「自粛中に考えてたことをSFにした」園子温監督がAmazonオリジナル『緊急事態宣言』を語る!

「緊急事態宣言」/園子温監督『孤独な19時』© 2020 Transformer, Inc.

新型コロナウイルスの影響で、映画界も大きな打撃を受けた。相次ぐ公開延期に、制作の中断……映画館の営業にも、支障をきたしている。

しかし、こんな時代だからこそ、立ち上がった企画もある。それが、Amazon Prime Videoオリジナル映画『緊急事態宣言』。中野量太監督、園子温監督、非同期テック部(ムロツヨシ+真鍋大度+上田誠)、三木聡監督、真利子哲也監督という5組の監督が、「緊急事態宣言」をテーマにオリジナル映画を撮り下ろす、「今しかできない」オムニバス映画だ。

「緊急事態宣言」© 2020 Transformer, Inc.

今回BANGER!!!では、その中の1本『孤独な19時』を手掛けた園監督にインタビュー。斎藤工を主演に据えた本作は、未知のウイルスに侵された世界が舞台。外出自粛のなか、生まれてから1度も外に出たことがない青年の姿が描かれる。テーマ性や雰囲気、セリフの数々に園監督らしい強烈な個性がにじんだ、力作だ。

園監督はどのような想いで本作に挑み、作り上げたのか。そしてまた、映画界の今をどう捉えているのか。時代に挑み続ける表現者の生の言葉を、お届けする。

「緊急事態宣言」/『孤独な19時』園子温監督(左)、斎藤工(右)

1ヶ月で一気に作り上げた

―『孤独な19時』、非常に突き刺さる映画でした。そもそも映画『緊急事態宣言』の企画のどんな部分に、ご興味をお持ちになったのでしょうか

正直、リモート映画だったらあまり興味は持てないんです。僕自身、このモデルに限界を感じていたし。ただ「感染拡大の防止を守る」「緊急事態宣言がテーマ」という自由度が高い枠だったから、やれることがあるんじゃないかと思ったんです。

「緊急事態宣言」/園子温監督『孤独な19時』

もう1つは、真利子哲也くんが参加すること。真利子くんは大学の後輩で、通っていた映画サークルも同じなんです。彼は最近の日本映画の新人監督の中ではとても興味深い人ですし、他の監督たちにもまれながら映画を撮るのが面白そうだな、と感じたのも、お受けした理由です。

今回は4月の後半くらいに話が来て、6月頭には完パケでした。脚本制作から撮影・編集、ダビングまで1ヶ月。撮影にかかった期間は2日ですね。かなり短い期間で作り上げました。

「緊急事態宣言」/園子温監督『孤独な19時』© 2020 Transformer, Inc.

―企画が決まってからすぐ書き出せるのがスゴいです……。

主人公に託したのが、基本的に自分の気持ちだったからかもしれません。自粛期間に自分が考えていることを多少デフォルメして、SFにしていったんです。

今回は最初から最後まで一気に書けて、ほとんど書き直さなかったですね。調子がいいと、たまにバーッと書き上げられる時があるんですよ。主演の斎藤工くんも、直接連絡をとったらすぐ出演を快諾してくれて、あっという間に決まりました。

「緊急事態宣言」/園子温監督『孤独な19時』© 2020 Transformer, Inc.

―作品を拝見して、ディストピア感というか終末世界のにおいが、すさまじかったです。短期間での制作で、どうやってこれほどの世界観を生み出していったのでしょう?

実は、撮影を僕の実家の近くでやったんです(笑)。「これはあの場所」「ここはあの風景」と自分の知っている所を想定しながら書いているから、ロケをしなくても空気感を作れました。もともと雰囲気のある場所をチョイスして書いた、ということです。

―そうだったんですね! 謎が解けました。部屋のデザインも独特でした。

部屋のディテールに関しては、台本段階ではもっともっときめ細やかに詰め込みました。そこから美術班が実現可能なものを引き出して、具現化してくれました。

「緊急事態宣言」/園子温監督『孤独な19時』© 2020 Transformer, Inc.

観客との“ズレ”が面白い

―ビジュアル面に続いて、中身の部分もお聞かせください。「イニシャルで外出可能日が決められる」「糸電話で他者と交流する」など、斬新なアイデアが詰まっていましたが、これは以前から持っていたアイデアなのか、それともぱっと思いつかれたものなのか、どちらでしょう?

「緊急事態宣言」/園子温監督『孤独な19時』© 2020 Transformer, Inc.

脚本を書く段階で、ストーリーと一緒に出てきたものですね。

そもそも僕は、日ごろからネタ帳みたいなものを常に持ち歩いているわけではないんですよ。もちろん、そういうものがほしいし、習慣づけたい気持ちはあります。電車の中でぱっと思いつくこともあるんですが、大体忘れちゃう(笑)。ただね、こうやって消えてしまうものは、熟成される可能性がなかったんだと勝手に思うようにしています。強いアイデアだけが最終的に残っていって、蓄積されていく。

飲み会の最中とかでも、「あ、こういうことしたいな」と降ってくるときはありますよ。でも「いま会話が弾んでるし、あとでいいや」と放置すると、いつの間にか消えちゃって「メモすべきだった……」と後悔する。ただ、本当に面白いものはまた思い浮かぶんですよね。脳の中にちゃんとあるから。それをかき集めて、脚本を書く感覚ですね。

「緊急事態宣言」/園子温監督『孤独な19時』© 2020 Transformer, Inc.

―なるほど……非常に興味深いお話です。ガチガチに計画していくのではなく、生っぽさを大切にしているというか。だから園監督の作品は、観る者にも強い感覚を与えるんですね。

今回の『孤独な19時』も、観てくださった方々から「メッセージ性が強い」「最後がすごく突き刺さった」という感想をいただくのですが、僕はそもそもラストの部分も、決めゼリフとして書いていないんですよ。

むしろ「こういうこと言っちゃいますけど」という消極的な感覚というか。自分の気持ちが、ぱっと出たものなんです。映画の中でも、男の独り言として描いていますよね。強いものだと考えていないし、そもそも刺そうと思って作った言葉なんて刺さると思えない。

「緊急事態宣言」/園子温監督『孤独な19時』© 2020 Transformer, Inc.

―そうした観客・視聴者とのズレは面白いですね。

作品はやっぱり生き物だから、それぞれの人が違う意見を持ってくれるほうがいいと思いますし、でないとつまらないですよね。出た感想が全部同じだったら、その作品は失敗なんじゃないか? と感じます。だから、皆さんが僕が思ったよりももっと強い感じで受け止めてくれているのは、幸せです。

今回はオムニバス企画で、作り手側にもいろんな意見があって、それぞれ言っていることが違うのも良かったと思うんですよね。「他にも4つ切り口があるけど、僕はこんな感じだよ」と、より自由に作れた気はします。

「緊急事態宣言」/園子温監督『孤独な19時』

「嫌われてもいい」という思いで映画を作る

―園監督はこれまで、実在の事件や3.11をテーマにした作品も多く手掛けられてきました。今回は新型コロナウイルスに伴う緊急事態宣言が題材です。映画で時代をとらえ続ける部分について、お考えを伺えますでしょうか。

園子温監督

常に、時代の空気と一緒に映画を作っています。映画というのはそういうものでしかないと思いますし。ただ、時代の空気に流されるのではなく、むしろ逆らう気持ちで作っていたい。

「今の日本のムードはこうだから、観客が求めているのは陽気なものだよ」とか言われたら、逆にネガティブで真っ黒なものを作って叩きつけてやろうとは思っているかな(笑)。自分はそういう性格なんですが、それもまた時代の流れの中で作っているということですよね。

みんなが求めているものは僕の映画じゃないので(苦笑)、そのアンチテーゼ、逆を行くのが僕の映画。「好かれたい」と思うことも10年に1回くらいありますが(笑)、基本的には「嫌われてもいい」くらいの気持ちで作っています。

「緊急事態宣言」/園子温監督『孤独な19時』© 2020 Transformer, Inc.

―ありがとうございます。これもぜひ伺いたいのですが、園監督は『東京ヴァンパイアホテル』(2017年)でAmazon、『愛なき森で叫べ』(2019年)でNetflixと配信作品にも携わられてきて、今回の『緊急事態宣言』もAmazon作品です。今現在の、映画の発信法についての想いを教えてください。

やっぱり映画館を主体にしたほうが健康的だと、僕は思っています。こういう時代だから配信が圧倒的になってしまっているのは、ちょっと映画的には健全ではないかな。

仮に映画が配信だけになってしまったら、絶対に不自由になると思うんですよ。たとえばプラットフォーム側が自分たちの思想に基づいた作品を作らせるような、寡占市場的な管理体制が生まれないとも限らない。映画独自の自由なインディペンデント性を保つためにも、配信ばかりに頼っていてはいけないとは感じます。

ただ、この映画『緊急事態宣言』は、テーマ的にも映画館より自宅で観るほうがフィットする作品だと思います。家でじっとしているときに『孤独な19時』を観て、そのあと外に飛び出してほしいですね。

「緊急事態宣言」© 2020 Transformer, Inc.

取材・文:SYO

『緊急事態宣言』は2020年8月28日(金)よりAmazon Prime Videoで独占配信

© ディスカバリー・ジャパン株式会社