上司と部下のコミュニケーションがズレがち。ズレると、顔を合わせることもないのでリカバリーする機会もない

“人事としては、コロナ前と今では取り組むべき優先順位が変わった。以前は「採用」だったが、今は「いかに一人ひとりの従業員の力を引き出すか」が大きなテーマ

“1 on 1(1対1の面談)をきちんと実行させたい。しかし、どうしても短期視点の業務管理になりがち

「コロナと共存しなければ」 4月→8月で問い合わせ8倍以上に

株式会社KAKEAIの本田英貴社長(41)によると、8月の企業からの問い合わせ数は、新型コロナの感染が拡大し始めた4月と比べ、8倍以上になったといいます。

本田さんは「4月~6月はテレワークに対応しつつ、様子を見ていたのだと思います。7月に入り、『コロナと共存しないといけない』『出社したときに当たり前だったコミュニケーションの質を維持していかないといけない』という意識が高まったのではないでしょうか」と話します。

では、KAKEAIを使うと、どうコミュニケーションの“ずれ”を解消できるのか?

「具体的なアドバイスを」「キャリアについて話を聞いて」 面談のアジェンダを事前に設定

KAKEAIの特徴のひとつは、上司と部下の1対1の面談の前に、「どのようなトピックを話したいのか」、「そのトピックに対して上司にどのような対応をして欲しいのか」というアジェンダを、部下が設定するという点です。

「業務の進め方について、具体的なアドバイスがほしい」「今後のキャリアについて、話を聞いてほしい」――。

こうしたアジェンダを事前に設定することによって、部下が求めていない話を上司がする、上司から欲しかったアドバイスがもらえなかった――という“ずれ”を防ぐことができるといいます。

約3万人の経験を集約 AIが面談前にTipsを教えてくれる

上司には、面談でどう対応したらいいかという「Tips」(ヒント)をAIが教えてくれます。KAKEAIを使っている約3万人の面談結果をもとに、匿名化したデータをAIが分析。「まずは本人の感じ方をそのまま受け止めるように心がけた」「『どんな風に感じているのかが知りたい』と自分からも聞くように意識」など、それぞれの特性に合わせてAIが導き出したTipsを参考にすることができます。

面談後は、部下が「満足度」をフィードバックします。この評価をもとに、上司の「得意」「不得意」がチャート化されるため、コミュニケーションの改善ポイントが可視化されます。

一方で、このKAKEAIを使うだけで本当に上司と部下のコミュニケーションはうまくいくのか?

本田さんにぶつけてみると、「もちろん、コミュニケーションは人と人がとるもの。KAKEAIを使ったからといってそれだけでよくなるものではありません」と返ってきました。

そのうえで、「AIが提供するTipsなど、“こうした方がいい”というアドバイスが提供されても、それを直視できず、結局自分の経験や感覚に頼ってしまう人もいる。部下1人1人の声に向き合い、客観的な視点を受け入れて意識と行動を変えなければいけないと思います」と指摘します。

「あなたには誰もついていきたくない」 ツールは社長の後悔から生まれた

KAKEAIは、新型コロナの感染が拡大する前の2019年10月に提供が始まったサービスです。なぜ、こうしたツールを開発しようと思ったのか?本田さんが答えてくれたのは、自身が苦しみ、後悔したある経験でした。

本田さんは大学卒業後、リクルートに入社。キャリアを重ね、31歳で人事部のマネジャーに。十数人の部下を抱え、当時は「いい上司ができているという自信があった」と言います。しかし、あるとき、部下から双方向評価の結果が届きます。

「あなたには誰もついていきたくないって知ってます?もっとマネジメントを学んだ方がいいのでは?」

当時の部下の一人からの無記名のコメントでした。その後、部下に対して過度に気を遣い、仕事の分担がうまくできなくなり、不眠や頭痛に悩まされるように。「重度のうつ」と診断されました。

本田さんは当時を振り返り、「『部下の役に立つだろう、だからこうしよう』という自分の思い込みで接していて、部下との間にズレが起きていたのだと思います」と語ります。

その後、「人との関わり方が“属人的”なのはなぜか」「部下は上司を選べない。職場のマネジメントが、上司の経験や感覚に頼らざるを得ない状況を変えたい」と思い、リクルートを退職。スタートアップ企業を経て、2018年4月に「株式会社KAKEAI」を立ち上げました。

広がるジョブ型・フリーランス・副業 多様な働き方にこそ“属人的”ではないコミュニケーションを

日本では、年功序列や終身雇用を前提に「社員」として採用する「メンバーシップ型」と呼ばれる雇用形態が定着しています。一方で、仕事をするポストで採用する「ジョブ型」の雇用やフリーランス、副業といった働き方も広がっています。

本田さんは、多様な働き方が広がるからこそ、職場を束ねるマネジャーの重要性が高まると指摘します。

雇用形態だけではなく、国籍や人種、価値観などが異なる人材が一緒に働く“ダイバーシティ(多様性)”も重視されているいまだからこそ、自分の経験や感覚に頼って同僚や部下と接するのではなく、うまくいった前例やアドバイスに耳を傾け、“属人的”ではないコミュニケーションをとる重要性が、ますます高まっているのではないでしょうか。