【F1第8戦無線レビュー(2)】「みんなにおめでとうと言いたい。最高の仕事をしてくれた」初優勝の興奮冷めやらぬガスリー

 トップチームやトップドライバーたちが次々と脱落していくなか、今年のF1第8戦イタリアGPの主役となってレース終盤を盛り上げたのが、ピエール・ガスリー(アルファタウリ・ホンダ)とカルロス・サインツJr.(マクラーレン)だった。

 レース再開後の34周目のホームストレートで、トップに立ったガスリーの後方で2番手のキミ・ライコネン(アルファロメオ)にサインツJr.が迫る。

マクラーレン:あまり焦るな

サインツJr.:僕はガスリーと勝負したいんだ

マクラーレン:ひとつずつだ

 直後の1コーナーでライコネンをオーバーテイクしたサインツJr.は2番手に浮上。トップを走るガスリーとの差は約4秒だ。11周後の45周目にはその差は1秒台となり、いよいよレースは残り3周へ。

サインツJr.:近づくと前車の乱気流がひどい。**

マクラーレン:残り3周だ、カルロス。集中して全力で戦え。絶対にミスをするな

2020年F1第8戦イタリアGP カルロス・サインツJr.(マクラーレン)

 そして、52周目に2人の差は1秒を切る。

マクラーレン:カルロス、いま君は2番手だ。慎重に行こう。絶対にミスをするな

サインツJr.:僕は勝ちたいんだよ、トム(・スタラード/担当レースエンジニア)

 しかし、ガスリーもサインツJr.を上回る集中力で必死に防戦。そして、53周で行われた今年のイタリアGPのチェッカーフラッグを最初に受けたのは、ガスリーだった。わずか0.415秒抑えてサインツJr.に競り勝って、F1初優勝を達成したガスリーが最初に発した言葉は「オー・マイ・ゴッド」だった。さらにガスリーは叫びまくった。

ガスリー:ついに僕たちはやったぞ

アルファタウリ:やったぞ!!

ガスリー:レースに勝ったんだ。イェーイ。オー・マイ・ゴッド! 俺たちまたやったよ! オー・マイ・ゴッド、イエス! ウァァァァァ

アルファタウリ:P1だ。ピエール! P1だ

ガスリー:ついにレースに勝ったんだ……!

2020年F1第8戦イタリアGP ピエール・ガスリー(アルファタウリ・ホンダ)

 その後、ウイニングランに入ったガスリーに、レース後に行わなければならないパワーユニットの技術的手順を伝えるが、ガスリーの興奮は収まらない。

アルファタウリ:フェイル84だ。フェイル84

ガスリー:オー・マイ……

アルファタウリ:フェイル82だ。いますぐフェイル82だ。お願いだから、すぐにやってくれ

ガスリー:オー・マイ・ゴッド。みんなにおめでとうと言いたい。チームのすべての人たちにだ。みんな最高の仕事をしてくれた。アルファタウリ、ホンダ、すべてのエンジニアとメカニックたち、そして(アルファタウリのファクトリーがある)ファエンツァの全員にありがとうと言いたい。僕たちはやったんだ。イェーイ

アルファタウリ:ありがとう、ピエール。素晴らしいレースだった

ガスリー:もっと早くミラノに引越しすべきだった

アルファタウリ:OK、もうすぐピットエントリーだ。ピットレーンに入ったら、パルクフェルメで”ナンバー1″のボードにマシンを停車するのを忘れるなよ。そして、停車したら、スイッチをP1にして待っててくれ。その後、こちらから合図したらP0に。そうしたら、表彰台へ行っていいぞ

2020年F1第8戦イタリアGP ピエール・ガスリー(アルファタウリ・ホンダ)
2020年F1第8戦イタリアGP表彰式 ピエール・ガスリー(アルファタウリ・ホンダ)、カルロス・サインツJr.(マクラーレン)、ランス・ストロール(レーシングポイント)

 一方、0.415秒差で初優勝を逃したサインツJr.は、自己最高の2位にも胸中は複雑だった。

マクラーレン:すごいレースだった、カルロス。P2だ! 君は勝ちたかったと思うけど、2位だぞ。素晴らしいリザルトだ。君は週末を通して素晴らしかった。赤旗(で順位を落とした分)をよく挽回した。最高の仕事だった

サインツJr.:ああ。でも、笑っていいのか泣いていいのかわからないよ。あああ……いままでで最も(優勝に)近かったのに……あと1周あれば……

最後までトップを争ったガスリーを称えるカルロス・サインツJr.(マクラーレン)
2020年F1第8戦イタリアGP 2位のカルロス・サインツJr.(マクラーレン)がチームとお祝い

 8位でフィニッシュしたエステバン・オコン(ルノー)にとっても悔しいレースだった。レース序盤に自分の後ろを走っていたガスリーが優勝したことで、その不満は爆発。レース後、オコンも悔しい思いをぶちまけた。

ルノー:OK、エステバン。素晴らしい仕事ぶりだった。12番手スタートから8位だから、悪くない結果だ。ダニエルは6位だったから、チームにとっては大量ポイントを獲得できてよかった。よくやった

オコン:了解……いや、やっぱり、違う。僕はそう思わない。今回、僕たちは完全にチャンスを逃した。本当に大きなチャンスだったのに……

ルノー:OK、それでやめておけ。その件についてはミーティングで話そう。もうやめるんだ

オコン:違うよ。僕たちは現実と向き合うべきだっていうことを言いたいんだ

ルノー:お願いだから、無線ではこれ以上話さないでくれ

オコン:何が現実かって。この順位は僕たちがいるべきポジションじゃない

 一方、ポイント圏外の12位に終わったロマン・グロージャン(ハース)は、優勝したのが同じフランス人のガスリーということもあって、無線で後輩の勝利を祝福していた。

グロージャン:レースはどうなった?

ハース:ガスリーが優勝。2位がサインツで、3位(ランス)ストロール、4位(ランド)ノリス……

グロージャン:ついにやったな! 素晴らしいよピエール! 1996年以来のフランス人ドライバーの優勝だ!

2020年F1第8戦イタリアGP 同じフランス人ドライバーとしてガスリーの勝利を祝福するロマン・グロージャン(ハース)

 そしてこのレース限りでF1から退くこととなったウイリアムズ家へ、ふたりのドライバーが感謝を述べた。

ジョージ・ラッセル:この機会を借りて、クレアとフランクに伝えたいことがある。これまであなたたちがやってきたことすべてに感謝している。あなたたちがF1を去ることはすごく寂しいけれど、心の底から感謝している

ニコラス・ラティフィ:クレア、最後のレースを終えて、いまあなたはいろんな感情が駆け巡っていると思うけど、僕はあなたに感謝しかない。僕だけでなく、F1もあなたたちがいなくなることを寂しがっていると思う。でも、僕たちはこれからもウイリアムズの名前を背負って、100%全力で戦っていくからね

 レース後、クレアはこう語って、サーキットを後にした。

「この素晴らしいチームでみんなと仕事ができたことは私の最大の名誉であり、とても光栄でした。良い時も悪い時も、本当に長い間私たちをサポートしてくれた世界中のファンにお礼を申し上げます。私は今日、たくさんの思い出を胸にしまってここを去ります。でも、私たちは永遠にF1を愛し続けます」

2020年F1第8戦イタリアGP クレア・ウイリアムズ副チーム代表へ、チームスタッフらのメッセージが書かれたフロントウイングが贈られた

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