ブラック・ライブズ・マター運動が問う、これからのビジネスにおける「公平性」:SB'20 JUST BRANDS

米サステナブル・ブランドは8月18-19日、「ビジネスにおける人種的平等と公平性の実現に向けた再構築」をテーマに、サステナブル・ブランド国際会議「Sustainable Brands 2020 Just Brands」をオンラインで開催した。ビジネス、人種問題、社会的課題に取り組むリーダーが一堂に会し、2020年というこの時代に求められている「公平性」の意味について率直な議論が行われた。1日目の会議の内容を報告する。(翻訳=梅原洋陽)

5月下旬、米ミネソタ州ミネアポリスの警察の拘束下でジョージ・フロイド氏が殺害されたことをきっかけに、人種問題への抗議活動のうねりが米国全土で再燃した。さらに大手ブランドも「Black Lives Matter(ブラック・ライブズ・マター)運動」を支持する立場を強めている。しかし今のような時代に、声明を発表したり、寄付を約束したり、「多様性」を真摯に受け止めると約束したりといった教科書通りの対応はもはや通用しなくなっている。

「責任感が芽生え始めているようだ」と話すのは、米サステナブル・ブランドのアドバイザリーボードの議長を務める、米ポーターノベリ社のグローバル先進イノベーション・インパクトプラクティス部門EVPのサンディ・スキース氏だ。「今回のことは、かつてない方法で、企業に人種や社会の公平性についての認識をもたらした」。

最初の講演者は、米マサチューセッツ州ウィートン大学の歴史学の准教授、ドリタ・キャスカート氏だった。彼女は1619年の奴隷制度の出現から広い文脈で米国における人種差別について教えてくれた。

「制度的な人種差別は、私たちの文化のあらゆる側面に浸透している。差別によって生み出される資本主義の主な犠牲者は有色人種だ。しかし白人のアメリカ人もまた、こうした政策によって被害を受けている」

キャスカート氏は、新型コロナウイルス感染症の流行がどのようにして国家的危機になったのかについて言及した。ウイルスの流行は人種差別的政策の影響もあり、当初は白人よりも有色人種のコミュニティに大きな影響を与えたが、その後は国家全体の危機となった。

制度的人種差別の根幹には、白人によって設立され、有色人種のコミュニティを差別する金融機関や法律を介して、白人資本によって支えられてきた多くの主要ブランドや企業が、人種差別的資本主義を永続させる上で、それぞれの役割を認識し、そうした役割を必要としていたことがある。

いつから続く制度か

「今の企業は、私のような人がまだ働くことができなかった時代に作られたシステムを使っています。私たちはそうしたシステムがつくられた目的を考えずに、それらを基盤にして物事を決めてしまっている」

そう話すのは、企業や他の組織と協働し、真に社会的影響を与えるプログラムを設計するソーシャル・チェンジ・アーキテクトであり弁護士でもあるエリン・マクラーティ氏だ。

左下、マクラーティ氏

登壇者らは、組織がどのようにして間接的・直接的に人種差別や不平等を永続させ、不平等なシステムから利益を得ているかを理解するために、内部からの働きかけによって文化がいかに変容するかについて語った。例えば、組織はどのようにお金を稼ぎ、そのお金がいかに世代間の不平等性を永続させているか、である。

「企業がどのように利益を得ているのか、そしてその利益が人種やジェンダーの格差を是正しているか否かを明確にしよう」と話すのは、修復経済コンサルタントのンワマカ・アグボ氏だ。

右下がアグボ氏、左下がクリフトン氏

「あなたの企業は、課題の最前線で解決に取り組んでいる社会的組織に恩返しをしているだろうか。企業として、自らが何者であるかを明確にすることが必要だ」(アグボ氏)

企業ブランドにとって、これは企業の外側と同様に内側にも焦点を当てることを意味する。重要な変化を起こすには、従業員やリーダー、経営陣がより深く問題を理解することが必要だ。

例えば、米物流大手ユナイテッド・パーセル・サービス(UPS)は、センシティブな話題について議論する機会を増やすために、社内での会話やフォーカス・グループを実施してきた。こうした取り組みを始めたのは、特に、大企業の下層部にいる有色人種の労働者たちが、自らについて話をすることに躊躇していることが判明したことからだ。

UPSのグローバル・パブリック・アフェアーズの担当部長、ニコール・クリフトン氏は次のように説明する。「わが社の管理職は、職場で人種や痛みを伴う話題といった難しい話題について話すことに苦労していた。そこでフォーカス・グループを立ち上げて、自分の心の中にあることを話し、経験を共有することが重要だと考えた」。

文化をどう変えるか 「公平性」実現への取り組みは始まったばかり

植物由来の代替肉を販売する米インポッシブル・フーズ(Impossible Foods)は、常に使命感ある組織として誇りを持ってビジネスを行ってきた。しかし、今回の新型コロナウイルス・パンデミックと人種差別への抗議活動を受けて、「食料システムの持続可能性」の定義と範囲を拡大する必要があることに気づかされたという。

「われわれは、環境課題への取り組みが最大の原動力だった。しかし、今は一歩引いて、人種差別への取り組みをなくして持続可能な食料システムは実現できないことに気づいた」と、同社の渉外副部長のジェシカ・アッペルグレン氏は語る。

左上、アッペルグレン氏

例えば、ダイバーシティ(多様性)という言葉は何年も前から流行語になっており、近年では多くの企業が有色人種や女性の労働力を増やすことを宣言しているが、ほとんどの企業が目標を達成できていない。問題は、人材の欠如ではなく社内の文化的変化の欠如なのだ。

「労働力の問題ではありません。組織を多様な候補者で満たすための人材は十分すぎるほどいる」と話すのは、文化人類学者であり、「InfluencerCon」(世界的なインフルエンサー文化を特定、サポートするグローバルなコンテンツ・プラットフォーム)の創設者フィリップ・マッケンジー氏だ。

「多様な人々を受け入れ、そうした人を候補者と認識する組織構造に変えようとしない姿勢が問題なのだ」

「Just Brands」の初日を通して見えてきた重要なテーマは、これまで企業が行ってきたことは単なるスタートに過ぎないということだ。人種差別や不公平といった負の遺産に本当に取り組む意思があるかどうかは、今後の行動によって決まるのだ。

「100万ドルの寄付や、声明の発表、投資といったものは、初めの一歩としては重要だが、あくまでも『初めの一歩』に過ぎない」と、B Lab US&Canada社の共同CEOアンシア・ケルシック氏は言う。

「制度的な人種差別は、こういった対応では解決されないだろう。ほんの少し段階を踏み出すだけでは、数世紀わたってつくられてきたシステムを取り除くことは不可能だ」

マクラーティ氏は、すべての組織が学ぶことのできる実用的な用語で、「DEI(ダイバーシティ、エクイティ、インクルージョン:Diversity, Equity and Inclusion)」に関する議論をこう結んだ。

「ダイバーシティ(多様性)とは状態であり、インクルージョン(包括)とは行動である。そして、その結果としてエクイティ(公平性)がもたらされるのだ。議論を行う際には、エクイティを中心に据え、ダイバーシティとインクルージョンはエクイティを実現するための手段だと捉えてほしい」

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