来客応対時の「お茶出し」や「お見送り」の忘れがちなマナー

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●来客応対時の基本マナーをチェック

世の中の大半の仕事は、人がいることによって成り立つ。そもそも取引先がいなければ仕事の受注がないわけだし、上司や先輩のサポートもなくいきなりバリバリと業務はこなせない。

多くの他人が関係してくる以上、相手に対する敬意やマナーが必要となってくる。だが、職場で使用するツールの使い方や業務上必要なタスクを先輩社員からレクチャーされることはあっても、ビジネスマナーをイチから教えてもらった機会がある社会人は少ないはずだ。そのような人は、無自覚のうちに礼節を欠いた態度をとってしまい、ビジネスチャンスを逸してしまう恐れがある。

そこで本連載では、筑波大学および神田外語大学、札幌国際大学の客員教授を務めながら、大学や官公庁などで「職場に活かすおもてなしの心」をテーマとした講演や研修を手掛ける江上いずみ氏に、社会人として知っておくべきビジネスマナーを解説してもらう。

多くの企業がテレワークを実施していますが、業務内容によっては取引先との対面による打ち合わせなど来客対応が必要である場合もあります。そのような職場においてお客さまを迎えたときは、相手に非常識な人間だと思われないよう、自身が会社の代表者であるという意識を持って接することが大切です。

お客さまに良い第一印象を与えてお迎えし、会議室・応接室まで礼を失することのないようご案内するまでのマナーとして、を、前回お伝えしました。

失礼がないようにするのはもちろん、心地よく過ごしていただけるよう、今回は来客応対時のマナー<お茶出し~お見送り>をご紹介したいと思います。

来客応対時の基本マナー <お茶出し~お見送りまで>

(1)お茶の出し方とマナー

お客さまにお出しする「お茶」には、わざわざ足を運んで来てくださったお客さまに、喉の渇きを癒してくつろいでいただくというおもてなしの心がこめられています。お茶の出し方にもマナーがありますので、ポイントを押さえて失礼な対応をしないように注意しましょう。

<お茶出しのタイミング>

お客さまをお迎えし、応接室・会議室などにお通ししたら、その旨を担当者に伝えることまでお話しました。その担当者にお客さまがいらしたことを伝えた時点で「お客さまにいつお茶をお出しするか」を、決めることになります。

「△△会社の○○様を応接室(会議室)にお通しいたしました」

と伝えた際の、担当者の返答により、判断するということです。

「ありがとう。すぐ行くよ」

という言葉が返ってきたのであれば、担当者が応接室に入って、などの挨拶が終わって全員が着席したタイミングでお茶を出します。

お客さまを応接室にお通しして、担当者に伝えたものの、会議が長引いているなど何らかの理由でお待ちいただかなければならない場合は、すぐにお茶の準備をし、

「お待たせして申し訳ございません」

とお詫びの言葉を添えてお茶を出します。

<お茶出しの手順>

お茶はお客さまに失礼のないよう、おもてなしの心を持って以下の手順で入れます。

1.お茶の量は、茶碗の7分目が目安です。喉が渇いているだろうと、並々と注いで出すのは上品ではありません。

2.人数分のお茶の入った茶碗と茶托(ちゃたく)は別々にお盆に載せて運びます。その際には万が一こぼしてしまったときなどに備えて、必ず布巾(ふきん)を携行します。お客さまの目の前にお持ちする布巾ですから、シミがあるようなものではなく、ぜひ清潔な白い布巾を携行しましょう。

3.お盆を胸の高さにして両手で持ちます。自分の息がお茶にかからないようにするための配慮として、胸元中央から少し横にずらした位置でお盆を保持します。

4.入室する際には、片手でお盆を持ち、必ずドアをします。2回のノックは「トイレノック」といって、「空室を確認するノック」です。「私が入ってもよろしいでしょうか」という「入室を確認するノック」は3回以上と覚えておきましょう。

ドアを開けたら

「失礼いたします」

と声をかけ、会釈をして入室し、ドアを閉めます。その際、ドアを閉める音には十分注意しましょう。大きな音を立てないようドアノブを手で持ってドアを閉めます。ドアによっては自動的に閉まるものがありますが、そのような場合でも音が出ないよう必ず手で閉めましょう。

5.入室後、お盆から直接お茶を出すのは不作法です。お盆を一度サイドテーブルに置き、そこで茶碗を茶托に載せます。

サイドテーブルがない場合には、下座のテーブル端にお盆を置かせていただきます。

テーブル上にまったくスペースがない場合には、左手にお盆を持ち、右手だけでお茶をお出しすることになります。そのような場合は

「片手で失礼いたします」

と声をかけてお出しします。

6.茶碗を茶托に置く際、たとえ濡れていなくても、必ず茶碗の底を布巾で一度拭ってから茶托にセットしましょう。運搬中に万一お茶が少しこぼれても、これにより出す直前に拭き取ることができ、茶碗と茶托がくっつくのを防ぐことができます。

7.お茶はお客さまの右側後方から両手でお出しするのが基本です。その際はお客さまに気付いていただけるよう、必ず

「どうぞ」
「失礼いたします」

と声をかけます。テーブルやお席の配置上、右側後方からお出しできない場合は、

「左から失礼いたします」
「こちらから失礼いたします」

と声をかけます。このような

「片手で失礼いたします」
「左から失礼いたします」

といった言葉を添えることは、お茶出しをする人自身のマナー度を示すことができます。お客さまに「あ、この人は右側後方から両手で出すことを知っている人、マナーを心得ている人なんだな」と思っていただくことができるわけです。ぜひプラスαのひと言を心掛けましょう。

8.お茶を出し終わったら、お盆を身体の横に添わせるようにして持ち、ドアの前で

「失礼いたします」

と挨拶、一礼して退室します。その際にもドアが「バタン」と大きな音を立てないよう、手でドアノブを押さえながら静かに退出しましょう。

●お茶を出す順番にもマナーあり、コーヒーの場合は?

<お茶を出す順番>

お茶を出す順番はお客さまの上位者からが基本です。 上位者が分からないときは、最上席にお座りになっている方から順番にお出しします。そのためにも会議室や応接室におけるお客さまに出し終えたら、社内の上位者から出します。

<お茶の接待のポイント>

・茶碗に絵柄がある場合は、絵柄がお客さまから見て正面になるよう配慮して出します。

・茶托に木目がある場合は、木目がお客さまに対して横向きになるように置きます。

・テーブルの上の書類を濡らさないように書類を避けてお茶を置きます。

・テーブルに書類が広がっていてお茶を置くスペースがないからといって、勝手に書類を動かしてはいけません。必ず自社の担当者に

「お茶はどちらにお置きしましょうか」

と伺い、指示に従いましょう。

・お茶だけではなくお菓子も出すときは、先にお菓子を出してからお茶を差し出します。その位置はご飯とお味噌汁の位置と同じと覚えてください。食べるものであるお菓子(ご飯)が左で、飲むものであるお茶(味噌汁)が右です。

(2)出されたお茶のいただき方

今回のビジネスマナー道は、お茶の出し方のみならず、訪問者がお茶をいただく際のマナーについてもご紹介したいと思います。

先にもお伝えしたように、お茶はお客さまにくつろいでいただきたいというおもてなしの心がこめられたものですから、せっかく出していただいたお茶はひと口でも口を付けるのがマナーです。

ただし、お茶を出されたら、何も言わずに頂戴するようなことはせず、ひと言

「頂戴いたします」
「いただきます」

などの挨拶をしてから口に運びます。 そして

(1)左手を茶托に添え、右手で蓋のつまみを持ちます。

(2)蓋のしずくが湯のみの中に入るようにゆっくりと蓋を立てて「露切り」をします。

ではその蓋をどのようにテーブル上に置けば良いでしょうか。

A : 蓋をそのままテーブル上に置いてしまうと、水滴で蓋のかたちの輪っかをテーブルに付けてしまうことになります。
B: 蓋をそのまま茶托に立てかけて置いても、やはり水滴がテーブルに落ちてしまう可能性があります。
C : 蓋を裏返して、テーブル上に置くと、つまみがあるのでゴロンゴロンと不安定になります。
D : そこで正解なのが、蓋を裏返して、茶托の下に挟むという方法です。

(3)蓋を裏返す、つまり蓋の裏を上向きにして、右手で茶托の右側下方に差し込むわけです。これによって、蓋が安定しますので、とてもスマートな印象を与えます。

(4)その上で、お茶をいただくときは、左手を茶托に添えながら、湯のみを右手で取り、左手を底に添えて両手でいただきます。

日本茶は両手でいただくのがマナーですが、後ほどお伝えするコーヒー・紅茶のカップは片手で持つのがマナーです。

(5)お茶を飲み終えたとき、あるいは部屋を退室するときは、出されたときと同じように蓋を元通りにします。

余談ですが、蓋の取り扱い方ということで言うと、吸い物・味噌汁・丼ものなどの蓋を、食べ終わるとひっくり返して椀の上に置く人が多くいます。しかしこれは不作法です。

お店のスタッフの方に食べ終わったことを知らせるために裏返して置くのだという人がいますが、漆(うるし)など、椀の模様を傷付けてしまう原因になります。食べ終わったら蓋は裏返したり斜めにかぶせたりせず、出されたときと同じ状態にして椀に載せましょう。

(3)コーヒーの出し方とマナー

会議や打ち合わせが長引いたときに、お茶に代わる2つ目の飲み物として、コーヒーをお出しするのも素敵な心づかいになります。コーヒーには、議論によって渇いた喉を潤す水分補給の他に、気分転換や、カフェインによって脳を活性化する意味もあります。

ではお客さまにコーヒーや紅茶を出す場合には、どのような配慮が必要でしょうか。

<コーヒーカップの持ち手の位置>

コーヒーカップをセッティングするとき、持ち手を右側にするか、左側にするかは諸説ありますが、右と左、どちらが良いとか悪いとかいうことはありません。

出されてすぐに飲めるように持ち手を右に向けて出すのが、ブラックで飲むことが多い「アメリカ式」です。ブラックで飲むのであればスプーンを使う必要がないので、右手ですぐに飲めるように右側に持ち手がくるように置くわけで、ある意味アメリカらしい合理的なセッティングといえます。

反対に、砂糖やミルクを入れ、右手でスプーンを使ってかき混ぜる際、左手で持ち手をつまむために、持ち手を左側に向けて出すのがイギリス式です。イギリス式は、左手で持ち手を軽く押さえ、右手で砂糖やミルクを入れてスプーンで混ぜるのに適しており、行儀作法を重んじるイギリスらしい置き方です。いただくときは、右手に持ち手を替え、ソーサーの上で右向きに半回転させてから持ち上げます。

現在の日本では、高級ホテルやレストラン、飛行機の機内においても、カップの持ち手を右側にしてセットするのが主流です。どちらにするにしても統一することが大切。複数の人にお出しする際に、ある人は持ち手が右側、隣の人は持ち手が左側、とバラバラにならないよう注意しましょう。

ただし、コーヒーカップにワンポイントや柄が入っている場合は、その絵がお客さまの正面にくるようにして出します。

また、お茶のいただき方でお伝えしましたが、お茶碗でお茶をいただくときは両手で、コーヒーカップでコーヒーや紅茶をいただくときは片手で持つのがマナーです。コーヒーカップを持ち上げた際には、左手を添えるようなことはしないように気を付けましょう。

<砂糖・ミルク・スプーンの載せ方>

コーヒーにミルクやお砂糖、スプーンをお付けする場合は、ソーサーの上に置きます。

スプーンは持ち手が右側になるように、なおかつカップの手前に置きます。砂糖はスティックタイプであれば、スプーンに沿わせて置きます。角砂糖やポーションのミルクはスプーンの左側に置きます。

●お見送りは状況に合わせて応対

(4)お見送りのマナー

お客さまへの応対の最後を締めくくるのが、お見送り時のマナーです。快くお帰りいただけるよう、礼を尽くしてお見送りすることが大切です。

お客さまを見送る場所は、部屋の外、エレベーター前、玄関先など、相手との関係や状況によって違います。

<部屋の外で見送る場合>

お互いにある程度親密である場合、お客さまと同等の立場である場合は、会合を行った部屋の外で見送りするケースもあります。丁寧に挨拶をし、

「こちらで失礼いたします」

と深くお辞儀をしてお見送りしましょう。

<エレベーターの前で見送る場合>

エレベーターホールまで案内し、△▽の上下ボタンを担当者が押してエレベーターを待ちます。エレベーターが到着したら、

「本日はありがとうございました」
「こちらで、失礼いたします」

と挨拶をし、お客さまが乗り込むのを確認します。エレベーターのドアが完全に閉まりきるまで、もう少し言えばエレベーターが動く音がするまで、深くお辞儀をして、見送ります。

<玄関先で見送る場合>

目上の相手や初めて来社した相手を見送る場合は

「玄関までお送りします」

と言ってロビーもしくは玄関の外までお見送りします

でお伝えしたように、コートを脱ぐ場所は社屋に入る前であり、従ってコートを着用するのも社屋の外に出てから身に付けるのが基本です。おそらくそういったマナーを心得ているお客さまは、どんなに寒くてもコートを着用せずに玄関をに向かうに違いありません。そのようなときは、コートを手にかけたまま外に出ようとするお客さまに

「お寒いですからどうぞこちらでお召しになってください」

と声をかける心づかいを持って「一歩上をいく接客応対」をしていただきたいと思います。

お客さまが徒歩でお帰りになる場合も、ご自身の車やタクシーでお帰りになる場合も、お客さまの姿が見えなくなるまでお見送りします。

マナーを心得ているお客さまは、社屋を出て最初の角で振り向いて一礼する方がいらっしゃいます。そのときに訪問先の担当者がきちんと立てって見送ってくれていると、とても誠実な印象を受けるものです。


このようなコート着用を促す言葉掛けや、見送る側、見送られる側のお辞儀など、他社を訪問するときのマナー、来客をお迎えするときのマナー、その双方を理解できてこそ円滑なコミュニケーションがはかれます。相互方向への心づかいと言葉がけをして、気持ちよく訪問・接待ができるように心掛けていきましょう。

来客応対時のマナーにはこのような様々なポイントがありますが、基本を分かった上で、お客さまに合わせて臨機応変に対応していくことが大切です。こうした相手の立場に立った誠意ある対応でお客さまに満足感を与えて、人と人、会社と会社のさらに良好な関係を築いていただきたいと思います。

挿絵 : 木内はな実

江上いずみ

えがみいずみ