先発陣は盤石も打線の援護に恵まれない敗戦が最多…データで見る阪神の前半戦

阪神・矢野燿大監督【写真:津高良和】

開幕から4勝10敗で最悪のスタート、甲子園に戻ると一転快進撃

阪神は9月に入ってから借金生活に陥ることなく、リーグ連覇へのカウントダウンを始めた巨人に何とか食らいつこうと戦いを続けている。そんな阪神のペナントレース前半戦を、得点と失点の「移動平均」を使って、チームがどの時期にどのような波に乗れたかを検証する。「移動平均」とは、大きく変動する時系列データの大まかな傾向を読み取るための統計指標。グラフでは9試合ごとの得点と失点の移動平均の推移を折れ線で示し、「得点>失点」の期間はレッドゾーン、「失点>得点」の期間はブルーゾーンとして表している。

阪神の得失点推移グラフ【図表:鳥越規央】

開幕からの5カードすべてビジターだったことが響いたのか、4勝10敗と最悪のスタート。この間、クオリティスタート(QS、6回以上・自責点3以下)は8試合と先発投手は機能していたが、逆転負けが5試合。昨季は盤石だった救援投手陣の不調で、試合を落とすことが目立った。また、負けた試合はすべて3得点以下で、得点力の課題も露呈した。

しかし、甲子園に戻ると快進撃に転じ、5カードで9勝3敗1分とビジターで抱えた借金を一気に返済。先発投手の安定もさることながら、救援投手陣も徐々に安定してきた。特に7月17日から救援投手の登板機会のあった7試合連続で自責点0を達成。また、マルテの離脱により、4番サードのポジションを任された大山が4本塁打、ボーアが3本塁打、サンズが3本塁打と主軸が広い甲子園で長打力を発揮した。特にサンズの活躍は目覚ましく、打率3割超え、OPSも1に迫る勢いで、得点圏打率はダントツのリーグ1位。昨季リーグ最下位だった阪神の得点力の上昇に貢献している。

中堅・近本、遊撃・木浪、捕手・梅野「センターライン」に安定感

次に、各ポジションの得点力の優劣を、両リーグ平均と比較。その弱点を、ドラフトでどのように補って見たのかを検証する。

阪神のポジション別得失点(2019年)【図表:鳥越規央】

グラフでは、野手はポジションごとのwRAA、投手はRSAAを表しており、赤ならプラスで平均より高く、青ならマイナスで平均より低いことになる。

阪神のポジション別得失点(2020年)【図表:鳥越規央】

サンズが入る左翼と梅野が入る捕手ではプラスの貢献が見えるが、それ以外のポジションではリーグ平均の攻撃力には未達。昨季から懸案となっていた得点力はそれほどの改善があったとはいえないだろう。ただ、昨季はリーグ最下位だった「DER(グラウンド内に飛んだ打球をアウトにした割合)」は68.7%とリーグ平均を上回っている。失策53が目立ってはいるが、守備力に改善の兆しは見えている。特に中堅の近本、遊撃の木浪、捕手の梅野のいわゆる「センターライン」に安定感が増してきた。

先発投手は、チームの貯金形成に大きな貢献をしていると言える。西勇、青柳、秋山の3本柱に加え、シーズン途中から高橋がローテに加入し、盤石の先発陣が形成されている。QS率58.9%は12球団でトップ。一方で、QSを達成したにもかかわらず、打線の援護に恵まれず敗戦投手となってしまう「タフロス」も10で12球団最多。勝ち運に恵まれないケースも少なくない。

昨季、大きなプラスの貢献を示していた救援投手陣は、ジョンソンやドリスが抜けた穴は大きかったようだ。昨季の救援投手陣の奪三振率は9.9、FIPは3.13とリーグ随一の安定感を誇っていたが、今季の奪三振率は8.0(リーグ4位)、FIPは3.93(リーグ3位)とアドバンテージが取れている状況にはない。シーズン途中からクローザーに任命されたスアレスは、当初ランナーを許す場面も見受けられたが、徐々に改善し9月以降のWHIPは0.44と安定。スアレスに追随する救援投手陣の底上げが急務となっている。

阪神の打順別攻撃力【図表:鳥越規央】

矢野監督は「3番が決まらんからしんどい」と嘆いてたが、打順別攻撃力のデータ上、アドバンテージが取れている打順が全くなし。梅野を2番に据えるなど試行錯誤をしているが、現在最も信頼できるサンズの前を打つ上位打線の出塁率改善が今後の大きな課題となってくるだろう。鳥越規央 プロフィール
統計学者/江戸川大学客員教授
「セイバーメトリクス」(※野球等において、選手データを統計学的見地から客観的に分析し、評価や戦略を立てる際に活用する分析方法)の日本での第一人者。野球の他にも、サッカー、ゴルフなどスポーツ統計学全般の研究を行なっている。また、テレビ・ラジオ番組の監修などエンターテインメント業界でも活躍。JAPAN MENSAの会員。一般社団法人日本セイバーメトリクス協会会長。

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