再びリバイバルを目指す日産が、新型フェアレディZに込めた想いとは

日産 新型フェアレディZ プロトタイプ(Z35型) [撮影:島村 栄二]

“時代に先駆けて挑戦し続ける日産”を象徴するフェアレディZ

2019年12月1日に行われた社長就任会見の様子

2019年12月、日産自動車の代表執行役社長兼最高経営責任者(CEO)に就任した内田 誠取締役は、会見で『“時代に先駆けて挑戦し続ける日産”ならではの価値をお客さまに提供するとともに、将来のモビリティのあり方を提案する』と宣言した。

その社長就任の記者会見のステージには、2台のクルマが並んでいた。1台は2019年秋に東京モーターショーで発表されたEV(電気自動車)のコンセプトカー「アリアコンセプト」。そしてもう1台は、初代「フェアレディZ」(S30型)だった。

S30型フェアレディZは、1969年にデビュー。手ごろな価格ながら世界のライバルにも引けを取らない性能と魅力的なスタイリングで、世界に旋風を巻き起こしたスポーツカーだ。中でも「Zカー」の愛称で支持された北米で大ヒット作となっている。まさに“時代に先駆けて挑戦し続ける日産”らしい1台だった。

“選択と集中”による構造改革『NISSAN NEXT』で明らかにされたニューモデル投入計画

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内田氏の社長就任から半年後の2020年5月28日、日産は“選択と集中”による持続的成長に向けた構造改革『NISSAN NEXT』を発表した。生産能力を20%削減し、身の丈に合った年540万台の生産体制とすることで効率化を図り、2023年度までに車種数も2割削減していく。

しかし行き過ぎた効率化が販売減を招いたことを踏まえ、ルノー日産三菱アライアンスの役割分担を再整理。日産はEVとスポーツモデル、そしてC・Dセグメントのモデルの改革と効率化を中心に担うとした。

18か月で12車種を投入、その象徴はあのクルマだった

構造改革が単なるリストラとならないためにも、18か月の間にグローバルで12車種のニューモデルを立て続けに投入すると宣言。「時代に先駆けて挑戦し続ける日産」の価値を、新しい魅力的な商品群でアピールするとした。

「NISSAN NEXT From A to Z」のタイトルと共に流された映像では、車名を示唆するアルファベット1文字を背景にした新型車のシルエットが次々に登場。初めに“A”。流麗なフォルムのSUVが現れた。これは電気自動車アリアの市販版だろう。

続けざまに様々なサイズの様々なモデルが登場し、最後の“Z”では…そう、明らかにスポーツカーのシルエットをしたクルマがトリを飾った! フェアレディZがモデルチェンジする! 予期せぬ発表に、日産ファンは大いに盛り上がった。

約20年の時を経て、再び日産改革の象徴となるフェアレディZ

フェアレディZを愛用した2人の経営者

Z32型フェアレディZ(1989~2000)

実は日産の内田社長は、前職の日商岩井勤務時代の1993年にフェアレディZを購入している。ガンメタリックの4代目フェアレディZ、Z32型(1989~2000)だ。奇しくもカルロス・ゴーン氏も、ルノー・日産入社前に在籍した米国ミシュラン社時代にZ32型フェアレディZを愛用していた。

バブル景気の波に乗り1989年に華々しく登場し世界で話題を呼んだZ32型も、後半はバブルの崩壊や日産の経営悪化の荒波の中でモデルチェンジも出来ず失速。結果的に2000年まで細々と生産を続け、いったんモデル終了となっていた。

リバイバルプランとNISSAN NEXT

日産リバイバルプランの象徴だったZ33型フェアレディZ(2002~2008)

その後2年のブランクを経て登場した後継の5代目フェアレディZのZ33型(2002~2008)は、ゴーン氏の日産就任後に打ち上げられた日産リバイバルプランの中で華々しくデビュー。日産復活の象徴となった。そして現社長の内田氏はちょうどその頃、2003年に日産へ転職している。

日産の快進撃が続く一方で、ゴーン体制の長期化と共に、行き過ぎた成長戦略がいつしか短期的な成果を求める体制となっていった。設備や技術開発への投資を控え、各販売車種のモデルライフの長期化を招く結果となってしまったのだ。NISSAN NEXTによる新商品群の集中投下は、こうした反省を踏まえて決定された。

内田氏がZ32のオーナーだったエピソードは、2020年9月16日に行われた7代目新型フェアレディZ プロトタイプのオンライン発表で初めて公に明かされた。『Zのファンである私が、今日、このフェアレディZ プロトタイプを発表できることを誇りに思う』という言葉の裏には、およそ20年の日産での経験や様々な想いが含まれていることだろう。

既にSNS上などでは、日産ファンの新型Zに期待するアツいメッセージが飛び交っているし、何より筆者自身もワクワクさせられている。正式な新型発表はまだしばらくかかりそうだが、その間に続々と現れるであろうまだ見ぬ新しい日産車の登場も、楽しみに待ちたいところだ。

[筆者:トクダ トオル(MOTA)/撮影:島村 栄二・NISSAN]

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