イノシシ急増、農業が危機

県内被害は10年で約30倍、生産者ら深刻さ訴え

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イノシシに破壊された田んぼの排水路=高畠町上和田

 本県のイノシシによる農作物被害が、ここ10年で30倍近くになっている。急増している地域では農家を辞める人や規模を縮小する人が出るなど深刻な状況だ。温暖化などに加え、東日本大震災に伴う東京電力福島第1原発事故がイノシシの増加につながったとの見方もあり、救済を求める声が上がっている。

 県みどり自然課と園芸農業推進課によると、県内のイノシシによる農作物被害額は2011年の原発事故以降、水稲やブドウ、リンゴなどを中心に年々増加。事故発生前は500万円にも満たなかったのが、13年度に1千万円を超え、18、19年度と7300万円に迫っている。

 このうち福島県と隣接する高畠町では、19年度の農作物被害額が1664万円と、ここ7年で約400倍に激増。隣の南陽市も18年度は前年の約60倍となり、1千万円を超えた。米沢市も19年度は335万円で、3年で約4倍となった。

 生産現場では救済を求める声が上がる。高畠町上和田の渡部清二さん(68)は稲の食害などに遭い、5年前に電気柵を整備した。仲間には収入が7割減ったコメ農家もいる。高畠が誇るマツタケの産地も荒らされ始めたという。

 イノシシは明治以降、県内で絶滅したとされたが、地球温暖化などの影響で県外から入り込み、県全域に生息する。増加と原発事故の関係について、福島大食農学類の望月翔太准教授(野生動物管理学)は「まったく影響がないとは言えない」と語る。「避難指示区域が設けられ、人の出入りが大幅に減ったことでえさが充実するなど繁殖に適した環境になった」と説明。その上で「駆除件数から推測すると、原発事故以降、福島県内でイノシシは増えている。それが奥羽山系を越え、山形に入ることもあり得る」と指摘する。

 宮城、福島両県も同様に被害は増加している。蔵王連峰に隣接する宮城県白石市によると、11年度から18年度までの間、東電に対して約9千万円の損害賠償を請求した。このうち捕獲・処分費名目で約4千万円の賠償金が出ているという。

 この賠償はイノシシ肉の「出荷制限」を根拠にしており、厚生労働省は「食品衛生法に基づく放射性物質の基準値を超えた場合、出荷を制限している」と説明。東京電力も「原発事故と因果関係のある被害が出た場合は適切に賠償する」(HD広報室)としている。

 ただ、本県は、イノシシの放射性物質検査について、原発事故直後は行っていたものの、11年途中から「県産イノシシの流通がほぼない」として対象としていない。被害の損害賠償請求も行っておらず、被害農家を救済する手だてはないのが実情だ。

 被害の著しい増加を踏まえ、南陽市では6月定例会の一般質問で取り上げられた。高橋弘議員は「原発事故以降、イノシシの生息数は増える一方。東電への賠償を検討すべきだ」とする。これに対して白岩孝夫市長は「県と調整し、研究する」との答弁にとどまっている。渡部さんは「被害は深刻だ。行政を中心に何らかの対応をしてほしい」と訴えている。