ルームシェアのパートナー、女性二人の正解のない選択と生き方。『Daughters』津田肇監督インタビュー【髙野てるみの『シネマという生き方』/コロナに負けない映画インタビューVOL.1】

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コロナ禍にあり、すっかりコロナに邪魔された形になった、本連載インタビュー。毎回、ご登場の方をリアルに撮影して下さっていた写真家の安井進さんのオリジナル写真も、残念ながらお休みです。この間、コロナに負けない新作映画を選んでの、リモートによる監督インタビューを試みました。誰にとっても起こりうるハプニングを乗り越えて、観る者を心穏やかにしてくれるような作品、『Daughters』との出会いと、津田肇監督(カバー画像)インタビューが、映画へのモチベーションを上げてくれて嬉しいです。

コロナ禍にあっても、新作映画の劇場上映はコロナにめげずに目白押し。試写会もリモートやDVDでの試聴もあり、ステイホーム中の筆者の元には、毎日多くの試写状が届きました。

ファッション性の高い、初監督作品の登場

その中にあって、ひときわ目を惹いたのが、津田肇監督初作品『Daughters』でした。二人の若い女性がベッドかソファーの上で横になって向き合っているビジュアル。

彼女たちのコスチュームは、なにげなくカジュアルなのですが、ファッションブランドの春夏シーズンのカタログに登場するかのような極まった着こなし。映画のタイトルのタイポグラフィーも、モード感溢れるデザイン。作り手のこだわりが感じられて、映画を早く観てみたいとザワザワさせられました。ひょっとして、これは、女性同士の恋の話しでは?と、そのあたりにもそそられました。ポスター(写真・上)も目を惹きますし、チラシも手に取ってみたくなりますね。

そこに生まれる、濃密な「愛」が漂っているような二人の距離感。が、しかし、その愛は恋愛とは違う愛であったことを、映画は教えてくれるのですが。

新しい時代を感じさせる女性のライフスタイル、もっと言えば「生き方」を標榜する様な投げかけをくれる映画作品が『Daughters』です。それは、どの様なものなのか。作品冒頭のシーンで語られる言葉が、この映画に込められたメッセージの一つだと思われ印象に残ります。

どのような仕事をして、どの様な場所に住み、そして誰と一緒にいるのかで、その人のライフスタイルが見えてくる……。

自分らしくこだわって生きる女性たち

この言葉から受け取れることは、仕事や人生は、自らが選び、自らが作り上げていくものであるということ。

これは、筆者も常々思うところであり、映画の出だしのところから惹きこまれることになってしまいました。想い起せば、かの稀代のファッションデザイナー、ココ・シャネルがお手本でもありますが、人から与えられる生き方ではない、自らが選んだ生き方でこそ、自分らしく成功をめざして邁進できる。

この映画に登場する若き女性たちもまた、それぞれがファッション業界で自分の選んだ道を迷うことなく、まっしぐらに進む二人なのです。自分と自分の仕事を愛し、一緒にいる相手も愛したい。二人とも、良く働き、よく遊ぶ。ファッションイベントのプランナーで演出家という仕事に燃える堤小春と、ファッションブランドのプレスに生きる清川彩乃が主人公。輝いて、今を生きる二人のクリエイテイブな仕事に向けた情熱は、半端なものではありません。

そういう分かち合える価値観があってこそ、ルームシェアのパートナー、同居人としての良き関係も成り立つというもの。それを物語るように、言葉だけでなく、彼女たちのテリトリーの中心となる東京・中目黒のお気に入りの店やクラブや小路、彼女たちの住まうルームとそのインテリア、音楽と色彩が溢れかえる全編、監督のこだわりと美意識で迫って来ます。

しかし、今の時代においてでさえ、女性には仕事を続けることの最大の壁がある。女性である以上、誰にもたらされても不思議はない難関は、妊娠。その出口は出産、そして結婚か。本来女性として最大の歓びであるはずの幸せな「訪れ」が、仕事を持つ女性にはリスクともなり得る事実。

働く女性にとってのハプニングは、妊娠!?

普遍的に言うと、「仕事と家庭の両立」は働く女性にとっての乗り越えるべき、生き方のターニング・ポイント。実にドラマチックな出来事なのです。

その上で、この映画のテーマは、ルーム・シェアをしているパートナーが妊娠したら……、妊娠した女性はもちろんですが、それを受けとめる側の感情や戸惑い。この衝撃に揺さぶりをかける試みです。父親は誰なんだという戸惑いや微妙な、それまでにない違和感。不協和音がもたらされそうな日常。とるべき自分のスタンスを強いられる立場からの視点で、映画が展開されていきます。

「太陽と月」のような関係の二人の女性の変化、この二人の送るべき日々はどう変わっていくのか、という問いかけに応える定点観測でもあるのが、この映画。

日常が非日常になってしまうスリリングさ、女性同士の友情のせめぎ合い、期待と不安を感じさせながら、登場人物と時間の共有を余儀なくさせてしまう、そんな面白さを持った映画です。女性だけでなく、男性にとっても目が離せない作品となることでしょう。

というのも、注目すべきはこのテーマに取り組んだのが、女性監督ではないところ。しかも、自身の体験を生かすべく、念願の映画監督作品第一弾として、『Daughters』を立案・脚本・監督を手がけ完成させ、デビューを果たしたという津田肇監督。興味津々です。

作品の中で映画を引導する役割の小春の存在は、ファッションイベントの演出家で、映像作家としてキャリアを重ねてきた、この津田肇監督のメタファーでもあるというわけなのです。

「妊娠」が、ひきがねに。こだわりは「ルームシェア」

──ご自身の体験を活かしたということですが、主人公の一人が、ルームシェアのパートナーの妊娠を知り、その彼女がシングルマザーとなっても、仕事を続けていくという意志をサポートするようになる。その小春という女性に、監督ご自身を託したということなのですね?

「そうですね。まず、私自身、学生時代から男二人のルームシェアというライフスタイルにこだわっていた経験があり、そういう生き方を映画作品の中に活かしてみたいと、かねてより思っていました。

自分自身も、血の繋がらない他人との暮らしというものに、こだわりを持って20代を送っていたわけです。22歳から現在も続けているイベントの演出という仕事に就いている中で、映像の仕事だけでなく空間づくりにも携わっていましたが、映画を撮りたい、映画監督として作品を作ってみたいという想いはずっと持ち続けていました。

そのきっかけになったのが、(現在、妻となっている女性の)「妊娠」でした。その体験が自分を突き動かし、映画を作るモチベーションになりました。だから、今回の作品に込めたキーワードは「ルームシェア」と「妊娠」。そして、妊娠させた男性を主人公にするより、女性同士の世界にする方が断然良いと思いましたね」

──映像作家というだけではなく、あえて映画監督になりたいと思うようになったのはいつ頃からだったのですか?

「かなり、幼いころから漠然と意識していたように思います。小学生の頃から図画工作が得意で成績も良かった。当時はまだ、大勢で作る映画を作りたいという願望以前に、一人で自分の世界を作り上げることが好きで、絵を描くことや空間を創りあげるというようなことに没頭していました。慶應大学時代には映画を作って、『東京学生映画祭』に出品したら受賞もしたんです」

──そうでしたか。映画監督をめざす気持は募るばかりだったのですね。その間に影響を受けた映画や映画監督というと?

「小学生高学年くらいからですから、ジブリもありますが、父親の影響が大きかったように思います。父親は黒澤明監督の作品が大好きだったのですが、作品を観るだけでなく、黒澤監督に関する資料などを数多くコレクションしていたりしていました。私も自然に黒澤監督の作品を観るようになり、特にカラー作品に魅了されていきました」

黒澤明、ゴダールの影響と、その色味

──というと『夢』(1990)とかですか

「まさに、黒澤監督の『夢』とか『乱』(1985)ですね。『夢』(8話オムニバス作品の中の『日照り雨』)に描かれた狐の嫁入りのシーン、狐の面の行列や、(『鴉』の)ゴッホの絵で鴉が飛んでいくところなどのインパクトに圧倒されました」

──『夢』の黒澤監督の絵コンテはまさに、アートでしたね。監督の今回の作品でも、絵画的と言うか、色彩に妥協を許さない点が多々あることがよくわかります。主人公のコスチュームや部屋の壁紙の色など。

「『Daughters』の主人公二人のコスチュームを黄色と青にして、強烈にシンボライズしたりしてみたかったのは、ジャン=リュック・ゴダールの『女は女である』(1961)とか、『気狂いピエロ』(1965)の圧倒的な色彩に影響されているように思います。

それが、若い女性二人の暮らしとして、現実的ではないと映ることもあるかも知れないですが、あえてリアルではない世界を意識しました。ドキュメンタリー作品で優れた映画が多い中、フィクションの映画はファンタジーに近くて良いと考えたんです。ファンタジックなムードのある部屋に暮らす二人をめざしました」

──なるほど、それにはやりがいも感じられたことでしょう。そして、コスチューム、美術、音楽と思いの丈を盛り込んだ作品ですが、ロケーションも、「脇役」といっても良いくらいに思い入れがあって手抜きがないですね。中目黒という場所へのこだわりの意味は?

知り尽くした中目黒なら、‟嘘”がつきやすい

「自分が6年近く住んでいて、仕事場もある場所なんですよ中目黒は。学生時代からそのエリア近くに住み、渋谷、恵比寿と並んで、何かが生れる刺激的な場所として、自分のライフスタイルの中で欠かせなかった。

その後男二人暮らしの場に選んだのも中目黒でした。映画を作ろうという時、自分が慣れ親しんでいる場所をロケーションに選んだのは、‟嘘”がつきやすいから。映画の中で見慣れた日常の場所を、見たことのない非日常の場に描くことも、その場所を良く知り尽くしているからこそ出来ることなんです。目黒川の存在も大きいですし」

──映画を拝見したうえで、こうしてお話を伺っていますと、監督のこだわりを実現させるにふさわしいスタッフを集めることも成し遂げ、主演の女優二人のキャテイングも思い通りに叶って、初監督作品としてやり残したと思われるところは無さそうに見えますが?「映画監督は王様である」という気分も満喫されたことでしょう。出来上がったら制作中の苦労なんて吹っ飛んでしまうものだと思いますが、ご苦労はありましたか?

「ハハハ、本当に映画監督は王様だと思いましたね。まあ、完璧な出来上がりかと言えば、心残りの点もあることはありますが。制作中は人間関係も良好で、全く支障なく進みました。苦労はなかったです、本当に。

むしろ、脚本や編集の時点で悩みましたね。正解がわからない仕事だと。これでいいのか?分かりにくくはないか、とか。何度も迷うし判断、決断が本当に難しかったです。そういう時は答えを見つけようと、他の映画作品を観てみたりして気を紛らわしたりとかして、何とか着地点をみつけようとしたりしましたが」

「乗り越える」女性の強さが、コロナ時代に心に響く作品

とても誠実で、フランクで紳士的。打てば響くようなお応えと、いくつものキーワードを下さる津田監督。クリエイテイブなことに諦めない津田肇監督の人となりに触れたインタビュー、ここに書き切れないほど、詳しいお話しもいただきました。映画への想いが伝わる時間を、リモートとは思えない熱い温度で感じることが出来ました。またの機会に、さらなる映画論などもうかがいたいものです。

「青天の霹靂」とも言える、思いがけなくも父親となる瞬間。その経験をファンタジック風味も加味しながら、回想しつつ作ったのが、本作『Daughters』だったに違いないということが、胸に迫りました。

映画は回想で良いのではという想いを、筆者はこの作品で改めて認識させられもしました。かの伝説的映画評論家、淀川長治氏曰くの、「映画は好きに作ればいい。好きに作らなくては映画ではない」という言葉も思い出させてくれた作品です。

そして、監督の考えでもあることをうかがいましたが、小春と彩乃の揺るぎない選択、父親である男性との結婚を望まず、ルーム・シェアのパートナー二人の友情の絆で、新しい生命を育てていく決意と生き方。それを温かく応援する周囲の人々。そんな新しい女性の生き方を提案をしている映画の誕生を見守りたいと思わせられました。

そういう女性カップルを、これからは「ドータ―ズ」と言ってもいいのじゃないかとさえ思えてならないのです。

実生活では、現在6歳の娘の父となっている津田肇監督、現在構想中の次回作は5年前から温めてきた、幼少時を過ごしたシンガポールを舞台にした作品なんだそうです。アフター・コロナの先に、やり遂げたいことが待っていることって、何よりも素敵なことではないでしょうか。

脚本・監督/津田肇
出演/三吉彩花、阿部純子、黒谷友香、大方斐紗子、鶴見辰吾、大塚寧々ほか
プロデューサー/伊藤主税 
エグゼクティブプロデューサー/佐藤崇弘 
ラインプロデューサー/角田道明
撮影/髙橋裕太 横山マサト
照明/友田直孝 
サウンドデザイン/西條博介 
美術/澁谷千紗、 内田真由
ファッションディレクター/岩田翔(tiit tokyo)
スタイリスト/町野泉美 
ヘアメイク/細野裕之
キャスティング/伊藤尚哉 
助監督/北畑龍一、 松尾崇、 安井陶也 
制作担当/天野恵子、 犬飼須賀志 、櫻井紘史
音楽プロデューサー/芳賀仁志
企画/CHAMELEONS INC.  
制作プロダクション/and pictures 
制作協力/Lat-Lon 
配給/イオンエンターテイメント・Atemo
製作/CHAMELEONS INC./and pictures/キングレコード/ワンモア/沖潮開発
2019年/日本/105分/カラー
©「Daughters」製作委員会

公式HP https://daughters.tokyo
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