ワークマンに続け!ECで爆売れ「スーツ作業着」、コロナ禍であえて実店舗を作るワケ

コロナ禍で国内外の有名アパレルメーカーが経営破綻や店舗撤退に追い込まれる中、スーツ型作業着「ワークウェアスーツ(WWS)」を販売するオアシススタイルウェアが今月、東京駅の八重洲地下街に初の実店舗をオープンしました。

これまでECで売り上げを伸ばしてきた同社が、なぜこの時期に実店舗を出したのでしょうか。ウィズ・コロナ時代に攻勢をかける、その戦略を取材しました。


“洗濯機OK”がコロナ禍で支持 真夏も売上高4倍超に

9月中旬、WWSの店舗を訪れるとお昼休み中の会社員がウエアの生地を触ったり、試着したりしていました。オアシススタイルウェアのスーツは、一見すると普通のスーツと変わりません。しかし、細かい部分をよく見ると作業着として作られたことがわかります。例えばジャケットとパンツで計11カ所あるポケットですが、多くがジップ付きなのでモノが落ちません。

ストレッチ性や速乾性はもちろん、最大の売りは洗濯機で丸洗いできることです。担当者は「毎日洗えることが受けて、緊急事態宣言下の4、5月のEC売上高は、前年同月比を上回りました」と驚きます。スーツが売れないと言われる7、8月も前年同月比で4倍を売り上げ、快進撃が続いています。価格はジャケットが1万8,000円(税別、以下同)、パンツが1万2,000円です。

レディーススーツやワンピも

レディーススーツもポケットには名刺入れやスマートフォンが奥まで入るように設計され、「働く場での使いやすさ」を意識しています。スーツが中心ですが、ワンピースやレギンスといったアイテムも揃えています。

秋冬に向けたアウターも新商品として登場しました。同社はこれまでにも百貨店に期間限定店を出したり、セレクトショップなどの一角で商品を常設販売したりすることはありましたが、自社の製品だけを揃えた実店舗を出すのは今回が初めてです。

レディースはワンピースも展開する

水道メンテナンスから生まれたウエア

実は、同社の祖業は、マンションの水道メンテナンス事業です。「作業着だと通勤の際に恥ずかしい」「現場でも格好よく着ることができるウエアがほしい」という従業員の声を受け、社内用のユニフォームを作ったところ、取引先から「それ、いいね」と声が掛かり、アパレル事業を立ち上げたというユニークな経緯があるのです。

同社がアパレル事業を立ち上げたのは2017年12月。翌18年3月にWWSを発売しました。当時、筆者は繊維専門紙でユニフォーム業界を担当していましたが、取材先の専門ユニフォームメーカーは「たくさんのサイズを揃えなければならない法人向けユニフォームは参入障壁が高い。うまくいかないのでは」という見方が大半で、筆者も同じ考えでした。SNS上でも「現場作業がスーツでできるわけがない」といった声が出て炎上したこともありました。

しかし現在は、企業用ユニフォームとしてマンション管理会社や、番組制作会社、理美容店など550社がユニフォームとして採用しています。建設作業現場というよりは、接客を伴うサービス業などで多く採用されています。発売1年目は年商1億円、2年目は3億円を達成し、3年目の今期は10億円を目標にしています。

祖業にちなみ本物の水道管をハンガーラックとして使った店内

定番商品を売り切る ワークマンと同じ手法

同社は2019年、スーツ用の生地を国内の生地メーカーと共同開発しました。1種類の生地を大量に発注し縫製するため、コストを抑えることができます。

親会社のオアシスソリューションの関谷有三代表は「基本的にWWSしか生産していないため、過剰な在庫を抱えずに売り切ることができます。シーズンの流行を追わず、定番商品を売り切る手法は作業服専門チェーン、ワークマンと同じスタイルです」と説明します。

なぜ今、リアル店舗出店なのか

それではECでの販売が順調なのに、なぜテナント料や人件費がかかる実店舗を出したのでしょうか。関谷代表は、「ブランド名を知らず、一度も見たことがないという服をネットで買う価格は5000円が限界と考えています」と説明します。

上下で約30000円のスーツを販売する同社は、このハードルを下げるために「30日以内であれば何度着ても返品OK」にしています。それでもユーザーからは「実際に店頭で生地を手に取って、質感や色を見比べたい」という要望が想像以上に多く、出店を決めたといいます。

職場で着る服のカジュアル化が進み、メンズスーツ市場は伸び悩んでいます。さらにコロナ禍で在宅勤務が増えた今の時代、そもそもスーツの需要はあるのでしょうか。

関谷代表は「機能性があるスーツは一定の需要があります。テレワークでもジャケット着用を求める企業は少なくありません」と言い切ります。同社は2023年までに首都圏や政令市などに15店を出店する計画です。

秋冬に向けてアウターも投入した

シップスとコラボでファン広げる

また、9月からはセレクトショップ大手のシップス(SHIPS)ともコラボ。機能だけではなくデザインにもこだわった、レディースのノーカラージャケットとパンツ、スカートの3型を東京や大阪などのシップス店舗で販売、新たな客層をつかむ狙いです。

一般のアパレルメーカーとは異なる角度から生まれたスーツ作業着。実店舗とECの両輪で、幅広い世代に支持されるウエアを目指します。

<文:国分瑠衣子>

© 株式会社マネーフォワード