長男の「怖い」発言に背中押され2年 荒れたごみ置き場、きれいに 佐世保の渕上さん

自宅近くの資源ごみ置き場を掃除し終えた渕上さん=佐世保市内

 長崎県佐世保市の住宅地の資源ごみ置き場で、2年前からごみの分別に自主的に取り組んでいる人がいる。松川町の自営業、渕上一子さん(41)。きっかけは当時小学1年だった長男の一言だった。「ごみ置き場の前を通るのが怖い」

 渕上さんの自宅近くの資源物・燃やせないごみ置き場は以前荒れていた。
 分別していないため回収されず放置されたごみや、通行人が捨てていくごみなどが歩道の半分を占領。時には高さ約160センチのフェンスを越えるほどのごみの山が積み上がり、カラスが群がっていた。回収業者は「市内有数の荒れ具合だった」と眉をひそめる。
 2年前、渕上さんは町内の環境部長をしていた。長男の「怖い」発言に背中を押され、「どうせやるなら徹底的に掃除しよう」と決意した。
 出勤前と帰宅後に1時間ずつ、集積したごみの分別を始めた。住民の個人情報が分かりそうなものは市役所に連絡して対応を依頼。「ごみの日」や分別法の案内をフェンスに貼ったりもした。
 孤軍奮闘していると、やがて、自治会長らも手伝ってくれるようになった。人の心理として美化された場所にごみは捨てにくい。1年がたった頃には見違えるほどきれいに。ごみ出し日も周知され、不適正ごみや不法投棄などもほとんどなくなった。
 渕上さんは環境部長を退いた19年以降も、回収日の2日前から1日2回、2時間程度、分別やペットボトルのラベルはがしなどを続けている。資源ごみを回収する事業者「日野商店」の日野トモエさん(71)は「昔はごみの選別などで1時間以上かかっていたが、今は10分で回収が終わる。感謝しかない」と語る。
 怖がっていた小学3年の長男(9)と小学6年の長女(12)も時々清掃を手伝う。ごみ置き場がきれいになり住民が笑顔になったのを見て、「うれしい」と喜んでいるという。
 新型コロナウイルス感染防止のため、今はフェースシールド、手袋の「フル装備」で活動。渕上さんは「今の状態は私一人では作れなかった。地域、行政、事業者含む皆さんの協力のおかげ。今後も皆でこの状態を守っていけたらうれしい」と爽やかな汗を流しながら話した。


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