全国高校ラグビー100回目の冬<下> 長崎県勢の軌跡 記者が見た名勝負3選

 ノーサイド直前の逆転劇、シード校撃破、ゴールをそれたプレースキック…。高校ラガーマンの聖地「花園」(大阪府東大阪市)では、これまで数々のドラマが生まれてきた。長崎県勢も全国の精鋭相手に懸命のプレーを披露。歴史に名を刻んできた。以下、記者が見た県勢の名勝負3選-。

第87回大会準々決勝 長崎北陽台 14-10 天理(奈良) 耐え抜いた最後の猛攻

 ノーサイド直前の天理(奈良)の猛攻に耐え抜いてつかんだ勝利だった。
 前半は天理ペースで試合が進んだ。長崎北陽台は3回戦の大分舞鶴戦でFB山崎駿が左脚を骨折。バックスの主力を欠き、展開力勝負で後手に回った。さらにノーシードの長崎北陽台はこの大会4試合目、Bシードの天理は3試合目。疲労度の違いもあったのか、17、21分にトライを奪われて10点リードされた。28分にナンバー8山内健太郎のトライ(ゴール)で3点差に詰めた後も、天理の優位は動かなかった。
 流れが変わったのは後半15分すぎ。長崎北陽台は山内、フッカー小坂拓哉を軸に徹底したFW勝負を選択した。持ち味の展開ラグビーを封印。一歩一歩、前に出た。迎えた27分、ラックサイドを突いて地道に前進して、最後はフランカー高岸拓也が逆転トライ(ゴール)。この試合初めて14-10とリードを奪った。
 だが、ここからが長かった。ロスタイム、自陣ゴールライン間際の攻防。時計の針が30分を指したまま止まっている中、天理の猛攻は途切れずに続いた。押し込まれてしまえば、このチームの1年が終わる。そんな絶体絶命の状況下、選手たちは耐えた。一人一人が体を張って耐え抜いた。そして最後は主将のSO村上大記が外にボールを蹴り出してノーサイド。監督の松尾邦彦は「精神力の勝利。生徒たちに感謝の気持ちしかない」と目を潤ませた。

【第87回大会準々決勝、長崎北陽台―天理】ノーサイド直前の天理の猛攻を耐え抜いた長崎北陽台=花園ラグビー場

 当時の3年生が1年生だった冬。長崎北陽台は準々決勝で伏見工(京都)に敗れた。後半終了間際に逆転したが、ラストワンプレーで再逆転された。泣き崩れた先輩たちの姿…。あの悔しさは晴らさなければならない。チームはその時に先輩たちが使用したジャージーで天理戦に臨んでいた。そして鮮やかにリベンジして見せた。
 試合後、FWを鍛え上げたコーチの浦敏明が選手たちをたたえた。「バックスのタレントは天理が上だったから、FW勝負にこだわったのだと思う。両手で当たる、肩でしっかりサポートするというボールキープの基本をやり通したのが勝因。生徒たちの集中力は見事だった」
(敬称略、学校名は当時)

第73回大会3回戦 長崎北 22-19 秋田工 攻撃的タックルで金星

 無欲のフィフティーンが東の横綱を倒した。ノーシードの長崎北がAシードの秋田工に22-19で逆転勝ちして、初の8強入りを果たした。
 監督の緒方広道から「失うものは何もない。しっかりディフェンスをやって、この一戦にすべてをかけてこい」と送り出された選手たちは、指示通りに攻撃的なタックルを浴びせ続けた。秋田工監督の黒澤光弘が「一生懸命にまじめで、ひた向きだった」と評したディフェンスで、試合前の予想をひっくり返した。
 まずは前半2分、ナンバー8神辺光春のPGで先制。9、20分にトライ(1ゴール)を奪われて3-12とリードされたが、選手たちの集中力は途切れなかった。FW陣の健闘、金子真、満井一貴のHB団の好キックなどもあり、徐々にリズムを取り戻した。
 完全に主導権を握ったのは26分。WTB鐘ケ江義裕がタッチライン際を走り抜けて右隅に飛び込むと、後半7分にWTB吉田尚史が速攻からトライ(ゴール)。15-12と逆転に成功した。さらに25分、CTB深堀敏也が試合の大勢を決めるトライ(ゴール)。その後の秋田工の反撃を1トライ(ゴール)に抑え、歓喜のノーサイドを迎えた。

【第73回大会3回戦、長崎北―秋田工】後半25分、長崎北のCTB深堀が試合の大勢を決めるトライ=花園ラグビー場

 試合後、主将の神辺は「勝っていいのかなという気がした」と驚きと喜びが入り交じった表情で笑った。緒方も「相手を捕まえにいくのではなく、倒しにいっていた。ここに来てプレーの質が高まっている」と選手たちの成長に目を細めた。
 長崎北は続く準々決勝もBシードの大阪工大高に24-13で快勝して4強入り。準決勝は東農大二(群馬)に10-22で敗れたが、冬の花園に旋風を巻き起こした。
 この冬だけを取り上げると順風満帆なように見えるが、一度、チーム崩壊の危機があった。6月の県高総体決勝で長崎北陽台に16-18で敗れた後、3年生は継続か受験専念かで悩んだ。結果、全員が継続を選択。花園県大会決勝でライバルに10-5で雪辱した。
 花園4強という“勲章”を胸に帰郷した後、神辺は「控えのみんなの力とあの決勝があったから、花園であそこまでやれた」とコメントした。
(敬称略、学校名は当時)

第79回大会2回戦 長崎南山 13-12 啓光学園(大阪) 終了間際に劇的トライ

 鮮やかな花園デビューだった。初出場の長崎南山が初戦で北見北斗(北海道)に50-7で圧勝すると、2回戦で前年度優勝のBシード啓光学園(大阪)に13-12で逆転勝ち。4点ビハインドで迎えたノーサイド直前、高校日本代表入りしたロック江口廣一郎が劇的なトライを決めた。
 優勝候補の一角に初出場校が挑んだ一戦。大方の予想は「啓光優位」だったが、長崎南山は県勢としては異例の平均体重92キロという大型FWを生かして、互角の勝負に持ち込んだ。FWだけではなく、バックスも日本代表として2007年、11年のワールドカップ(W杯)に出場したCTB平浩二ら、タレントがそろっていた。
 試合は立ち上がりに先制トライを許した後の前半25分、SH小林雄一のインゴールパントをWTB永留健吾が押さえて5-5。後半14分、豊富な運動量でFWをけん引したフランカー森勝己がPGを決めて、8-5と勝ち越した。22分にトライ(ゴール)を奪われて8-12とされたが、プロップ紙田周平、フッカー中山真一、フランカー久保惠亮らを軸にした大型FWがかけてきたプレッシャーは、最後の最後に効いてきた。
 残り1分、敵陣ゴール前ラインアウト。ナンバー8末永敬一朗からボールを受けた江口が、ディフェンスを振り払ってインゴールへ。この年の長崎南山を象徴する身長186センチ、体重107キロの巨漢は「サインプレー、ゴールラインが見えたので絶対に取ろうと思った」と胸を張った。監督の市山良充は「スクラムとモールを押せたのが勝因。精神的にも圧力をかけられた」と会心のゲームを振り返った。

【第79回大会2回戦、長崎南山-啓光学園】前年度優勝校を倒して抱き合って喜ぶ長崎南山の選手たち=花園ラグビー場

 これで勢いに乗ったかに見えたが、長崎南山は3回戦でまさかの“終戦”を迎える。同じくノーシードの盛岡工(岩手)と14-14で引き分け、抽選で涙をのんだ。
 主将の中山が引いた封筒の中にあった文字は「次回出場権なし」。残り2分まで7点リードしながら、最後の反撃を止められなかった。中山は「(2回戦に比べて)ひた向きさが足りなかった。FWは負けていなかったのに…」と悔やまれる敗戦に唇をかんだ。(敬称略、学校名は当時)


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