「飲食業の倒産状況」調査(2020年1-8月)

 2020年の「飲食業」倒産は、1-8月累計で583件(前年同期比13.2%増)に達した。
 これまで通年(1-12月)で最多だった2011年の800件を抜き、年間最多を更新する可能性が高まった。
 居酒屋だけでなく、うどん・そば店、すし店、専門料理店など、幅広い価格帯の業種で軒並み倒産が増加しており、コロナ禍で顧客の足が止まった影響が飲食業を直撃している。

 飲食業は、2019年後半から2020年2月まで人手不足に伴う人件費上昇で倒産が増勢をたどっていた。そこに2月以降、新型コロナウイルス感染拡大によるインバウンド需要消失、外出自粛に加え、休業や営業時短の要請もあって経営環境が一変。3月は75件(前年同月59件)、4月も80件(同62件)と急増し、5月は裁判所の一部業務縮小などで21件(同76件)に減少したが、6月以降はさらに深刻さを増し、月間100件に迫る高水準で推移している。
 負債総額は368億円(前年同期比5.4%増)で、2年連続で前年同期を上回った。ただ、負債1億円未満が524件(構成比89.8%)、資本金1千万円未満が521件(同89.3%)と、小・零細企業が約9割を占め、資金力の乏しい事業者がコロナ禍で苦境に直面していることを示している。
 国や自治体の各種支援策が奏功し、企業の資金繰りは一時的に緩和している。また、9月中には「Go To Eatキャンペーン」が始まる。東京都も23区内の酒を提供する飲食店の営業時間の短縮要請を9月15日で終了する予定になっている。
 「with コロナ」に向け経済活動は動き出しているが、コロナ前の売上に戻るには相当の時間が掛かりそうだ。さらに、新しい生活様式に合わせたビジネスモデルの転換も必要になる。飲食業は小・零細企業が多く、業態変更も難しいだけに、倒産だけでなく廃業の動きも注目される。

  • ※本調査は、日本産業分類の「飲食業」(「食堂,レストラン」「専門料理店」「そば・うどん店」「すし店」「酒場,ビヤホール」「バー,キャバレー,ナイトクラブ」「喫茶店」「その他の飲食店」「持ち帰り飲食サービス」「宅配飲食サービス業」)の2020年1-8月の倒産を集計、分析した。

飲食業倒産583件、通年で最多を更新する勢い

 2020年1-8月の「飲食業」倒産は583件(前年同期比13.2%増)だった。新型コロナ感染拡大で裁判所が一部業務縮小した5月を除き、倒産件数は増勢をたどっている。特に、4月に緊急事態宣言が発令された影響で、6月98件、7月93件と、夏場に月間100件に迫る勢いをたどった。
 2020年1-8月の倒産は月平均73件で、このペースを持続すると通年(1-12月)では年間最多を記録した2011年の800件を大幅に上回る可能性が高まっている。
 2020年1-8月の飲食業の倒産は、資本金1億円以上がゼロ(前年同期3件)で、中小・零細企業が新型コロナの影響を受けていることも特徴のひとつになっている。

飲食業1

業種別 「専門料理店」が最多の152件

 業種別の最多は、日本料理店、中華料理店、ラーメン店、焼き肉店などの「専門料理店」152件(前年同期比14.2%増)。次いで、「食堂,レストラン」138件(同5.4%減)、「酒場,ビヤホール」114件(同37.3%増)と続く。
 新型コロナ感染拡大前は、自治体や金融機関による後押しで、資産背景がぜい弱な起業も少なくなかった。だが、コロナ禍でインバウンド需要が消失し、外出自粛や休業要請、時短営業など未体験の事態が起き、一気に苦境に陥った。新型コロナの収束は不透明で、コロナ前の売上回復も想定できないだけに、幅広い業種で通年の過去最多を塗り替える可能性が出てきた。

飲食業2

負債額別 1億円未満が約9割

 負債額別では、1億円未満が524件(前年同期比13.9%増、前年同期460件)だった。倒産に占める構成比は89.8%(前年同期89.3%)と約9割で、前年同期よりも0.5ポイント上昇した。
 内訳は、1千万円以上5千万円未満が456件(前年同期比9.8%増)、5千万円以上1億円未満が68件(同51.1%増)だった。
 このほか、1億円以上5億円未満が48件(同4.3%増)、10億円以上が5件(同66.6%増)と、それぞれ前年同期を上回った。5億円以上10億円未満は前年同期と同件数の6件だった。
 小規模を中心とした倒産に変化はないが、次第に中堅規模にも広がりを見せている。

飲食業3

地区別件数では、9地区のうち、5地区で前年同期を上回った。

 増加率の最高は、中部の54.0%増(61→94件)。静岡が18件(前年同期2件)と大幅に増加するなど、三重を除く、4県で倒産件数が増加した。
 以下、近畿23.2%増(155→191件)で、2府4県すべてで件数が前年同期を上回った。
 そのほか、北海道23.0%増(13→16件)、中国18.5%増(27→32件)、関東3.6%増(163→169件)と続く。
 一方、減少は4地区だった。東北の25.0%減(16→12件)を最高に、北陸22.2%減(18→14件)、九州11.7%減(51→45件)、四国9.0%減(11→10件)の順。

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