スズキ「ハスラー」の大幅進化で気になる「クロスビー」の今後

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スズキの新型「ハスラー」がいい出来だ。プラットフォームを刷新したことに加え、数々の新機能を搭載するなど、スズキの本気を感じさせる1台に仕上がっている。ハスラーがここまでくると、気になるのは「クロスビー」というクルマの存在意義だ。

スズキの新たな基幹車種に? 進化した「ハスラー」

新型ハスラーの報道向け資料を見ると、「スズキ初採用」や「軽自動車初採用」といった項目が多いことに気が付く。軽自動車のSUVとして、初代から人気を得てきた車種だからというだけではなく、スズキがハスラーを同社の中核車種に育てていこうとしているような印象をそこから受けた。

自動車メーカーは、新しい技術や初採用となる装備を主力車種や中核となる車種から展開していく傾向にある。それによってメーカーの存在意義を消費者に示したり、問うたりするためだ。

スズキには「アルト」という基本車種があり、近年人気のハイトワゴンの代表としては「ワゴンR」がある。この2車種がスズキという自動車メーカーを牽引してきた。

もちろんほかにも、スーパーハイトワゴンの「スペーシア」や、悪路走破性にたけた「ジムニー」など、スズキを特徴づける軽自動車はある。ただ、スズキの軽自動車各車および新型ハスラーが採用している新プラットフォーム「HEARTECT」(ハーテクト)を最初に取り入れたのは、2014年に発売となった現行型アルトだった。ワゴンRでいえば、環境技術の「エネチャージ」を2012年に初めて搭載したのがこのクルマだ。これが発展し、今日ではほとんどのスズキ車がマイルドハイブリッドを採用している。これらは、アルトとワゴンRがスズキの主力商品であったり、中核モデルであったりする証である。

アルトは初代の発売から41年、ワゴンRは27年の歴史を積み上げている車種だが、ハスラーは2014年の初代発売からまだ6年しか経っていない。それにもかかわらず、新型ハスラーのためにスズキは、自然吸気エンジンとベルト式無段変速機(CVT)を新たに開発した。その新エンジンには、スズキの軽自動車として初めてとなる「デュアルインジェクション」と「クールドEGR」を採用。これらの技術は登録車の「スイフト」で採用を始めていたが、軽自動車としては新型ハスラーが初めて用いることになる。

さらに、スズキとして初めてという構造用接着剤を車体の溶接部分に用い、わずかな隙間を埋めることにより、車体剛性をより高めている。また、国内の軽自動車として初めて(2019年12月時点、スズキ調べ)となる高減衰マスチックシーラーを採用し、室内の静粛性を高めた。これらにより、新型ハスラーの乗り心地と静粛性は、軽自動車とは思えないレベルにまで高まっている。室内装備では、スズキ初の9インチHDディスプレイを採用したナビゲーションを注文装備に設定している。

以上のように、新型ハスラーは多くの新技術や新機能を採用して登場した。このクルマに対するスズキの期待が、いっそう高まっていることを感じさせる。

実際にしてみると、ことにガソリンターボエンジン車においては、走行性能や乗り心地において、登録車と区別がつかないほどの性能の高さを実感できた。まるで上級の車種に乗ったような感覚だ。そこで頭に浮かんだのが、登録車のSUVであるクロスビーのことだった。

次回作のハードルが高まった「クロスビー」

クロスビーは初代ハスラーが登場してから3年後の2017年に誕生。ワゴンのパッケージングと魅力的な造形、そして、SUVの楽しさを掛け合わせた小型クロスオーバーワゴンである。ベースとなっているのは、スズキの登録車として人気を得ているハイトワゴン「ソリオ」だ。

写真で見た限りはハスラーにそっくりで、軽の拡大版かと思われた。だが、実車を見ると、車体外板の湾曲した面には張りがあり、より立体的な造形となっていて、登録車としての上質さを見て取ることができた。

このクルマもまた、スズキとして初となる1.0リッターの直噴ガソリンターボエンジンとモーターを組み合わせたマイルドハイブリッドを採用したり、スズキの小型車として初となる後退時の衝突軽減ブレーキを装備したり、スズキの小型車として初採用の3Dビューやライト自動消灯システムを搭載するなど、ハスラーの登録車版というだけではない商品力を備えていた。

クロスビーの走りも上質だ。ガソリンターボエンジンとマイルドハイブリッドの組み合わせにより、速度調整のため加速をさせようとした際には、モーターの補助があることによって無暗に回転を上げずに済み、騒音を増大せず、滑らかに速度を上げていくことができる。たっぷりとした寸法の座席は、張りのある座り心地で体を確かに支え、乗車感覚を快適にしてくれる。前年に登場したクロスオーバー車「イグニス」とも違った、趣のある選択肢となりえる車種だといえる。

しかし、新型ハスラーを目にし、実際に試乗をしてみると、クロスビーの影が薄くなってしまうのではないかと勝手ながら心配になってきたのである。

新型ハスラーの開発者も、2019年のモーターショーに出展した際には「リッターカーにひけを取らないと好評だった」とした上で、「次のクロスビーの商品企画は難しくなるだろう」と率直に語っている。そしていまや、「ハスラーがスズキのイメージリーダーとなり、自由な移動という価値を最も示すことができている」というのである。

開発者が「コンセプトの段階から新技術を入れたいと考え、実現してきた」と語る新型ハスラーは、それほど商品性の高いクルマに仕上がっているのだ。

新型ハスラーに乗ってみて思ったのは、これまでスズキを牽引してきたハイトワゴンやスーパーハイトワゴンのような空間の広さもあり、初代とは明らかに違う新たな魅力が加わっていることだ。すなわち、消費者が求めるあらゆる要素を1台に集約し、今日の軽自動車に期待される商品性の集大成として結実させたといえるだろう。

惜しむらくは、運転姿勢を正す機能の1つである「テレスコピック」(ハンドルの位置を前後方向に調整できる機構)が採用されなかったことだ。これによって、運転することを心底楽しむことが難しくなっている。テレスコピックを採用していないのは、実はクロスビーも同様である。売れそうな要素にばかりに目が行き、クルマの基本が完成されていない。

次のリッターカーとしてのソリオ、イグニス、クロスビーなどは、新型ハスラーがここまで飛躍した以上、さらなる高みを目指すことになるに違いない。その際は、テレスコピックを採用することにより、クルマとして完成された進化を満喫できることが求められるだろう。

御堀直嗣

みほりなおつぐ