タイヤが浮いても大丈夫?「ヤリス クロス」のオフロード性能を試す

©株式会社マイナビ

トヨタ自動車の新型車「ヤリス クロス」は低燃費、ユーティリティー性能、安心・安全性能といった全方位的な魅力を打ち出す都市型SUVだ。受注台数は発売から1週間ちょっとで約2万台と人気も高い。このクルマ、SUVとしてのオフロード性能はどうなのか。特設コースで試してきた。

4WDのモードセレクトを実践

ヤリス クロスはコンパクトハッチの新型「ヤリス」と共通の「GA-B プラットフォーム」をベースとし、新世代パワーユニットを搭載したアーバンSUVだ。試乗会には、SUV本来の4WD性能を試してほしいということで、オフロードを模したバンクやモーグルなどの特設コースが用意されていた。なので早速、ハイブリッド(HV)とガソリンエンジンの両モデルで乗り入れてみた。

コースには、岩山などを想定した高さ70~80cmほどの片側バンク、左右に凹凸のあるモーグル、砂浜などからの脱出を想定したローラーという3つの課題が設置されていた。試乗車は、電気式4WDシステム「E-Four」を搭載するHVモデルと4WDのガソリンモデルだ。

搭載するパワートレーンにより、異なるモードを選択できるのがヤリス クロスの特徴だ。E-Fourは「ノーマル」「TRAIL」「SNOW」、ガソリン4WDは「ノーマル」「MUD & SAND」「ROCK & DIRT」から、路面状況に応じたモードが選べる。

まずはE-Fourでバンクに侵入。右側のタイヤでバンクに乗り上げると、車体は左に20度ほど大きく傾いたものの、車体剛性が高いのでキシミ音などは発生しない。シフトレバー下のモードダイヤルを右に回して「TRAIL」を選ぶと、車体は前に進み始め、楽々と切り抜けることができた。

「ノーマル」に戻して次のモーグルに取り掛かると、左後輪が空中に浮いて激しく空回りを始めてしまい、車体はまた、前に進まなくなる。そこで再び「TRAIL」に切り替えると、空転するタイヤにブレーキがかかって回転が止まり、逆に接地輪の方にモーターのトルクが伝わって、こちらも乗り越えることができた。

ガソリン4WDに乗り換えると、こちらではマルチテレインセレクトで「ROCK & DIRT」を選ぶよう指示があった。

プロペラシャフトで前後輪を結ぶガソリン4WDでは、リアディファレンシャルの影響で片輪が空転すると、もう一方のタイヤにトルクが伝わらなくなってしまう。そこでシステムは、空転輪にまずブレーキをかけて、接地輪にトルクを伝えるようにする。

勾配のあるところでは、アクセルを強く踏むと滑ってしまってボディが後退し、怖いと思ってアクセルを抜けば、さらに下がってしまうという状況に陥りがち。それを避けるため、「ROCK & DIRT」では駆動輪の出力を少し鈍感にして、安心してアクセルが踏めるような仕組みとしているそうだ。このモードを選ぶと、バンクもモーグルも無事にクリアすることができた。

最後に挑戦したのは、海岸の砂地やフカフカの路面をイメージしたローラーだ。こうした場所では、ゆっくり駆動力をかけてしまうとどんどん車体が埋まる亀の子状態になってしまう。

ガソリン4WDでは「MUD & SAND」を選択。最初は前後輪がローラー上で激しく空転したが、しばらくすると車体は前に動いて脱出できた。その仕組みは、アクセルに対してスロットルの開け方を敏感にし、ドンッとエンジンの駆動力が出るようにしたうえで、ブレーキの介入はなるべく遅らせてやる、というもの。先の「ROCK & DIRT」とは駆動の伝え方の性格が異なっている。

ガソリンとHVの四駆性能、どう違う?

というわけで、特設コースを難なく走破して見せてくれたヤリス クロスの両モデルだが、具体的に、HVとガソリン車で4WD性能はどう違うのか。トヨタで四輪駆動を担当している技術者は以下のように説明してくれた。

「基本的に、2モデルとも四輪駆動の考え方は同じなのですが、前後がプロペラシャフトで直結するガソリン4WDモデルと、それが切り離されているE-Fourでは、トルクの出方や駆動力の特性が異なります。乗り比べてみると、ガソリンの方が“効いている”感覚が強いと感じられるのはそこのところで、前についている多板クラッチがリアディファレンシャルをコントロールする方式なので、前が回ると後ろはメカ的に必ず回ってくれるという、同時に押し出す感じがドライバーに伝わってきます。そして実際、リアの出力が強いのもガソリン4WDモデルです。2つのモード設定(マルチテレイン)があるのもガソリンモデルで、パワフルで余裕があるガソリンの方が、結果的に行ける路面の幅が広がったのです」

「ただ、例えば北海道のユーザーなど、『雪道でスタックしたら困るので四駆が必要だが、長距離走行が多いので燃費の良いものが欲しい』とおっしゃるお客様ならば、E-Fourという選択になるでしょう。さらに、プラスアルファの脱出能力もあるので、ハイブリッドはおすすめです」

こうしたオフロード性能の開発は、愛知県田原工場内の試験コースをメインに進めているという。そこにはいくつもの路面を用意し、「RAV4」や「ランドクルーザー」の開発も行なっているそうだ。

例えば、あらゆる場所を走破できることを目指したランクルの4WD性能を100とした場合、FFベースのRAV4は60くらいというのが前出の技術者の見方だ。では、ヤリスクロスはというと、より小型でオンロード志向だけれども、普通の生活の中でスタックするような場面を選んで試験を行っているので、数字的には40~50というところだという。

同氏によれば、オフロードについてはしっかりやっていこうというのがトヨタの考えで、今は上位モデルから順に技術を落とし込む、というやり方をしているそうだ。特に、先に出たRAV4と今回のヤリス クロスはFFベースで考え方が共通しているので、その知見は今回も十分にいかされている。

原アキラ

はらあきら