炎越しの丸い地平線を撮る 学生プロジェクトが資金募る(3/3)

炎越しの地球を撮影したい!国境線のない宇宙に炎を掲げる、人類史上初のプロジェクト」とうたう学生主導の計画、アースライトプロジェクト(Earth Light Project)を追う連載も最終回となりました。第3回は、主要メンバーに、このプロジェクトに託した思いを聞きました。

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話を伺った主要メンバー (Credit: Earth Light Project)

メンバーの声

プロジェクト代表・都築則彦さん
分断に向かっていく社会に対し、ともに生きていく社会を作っていこうよ、ということ。もともと地球上にあった社会課題が、コロナで噴出した形になっていると思います。それぞれが相手に対して嫌だなという不快な思いをもっていくのではなく、ともに生きていこうよ、手を取り合っていこうよ、というのが感覚のレベルで共有されるようになって欲しいなと思います。
小さな小さな炎が宇宙に向かっていくさまをみんなで見守りながら、ともに生きていくということを感覚のレベルでいいね、となるのが、僕の目指しているゴールになっています。

技術アドバイザー・阿部完さん(技術アドバイザー担当)
自分もスペースバルーンを上げたこともあるし、そこから見える景色も知っているんですけども、上空30kmから見ると国境線というのは見えないんですね。宇宙から見たときに、地球に人工的な国境線というのは全くなくて、ただひとつの地球があるだけなんですよ。そういう景色を皆さんと共有して、国境とはなんだろう、国家とはなんだろうというのを感じていただければ良いと思います。

技術・川瀬幹己さん(通信・打ち上げ担当)
僕は個人的な思いを話そうかなと。僕は今大学2年生で、ずっと宇宙が好きだったんですけど、好きだから何か行動を起こした、何かに参加した、ということがほとんど……いや全くなくて、このプロジェクトが自分が始めて積極的に宇宙にかかわったプロジェクト。自分の夢に近づく一歩を踏み出したかなと思うので、このプロジェクトには全力で取り組んで、絶対に成功させたいなと思います。このプロジェクトを見て下さっている方々に、僕みたいに一歩を踏み出せていないという人もいるかと思うのですが、勇気づけることができたらな、と思っています

機体設計・服部司さん(設計担当)
このプロジェクトでは、多くの学生がいま困難な状況ですけれど、ものづくりを通して、様々な分野の人たちが集まってものごとを進めていくということを通して、困難な状況に立ち向かう若い人たちにポジティブな影響を与えられたらなと考えています。また、今までにないものをこの手で作り出すことから、ものづくりの魅力についても伝えられたらと考えています。

技術・樋口健さん(実験担当)
自分は、中学校の技術科教育の観点から、このプロジェクトが次世代の子ども達ひとりひとりに、何か気づきをもってもらえるようになればいいなと思っています。若者も子ども達もいろんな困難を抱えている状況だと思います。このプロジェクトも、とても困難なことに挑戦しているので、炎が宇宙に向けて上がっていく、それを撮影できた、それを子ども達が見たときに、「ちょっと年上のお兄さん・お姉さんたちが頑張って困難に立ち向かって実現させたんだ、すごいな」と、「僕も私も目の前の困難に立ち向かえるんじゃないか」という勇気を持ってもらえるような、そういう影響を与えるプロジェクトになればいいなと思っています。

技術・杉本圭吾さん(技術リーダー)
我々アースライトプロジェクトに参加している人たちは、都築さんの思いに共感して今参加しています。ある意味都築さんに心の炎を灯されたという形でやっていて、打ち上げられた炎が分断された世界を明るく照らして、みんなの心に、日本人とか関係なく世界中の人たちの心に同じような炎を灯していければいいなと思っています。アースライトプロジェクトに参加している自分たちがこの流れを作ったんだというところを表現できたら良いなと私は思っています。

ファシリテーター・伊丹新さん(ファシリテーター、広報担当)
コロナウイルスで大きく分断されてしまったと感じています。コロナウイルスだけでなく、最近は黒人の人種差別も大きな問題になっています。障害の有無による差別も僕は経験したことがあります。その中で、オリンピックの開催地である日本から、東京からこの企画を始めて、共生の炎を宇宙に飛ばすことで、今だけじゃなくて将来、同じような分断が起きたときも、「あのアースライトプロジェクトが共生の炎を飛ばしてくれたんだ」と語り継いでくれたら、同じような危機も乗り越えていけるんじゃないかと考えています。今後危機を乗り越えていくための第一歩としてこのプロジェクトがあると思いますし、それに関われることがすごく嬉しく思っています。なので、絶対成功させていきたいなと思っています。

燃焼器部分の組立を行うメンバー (Credit: Earth Light Project)

取材を通して

メンバーを取材する中でよく現れたのは、「分断」・「困難」・「共生」・「照らす」という言葉でした。ただ単に炎を高高度まで飛ばすだけではなく、そこに「分断され困難な状況にある現在を、共生の思いを込めた炎で照らしたい」という目的を、おのおのが、自分の言葉で語れるくらいにメンバー間で共有していることが伝わってきました。
現在、新型コロナウイルス感染症の影響で、大学はほぼオンライン授業となっています。これは感染拡大を防ぎ、まずは主目的である教育を確保するためのやむをえない措置ですが、学生の側から見れば、従来はキャンパスという共通空間で培われていた人間関係がなくなったことで、分断や孤独を感じていると言えるでしょう。

そんな中、何か勇気づけるものはないか。そのシンボルとして「炎」が挙げられたのです。同年代の学生へ、あるいはもっと年下の児童・生徒へ、そして世界へのメッセージが込められている「炎」が揺らめきながら上がっていく様を、ぜひ見てみたいと記者にも思わせるような熱が感じられました。

本取材は「炎を成層圏に運ぶ技術 ~Earth Light Project技術イベント~」(2020年8月16日開催)にて公開で行われました。イベントはyoutubeライブを用いたオンラインで行われ、前述のイベント名部分をクリックするとアーカイブを見ることができます。

クラウドファンディングの期間は2020年9月16日までということです。間もなく終了となりますので、興味を持った方は以下のサイトをぜひ開いてみて下さい。

「炎越しの地球を撮影したい!国境線のない宇宙に炎を掲げる、人類史上初のプロジェクト」(クラウドファンディングサイト)
Earth Light Project公式サイト

Image Credit: Earth Light Project
文/金木 利憲

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