原爆投下75年、被爆体験は後世に伝えられるか 継承活動の若者100人アンケートから見えたもの

被爆者の体験を朗読する筑紫女学園大の学生たち=7月1日、福岡県太宰府市

 広島や長崎への原爆投下から75年がたち、被爆体験の継承の重要性は増している。共同通信は今年、継承活動をする若者100人に、日々の活動や課題、核兵器廃絶を巡る認識などを尋ねたアンケートを実施した。被爆体験がなくとも、惨禍を受け継ごうと活動する若者たち。彼らをいま何を考え、行動するのか。(共同通信=山上高弘、小川美沙)

 ▽誰もが関われる

 「8月9日、昼前、突然フラッシュをたいたように天井が光ったと思ったら、バサッと落ちて来たんです」

 新型コロナウイルス禍が続く7月1日、75年前の長崎原爆による被爆体験を朗読したのは、福岡県太宰府市にある筑紫女学園大の学生6人。継承活動に取り組む「エフコープ生活協同組合」(同県篠栗町)が朗読を録音し、インターネット上で公開する取り組みの一環だ。

朗読の録音に立ち会った山口美代子さん

 長崎の爆心地から1・4キロで原爆に遭った山口美代子さん(89)=福岡市=はその場に立ち会った。「自分の体験を語ってくれてありがとう」と何度も涙を拭い「戦争は絶対だめだということをこれからも伝えてほしい」と願った。

 学生6人の身内に被爆者はいない。大学で学んでいる社会福祉学の成り立ちが、戦災孤児への支援など戦争と深く関わりがあったことを知り、活動に興味を持ったという。4年生の山下莉奈さん(22)は「誰もが継承活動に関われると実感した。同世代にも被爆者の思いを伝えていきたい」と話した。

 ▽「継承可能」6割

 若者100人へのアンケートは6~7月、被爆体験の聞き取りや語り部、核廃絶のための署名活動などをしている団体や個人の協力を得て実施した。地域を限定せず、10~30代を対象にオンラインで回答してもらった。

 被爆者がいない世になっても継承は可能と前向きに考える人は計57・0%に上った。内訳は継承が「十分可能」は13人、「ある程度は可能」は44人。一方で「可能だが、不十分」と回答した人も38人と一定数を占め、不安や危機感を抱いている実態も明らかになった。理由では「原爆の惨状を体験した人の持つ、生の迫力そのままを再現するのは難しい」(28歳女性)といった発信力の違いを指摘する声が目立った。不可能はゼロだった。

 継承の取り組みについては、「進んでいる」は5人で「ある程度進んでいる」の52人と合わせて57・0%だった。共同通信が今年、被爆者1661人へ実施したアンケートでは、同様の回答が計41・5%にとどまり、認識に差が出た。

 被爆者の悲願である核兵器廃絶の実現を、若者たちはどう見ているのか。

 若者へのアンケートでは「近い将来に可能」「遠い将来に可能」は計56人(56・0%)に上った。一方、被爆者1661人へのアンケートでは計26・4%だった。

 2017年、世界の若い世代を中心とした非政府組織(NGO)「核兵器廃絶国際キャンペーン」(ICAN)が、核兵器禁止条約の採択に貢献し、ノーベル平和賞を受賞した。若者たちが実現に前向きな背景には、こうした成功体験の影響があるとみられる。

 

 ▽「意識高い系」

 若者たちが継承活動を始めたきっかけは何なのか。

 「被爆体験を聞いて心が動いた」が25人で最多。「平和学習に影響を受けた」が23人、「社会貢献したいとの思いがあった」も22人と、入り口は一様でないことが分かった。

 一方、切実な悩みや不安もにじんだ。50人が活動の課題に「学業や仕事との両立」を挙げた。「周囲の理解を得られていないと感じた経験」があると答えた人は54人いた。「友人から『特殊な活動をしている』と特別視される」(19歳男性)、「仕事とみなしてもらえなかったり、『意識高い系』だと思われて敬遠されたりした」(37歳女性)との声もあった。

 ▽環境づくりを

 アンケートでは今後も活動を続ける意思を示した若者は8割を超えたが、いかに継承の芽を育て、輪を大きくしていくかが課題となっている。

 被爆者の平均年齢は83・31歳(3月末時点)で、体験を語れなくなったり、鬼籍に入ったりする人が年々増える中、若者の不安を解消し、後押しすることは急務だ。

筑紫女学園大の学生たちに声を掛ける山口美代子さん(右端)

 被爆体験の継承に詳しい川野徳幸・広島大平和センター長は「次世代による継承は欠かせないにもかかわらず、草の根の市民活動が定着していない日本ではまだ十分に受け入れられていない」と分析する。その上で「平和教育などを通じ『なぜ継承しなくてはいけないのか』を理解してもらい、若者たちが活動しやすい環境づくりを進めることが大切だ」と語る。

© 一般社団法人共同通信社