TKブームは宮沢りえから始まった? 脈々と続く “WOW WOW” フレーズの原点 1989年 9月15日 宮沢りえのデビューシングル「ドリームラッシュ」がリリースされた日

プロデューサー小室哲哉の原点「ドリームラッシュ」

宮沢りえのデビュー曲「ドリームラッシュ」が、1989年9月15日にリリースされました。8cmCDシングルでのリリースとなったこの曲は、宮沢りえの歌手活動の代表曲であるとともに小室哲哉がTK… つまり本格的プロデューサーとして始動した日でもありました。

小室哲哉は1989年時点でTM NETWORKの大ブレイクや渡辺美里への楽曲提供など、コンポーザーとして確固たる地位を築いていました。そしてこの年の後半、小室哲哉自身のソロ活動とともに女性アイドルのデビュー曲を初めてプロデュース。それが宮沢りえでした。

「ドリームラッシュ」は、作曲を小室哲哉、作詞を川村真澄が担当、それを小室哲哉・久保こーじのアレンジで、より小室哲哉らしい、よりTMっぽい音を私達に提供してくれました。この小室哲哉と久保こーじの編曲は後のtrfへと繋がる楽曲とも言えるでしょう。

「ドリームラッシュ」をプロデュースした際には、衣装やジャケットのフォントやサイズにも小室哲哉の意見を採り入れたり、宮沢りえがTVで歌う時には一緒に出演し、シンセに囲まれ画面の左側に小室も映る… まさしく “with TK” の原型とも言えるナンバーです。

TKソングのお約束フレーズ “WOW”

この「ドリームラッシュ」は、小室哲哉自身もソロアルバムに収録するつもりだったのか、セルフカバーに挑んでるんですが、どうにも「しっくりこない」「この曲の WOW は、りえちゃんのものだね」といったコメントを当時2人が一緒に出演したテレビ番組で発言していました。どうしても可愛らしくなってしまう “WOW” に苦戦していた模様です。

この曲の作詞は川村真澄。歌詞を紐解くと、1番目の「WOW」は期待に胸あふれる感情を表し、2番での「WOW」は少し不安な気持ちを表現するために使用されています。さらに付け加えれば、そもそも小室哲哉が宮沢りえのためだけに作った曲であり、歌詞の「♪ 今だけ 今のために」にもあるように、1989年の宮沢りえ以外誰にも歌えない曲… と感じていたのではないでしょうか。

ですが、この曲以降、小室哲哉は牧瀬里穂「キャンセルされたプライバシー」では「WOW」を連発するバックコーラスを入れています。彼がプロデュースする曲には、ハモったりユニゾンでコーラスを入れていく… そんなきっかけになったのかもしれません。また、歌詞の中にも「WOW」を採り入れることも多く、小室哲哉TKソングの “お約束” フレーズになっていったのです。

小室哲哉自身が作詞・作曲を担当している楽曲に「WOW」が多く使われているのは、たとえば、trfではカラオケで全員で歌えるように入れ込んでいたり、メロディーに対して一番効果的な歌詞をはめ込む時に日本語ではなく「WOW」というフレーズが耳に残りやすかったと考えられます。

秋元康が小室哲哉に贈ったメッセージ? 乃木坂46「Route246」

さて、小室哲哉の復帰に関して『乃木坂46のオールナイトニッポン』やテレビでの初披露、またその後、浜崎あゆみの新曲も小室哲哉が!… ということもあり、長いこと “小室哲哉” というワードがトレンドになりました。なかでも、7月にリリースされた乃木坂46「Route 246」には、数多くの「WOW」が、まるで昔を思い出させるかのように繰り返されます。

作詞を担当したのは秋元康。小室哲哉との楽曲の制作は、1986年に発売された原田知世のアルバム『Soshite』に収録された「家族の肖像」が最初で、他にも1987年に堀ちえみ「愛を今信じていたい」や、1990年代には郷ひろみ、牧瀬里穂、翆玲などコンスタントにタッグを組んでいます。

2014年に出たムック『小室哲哉ぴあ TK編』では小室哲哉と秋元康の対談が掲載されていました。その中で秋元康は小室哲哉のことを “戦友” と表現しています。また、こうも発信していました。

秋元:僕らの仕事って、どこかで「もう、いっかな」って思うこともあるんですよ。「もうやり尽くしたかな」って。
小室:うん。
秋元:達成感というのとはちょっとちがうんだけど、もうそこまでムキになってやる必要もないかなって。でも、マラソンじゃないけど、そういう時に横を見て小室哲哉が走っている姿を見ると、「まだ走らなきゃな」って。

この対談を読んでいた私は、乃木坂46を通して作詞家・秋元康が、小室哲哉に一番相応しいフレーズを小室哲哉に贈り、「思い出せ! まだ立ち止まるな!」と言ってるように受け止めました。敢えて少ない歌詞の中にメッセージ性の強い単語と「WOW」を使ったのには、きっと何か理由があると感じました。

乃木坂46の「Route246」の配信が始まってから約2か月経った今、街中でもこの曲を耳にすることがたまにあります。そして「Route246」は「小室っぽいね」とか「globeのあの曲に似ている」などの声も多く聞きます。が、コロナ禍で閉鎖されたのは町だけではなく、私たちの心も同じで、沈みがちで先が見えない状況の中、80年代~90年代のガムシャラに生きて歌ってた時代を思い起こさせたのでは無いでしょうか? だから、秋元康が小室哲哉に贈ったメッセージは、私達にも「思い出せ!まだ立ち止まるな!」と贈られているのだと感じられてならないのです。

カタリベ: 林ともひと@muzikrecord

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