菅首相がやりたいようにできる仕事師内閣(歴史家・評論家、八幡和郎)

(16日に首班指名され新総理となった菅氏。首相官邸HPより)

菅義偉新首相の閣僚人事を見て思うのは、菅首相が仕事を自分でやりたいようにするための仕事師内閣であって、実務能力を重視し、足手まといにならないように安全第一に徹する反面、浮ついた人気や若さとか女性重視といった仕事の内容と関係ない「華」など歯牙にもかけぬ布陣だと思う。逆にいえば、菅首相以外が目立つことは許さないということにも見える。

官房長官人事では、河野太郎小泉進次郎の名前も噂されたが、官房長官は目立つポストで内閣の人気に影響もあるが、それより、官僚人事の総元締めであり、国会対策の窓口であり、失言がないことも大事だ。

そういうことを考えれば、目立ちたがり屋で泥をかぶるなどいちばん縁遠い河野氏や小泉氏はありえなかった。また、官僚人事に睨みがきくというと、財務官僚出身の加藤勝信氏の優位ははっきりしている。

安倍首相の実弟である岸信夫防衛相、家庭教師であった平沢勝栄復興相については、前首相への忖度人事だと批判されかねないが、二人とも大臣就任適齢期にありながら、安倍首相が縁故人事と批判されることを恐れて割を食ってきた面もあるので、批判は抑えられると判断したのだろう。

あわせ、岸氏の防衛相というのは、岸氏がもっとも得意とする分野で安全だし、アメリカに対して日米同盟の堅持というメッセージを送り、基地経費負担増といった圧力を避けようということであり賢明な選択だ。

小此木八郎国家公安委員長は、秘書として仕えた小此木元通産相への恩返しという色彩もあろうが、逆に恩人に冷淡とかいう批判をするマスコミもあるなかで、すでに経験のある無難なポストで遇しておこうということか。しかし、左派・リベラルを自称するマスコミ、識者が恩人の小此木氏の息子を大事にしないといって揶揄するのはまったく不見識だと思う。

留任組のうち、麻生太郎副総理兼財務相については、二階幹事長を動かさないのとワンセットであるとともに、消費税減税論であるとか、森友事件の処理について、麻生氏に受け止めさせ、新首相として過去のいきさつをご破算にしての対応を問われるのを避けた意味もあろう。

茂木敏充外相、西村康稔経済再生相、萩生田光一文科相、橋本聖子五輪相は事態が動いている中で交代させるのは不適切という判断が当然だろう。梶山弘志経産相は前任者更迭のあとを引き継いだことも考慮か。

武田良太総務相と河野行革相は逆の組み合わせも噂されたが、菅首相が改革を進めていくなかで河野氏の大胆な突破力に期待するとともに、総務省や自治体への睨みは首相が自分できかせたいということか。

上川陽子法相は、検事総長人事でのもめ事があるなかで経験者で無難に乗り切ることを重視したということか。野上農相は官房副長官を三年間もつとめており、それなりの重要ポストでの処遇は当然だ。

平井卓也デジタル相は、これまで何代かの情報化担当大臣がITに詳しくないと揶揄された中で、自他共に認めるITマニアの平井氏をもってくることで本気度をアピールした人事で適切だ。

赤羽一嘉国交相は公明党からの留任希望なので議論の余地なし。あの小泉元首相も公明党枠については党の要望を聞いていた。

井上信治万博相は、初代だけに関西の事情をよく知った人か大物を地元とじては期待したところだが、意図はよく分からない。

田村憲久厚労相は、石破派だが、テレビで「石破氏は負けたら離党もありうるか」と聞かれて、「ありえません。我々がついて行きませんから」という名言を吐いて話題になった。こんどのポストはその論功行賞という印象もあるが、厚労行政のスペシャリストとして定評があるので、期待したい。

残念といえば残念なのは、女性が留任と再任であり、しかも、稲田、高市、小渕といった大物でなく小粒感は免れず、民間からの登用もなかったことか。

菅首相としては、仕事の結果だけで見てもらおうという、正々堂々ともいえるし、やや意識過剰ともいえる人事だ。

また、いまこそ解散のチャンスという外野の声にもかかわらず、首相になったからには仕事をして結果が出てから信を問いたいということなのだろう。

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