<熊谷6人殺害>犠牲の妻子に男性謝る「死刑にできず、ごめん」 大切な家族写真「頑張って生きなくちゃ」

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妻子3人の遺骨が安置されている寺を訪れて手を合わせる遺族の男性=16日午前10時20分ごろ、熊谷市内

 埼玉県熊谷市で2015年9月、男女6人が殺害された事件から5年が経過した。妻の加藤美和子さん(41)、長女美咲さん(10)、次女春花さん(7)=いずれも当時=を失った男性(47)は命日の16日、3人の遺骨が安置されている市内の寺を訪れ、冥福を祈った。今月、強盗殺人などの罪に問われたペルー人の被告(35)の無期懲役が確定することになり、極刑を求めていた男性は悔しさを募らせている。「気持ちの整理がつかない。亡くなった家族にどう向き合って供養していくか。3人のために尽くせたのか」。駆け抜けた5年間を振り返り、今も供養の形を模索している。

 市街地から少し離れた、のどかな田園風景が広がる熊谷市内の寺。男性は午前10時ごろ、家族のもとを訪れた。隣には墓地があるが、3人の遺骨は本堂に安置されている。「お墓に入れると遠くなってしまうような気がする。今は近くに感じられるので、これでいいのかなと思う」。妻が好きだったコーヒー、娘たちがよく買っていたお菓子を供え、静かに手を合わせた。

 昨年12月、ペルー人被告の控訴審で、東京高裁は一審さいたま地裁の死刑判決を破棄し、無期懲役を言い渡した。被告側は無罪を主張して上告したものの、検察側は「適法な上告理由が見いだせない」として断念。最高裁は今月9日、上告を棄却し、無期懲役が確定することになった。

 男性は「せめて死刑であれば、もう少し気持ちを切り替えられたのかな。これでは3人に顔向けできない。5年間で自分の力で残せたものはあまりない」と肩を落とす。

 家族のために何ができるか。今も考え続ける日々だ。2年前の9月には、県警が当時、不審者の逃走を周辺住民に知らせることを怠ったなどとして、県を相手取り損害賠償請求訴訟を提起した。しかし、県側は争う姿勢を示しており、お互いの主張は平行線のまま。「裁判はなかなか進まない。今は我慢しているところ」と、もどかしさを抱えている。

 今年3月には「一つの区切り」として、当時小学2年の春花さんが通っていた学校の卒業式に出席し、卒業証書をもらった。同じく5年だった美咲さんの卒業証書とともに自宅の子ども部屋に飾ってある。

 趣味の自転車では、ハンドルの真ん中に家族の写真を付けて、毎日のように川沿いのサイクリングロードを走る。富士山や長野にツーリングに行った際は現地で家族の写真を広げた。「連れていってあげている気分になる。それも供養の一つ」と考える。

 5年間、月命日には必ず寺を訪れている。時には家族が好きだった音楽を携帯電話で流したり、「これからもずっと一生欠かさず行くことで何か変われるのかな」と願う。

 「死刑判決にできなくて、ごめん」。今は家族に謝ることしかできない。それでも行くたびに「気持ちが安らぎ、勇気や力をもらえる」と心のつながりを実感する。判決は確定するが、「違う形で、闘える方法で家族を供養できれば」と、自らの無念さや被害者に寄り添った司法の在り方を訴えていくつもりだ。

 約20分後、手短に法要を済ませた男性は、穏やかな表情で寺を後にした。「もっと自分が頑張って生きていかなくちゃ」。家族の存在に背中を押され、また日々の生活へ、前を向いて。