安倍首相談話、安保政策「敵基地攻撃能力」 専門家賛否分かれる 「保有必要」「専守防衛揺るがす」

 安倍晋三首相が11日発表した安全保障政策に関する異例の談話について、県内外の専門家の間では「必要」「専守防衛を揺るがす」と賛否が分かれた。敵のミサイル基地などを攻撃する「敵基地攻撃能力」保有の検討を暗に促す内容。談話は年内に結論を出すよう求めており、次期政権での議論の行方が注目される。
 談話は、北朝鮮の弾道ミサイル保有などで日本の安全保障環境は厳しさを増していると指摘。「日本を防衛しうる迎撃能力を確保していく」と敵基地攻撃能力保有の必要性を言外ににじませた。こうした検討は憲法の範囲内で行い、専守防衛の考え方や日米の基本的な役割分担を変えることはないと強調した。
 元陸自幹部で日本大の吉富望教授(安全保障・危機管理)は「中国や北朝鮮の軍事力増強を考えると、(敵基地攻撃能力を)持たざるを得ない」と指摘。日本は専守防衛を堅持してきたが「他国から日本が攻撃された場合、国民の犠牲を容認していることになる。国民の命を守るのは政府の責任だ」と支持した。
 安倍政権の安保政策を「世界の環境に合うようアップデートした」と評価。その上で「宇宙やサイバー対策など防衛の裾野は広がっていく。政府や党内、国民との間で安全保障に対する認識のギャップを埋めることが大事だ」と次期政権に注文した。
 政府は6月、技術的問題が発覚したとして、地上配備型迎撃システム「イージス・アショア」の計画を断念。弾道ミサイル迎撃に特化した専用艦建造やイージス艦の追加配備などの代替案が浮上している。
 元衆院議員の今川正美氏=佐世保市=は、イージス艦3隻が配備されている海自佐世保基地にも直接、間接的に影響が出ると推測。「海上自衛隊の負担が増えるだけ。イージス艦が、最新鋭のミサイルの迎撃に対応できるのか」と疑問視し「国民の理解を得られる安保政策ではない。無責任な談話だ」と一蹴する。
 NPO法人ピースデポ特別顧問で、長崎大客員教授の梅林宏道氏も反対の立場だ。敵基地攻撃能力保有は専守防衛を原則とする日本の防衛政策の根幹を揺るがし、集団的自衛権行使を容認した安保関連法成立(2015年)の時より「非常に危険な問題」と懸念。「敵基地攻撃を可能とすれば、国際関係を刺激し逆に緊張が高まってしまう」と危機感を示した。

 


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