安倍政権下の県内経済 建設、観光が伸長 恩恵届かない層も

安倍政権下の県内経済指標

 16日に発足する菅義偉政権は安倍晋三政権の経済政策「アベノミクス」を引き継ぐ。2012年に旧民主党政権から転換して7年8カ月。国内景気は拡大したが、長崎県はどうか。さまざまな県内経済指標と関係者の視点を通して検証した。
 「経済安定化は本県にも及んでいる。人口減少は深刻だが県内総生産(GDP)は悪くなっていない」。日銀長崎支店の下田尚人支店長は11日の会見で見解を求められ、こう述べた。その一因として、低迷する基幹産業の造船に代わり、電子部品産業が拡大した点を挙げた=表(2)、(3)(金額非公表)=。
 県内GDPのうち製造業構成比を見ると、10年は造船を主とする輸送用機械が36%、電子部品等が14%。これが17年には18%と33%にほぼ逆転した。
 日銀は金融緩和で政府を支え、円安・株高につなげた。企業短期経済観測調査(短観)によると、「良い」と答えた県内企業の割合から「悪い」と答えた割合を差し引いた業況判断指数(DI)は、13年6月から、新型コロナウイルス感染拡大直前の19年までプラスで推移した=表(1)=。ただ下田氏はこう付け加えた。「波及効果を感じられる人とそうでない人がいるのは事実」

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 得た果実が大きかったのは建設業だ。建設工事受注高は「コンクリートから人へ」をうたう民主党政権の11年度に2067億円まで落ち込んだが、「国土強靱(きょうじん)化」を掲げる安倍政権下で反転。18年度は4256億円に倍増した=表(4)=。県建設業協会の谷村隆三会長は「公共工事を重要視してもらえた一方、必要な働き方改革も強く求められた」と評価。次の菅政権に安定と継続性を求める。
 観光客数もコロナで打撃を受けるまでは大きく伸びた。世界遺産登録効果も追い風に18年は3550万人と過去最多に。12年より19%増えた=表(5)=。「観光立国に向け予算を重点配分し、東アジアから多くのインバウンド(訪日外国人客)を呼び込んでくれた」。長崎国際観光コンベンション協会の村木昭一郎会長はこう評価した上で「まだ欧米客の足は大都市にとどまっている」とコロナ後を見据え、引き続き地方に波及を図るよう望む。
 県内GDPの6割を占める個人消費はどうか。百貨店やスーパーの大型小売店販売額は右肩下がり。19年は1025億円で12年比で13%減った=表(6)=。長崎経済同友会の中牟田真一代表幹事は「大都市はインバウンドが消費をけん引したが、地方に届く恩恵は少なかった。今後は国内にあまねくお金が回るような施策を求めたい」と述べた。
 雇用面では、有効求人倍率が伸び、15年度から1倍台が続いた=表(7)=。だが連合長崎の宮崎辰弥会長は「人手不足が大きな理由。都市部との格差は広がった」と指摘する。例えば、12年と20年の最低賃金を比較すると、東京は163円増の1013円。これに対し本県は140円増の793円にとどまった。「正規雇用の少なさや実質賃金の低下という問題も是正されていない」
 倒産件数は落ち着いて推移した=表(8)=。東京商工リサーチ長崎支店によると、第2次安倍政権発足前後の7年間を比べると、799件から308件に激減。大城俊浩支店長は「中小企業の資金繰り対応でかなり成果があった」と評価する。その半面、人口や市場の縮小、後継者不足を背景に休廃業や解散は増えており、「コロナ禍で先が見通せない中、菅政権が企業の延命策にとどまらず、消費や投資につながる成長戦略を示せるかが鍵」とみている。

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