160キロをいとも簡単に… 日ハム渡邉諒“直球破壊王子”の打撃をデータで迫る

日本ハム・渡邉諒【写真:荒川祐史】

160キロの直球すらも安打にする、渡邉のバッティングの破壊力

ストレートに強いことから“直球破壊王子”の異名を取っている、日本ハムの渡邉諒内野手。2019年に初めて規定打席に到達したばかりの若手である渡邉は、今季も二塁手のレギュラーとして奮闘。8月8日の西武戦ではリード・ギャレット投手の160キロの速球を引っ張ってレフト前に運ぶ2点タイムリーを記録するなど、剛速球も苦にすることなく、異名通りのインパクトを残すような活躍を見せる機会も増えつつある。

そんな渡邉選手が今シーズンに記録している、球種別の打率は次の通りだ。(以下、各種の数字は8月23日の試合終了時点)

渡邉選手の球種別打率【画像:(C)PLM】

直球に対する打率が.343と全球種の中で2番目に高くなっており、データの面でも相性の良さが示されている。直球に近い速さのシンカーとツーシームを最も得意としている点も、その延長線上と考えられるだろう。その一方で、同じく球速が速いはずのカットボールは今シーズン無安打と、極端に苦手としている点は興味深いところだ。

今回は、渡邉が直球に対して見せている打撃の内訳や、投球コースや対戦相手の左右によってどんな違いが生じるのかを、数字をもとに確認。「直球破壊王子」の打撃の内容や、渡邉選手が直球に強い理由、変化球に対する打撃といった要素について、より深く迫っていきたい。

ど真ん中の直球は、渡邉にとってはまさに“絶好球”

最初に、渡邉が直球を打ったシーンにおける、コース別の打率について見ていきたい。まず、ど真ん中の直球に対しては14打数9安打の打率.643と、極めて高い打率を残しており、甘い球に対するミスショットが少ないことがうかがえる。そして、8月23日までに放った4本塁打のうち3本はど真ん中の直球を打って記録したものであり、真ん中に入ってくる直球は、文字通りの“絶好球”といえる。

ど真ん中の投球にする安打の方向を見てみると、左方向への安打が5本、センター方向への安打が3本、右方向への安打が1本と、センターから左方向への打球が大半を占めていた。こうした点からも、甘い球に対しては思い切りよく引っ張って、力強い打球を飛ばそうという渡邉選手の打撃意識が見て取れる。

その一方で、アウトコース高めの直球に対しても5打数3安打の打率.600と好成績を残している。こちらは逆らわずにセンター前やライト前に弾き返していくケースが多くなっており、引っ張ることが難しい球に対しては無理のない打撃を心掛けていることがわかる。

また、インコースの真ん中に来る球に対しては7打数4安打の打率.571とこちらも優秀な数字を記録しているが、このコースに対しては右方向への安打が2本、左方向、センター前への安打がそれぞれ1本ずつと打ち分けている。アウトコース高めと異なり、内角の球は引っ張るのに適した球ではあるが、無理に引っ張ることなく、右方向に流すこともできる対応力の高さが示されていると言えよう。

直球を打った際の打球方向と、そこから見える傾向は?

次に、直球を打った際の安打全体の打球方向に目を向けていきたい。全24本の安打のうち、左方向とセンター方向の安打がそれぞれ9本ずつ、右方向への安打が5本、遊撃への内野安打が1本という結果となった。センター方向から左への安打が多いという傾向が表れているものの、特定の方向に偏ることなく、ある程度の打ち分けがなされていた。

本塁打の方向としては、左方向が1本、左中間方向が1本、センター方向が1本と、中堅から左方向にそれぞれ本塁打を1本ずつ記録していた。今シーズン唯一記録された逆方向への本塁打はツーシームを打ってのものであり、先述の通り、これらの3本塁打はすべてど真ん中の直球を打って記録したもの。やはり、甘い球に対しては強く引っ張って左方向に打球を飛ばすという姿勢が、本塁打の方向からもうかがい知れるところだ。

ここからは、直球を打った時とそれ以外の球種を打った時における成績の変化について見ていきたい。その結果は下記の通りだ。

渡邉選手の直球とそれ以外の成績【画像:(C)PLM】

打率や本塁打といった数字に加えて、出塁率、長打率、OPSといった各種の指標にも少なからず差が生まれていた。変化球に比べて直球に対する打撃の内容がかなり優れていることは、印象だけでなく数字にも表れていたといえよう。

変化球を打った際の打率.256という数字も決して悪いものではないが、長打率やOPSといった数字に示されている通り、打球の強さや塁打の期待値には大きな差異がある。やはり“直球破壊王子”が強打を発揮できる可能性が最も高いシチュエーションは、直球を捉えたケースであると結論付けられそうだ。

続けて、投手の左右による差にも目を向けたい。一般的に右打者にとっては、左投手よりも右投手のほうが打つことが難しいとされがちである。その通説通り、左投手の直球に対して22打数10安打の打率.454という素晴らしい数字を残しているが、右打者の直球に対する48打数14安打の打率.291という数字も、決して悪いものではない。直球であれば左右どちらの投手からも一定以上の打率を残せるところも特徴と言える。

直球だけじゃない! 得意とする変化球3つに対する、器用なバッティング

最後に得意としている変化球についても触れていきたい。まず、フォークに対しては打率.304と、速球ほどではないものの十分に優れた打撃成績を残している。また、7本の安打のうち3本が、低めのボールゾーンに落ちるフォークをヒットにしたものだ。低めに落ちるフォークは速球を待っていると反応してしまいやすい球種であるが、それでも空振りせずにヒットコースに飛ばすことができる点も強みといえよう。

他の球種の中ではスライダーに対して打率.310と、フォークよりも更に優れた数字を記録している。こちらは9本の安打のうち7本がストライクゾーン低めに来たスライダーを打ってのものとなっており、先述したフォークと同様、低めの変化球に対する対応力の高さが見て取れる結果となっている。

それに加えて、シンカーやツーシームといった球種に対しては打率.381と、直球を上回る素晴らしい打率を記録している。比較的ストレートに近い球速から変化を見せるという特徴を持っているこの2球種は、変化球の中ではやや直球に近い要素を持っている。これらの2球種をよく打っているのも、先述した直球への強さが理由の一つとして考えられそうだ。

また、この2球種に関しても、フォークと同様に低めのボールゾーンに落ちる球をヒットにしているケースが2本存在した。直球の場合はど真ん中の甘い球をきっちりと安打にするケースが目立っていたが、得意とする変化球に対しては低めの球を拾って安打にすることが多く、直球と変化球で打撃内容の違いが見て取れる点も興味深いところだ。

以上の結果を見ても、渡邉はその異名通りに、直球に対して一定以上の強さを見せていた。そして、渡邉が得意としているのは直球だけではなく、直球に近い球速のシンカーやツーシームに加えて、フォークやスライダーに対しても強さを見せるなど、直球以外の球への対応力も見せている点もポテンシャルの高さを示している。

“直球破壊王子”の名前通りの豪快な狙い撃ちと、ボールコースの球をも安打にする打撃センスを兼ね備えた渡邉。まだ25歳という年齢もあり、今後は打撃成績のさらなる向上も期待できそうだ。強打の二塁手という希少価値の高い存在となれるだけの才能を秘めた俊英が、今後もストレートを“破壊”し続けてくれるかどうか。独特の打撃技術を持った期待の若手に、これからも注目していく価値は大いにありそうだ。(「パ・リーグ インサイト」望月遼太)

(記事提供:パ・リーグ インサイト)

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