『ヴィタリナ』カーボ・ヴェルデから夫が亡くなったリスボンへ

 ペドロ・コスタの映画は常に、映画とは何か?を観る者に突き付ける。前作『ホース・マネー』の主人公ヴェントゥーラがそうだったように、今回も主演のヴィタリナ・ヴァレラが自分自身の記憶と経験を再現して演じている。彼女は、かつてポルトガルの植民地だったカーボ・ヴェルデから出稼ぎに来て亡くなった夫の痕跡を探すかのように、リスボンのスラム街フォンタイーニャス地区に夫が借りていた薄暗い部屋で暮らし始める。

 コスタが問い掛けるのは、ドキュメンタリーとフィクションの境界線の問題だけではない。時間と空間、つまり時間が介在することで構図(フレーム)も一定ではいられないという問題。スタンダードのフィックス画面の中で、彼の登場人物たちはめったに視線を交えない。視線は、ほぼ画面(フレーム)の外へと向けられているのだ。その意味では、日本の小津安二郎の正統な後継者と言えるだろう。もちろん、画面の深い陰影は小津とは一線を画するけれど(むしろフリッツ・ラングを想起させる)。

 ところが、この映画は後半、大きな転換を見せる。ヴィタリナの人生の計算された再現から、『ヴァンダの部屋』へと回帰するかのように計算を超えた生々しい空気を画面に紛れ込ませるのである。これだから、ペドロ・コスタの映画の旅からは、片時も目が離せないのだ。★★★★★(外山真也)

監督:ペドロ・コスタ

出演:ヴィタリナ・ヴァレラ、ヴェントゥーラ

9月19日(土)から全国順次公開

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