心の健康寿命

 5年前に98歳で没した歌人の宮英(みやひで)子(こ)さんは有名な駄じゃれ好きだったそうで、こんな一首を残している。〈階段の昇りは膝に障(さや)りなし「ワタシクダラナイヒト」降(くだ)り難儀す〉▲「人生の節目で読んでほしい短歌」(NHK出版新書)に収められ、選者の永田和宏さんは〈よくもこんな駄じゃれを歌にもち込んだものだと、笑った後で感心すらしてしまいます〉と解説している▲膝が悪いと、階段を上るよりも、下る方がつらくてお手上げ。「私はうまく下れない人」と嘆くところを「クダラナイヒト(くだらない人)」と笑い飛ばす。そのおおらかさが妙味だろう▲21日の「敬老の日」を前に、厚生労働省は全国の100歳以上の高齢者が初めて8万人を超えたと発表した。健康寿命を延ばす-「超」の付く高齢社会の願いはこれに尽きる▲先日の本紙の投稿欄「えぷろん」に、雲仙市の女性がつづった軽やかな文がある。〈退職のない自営業なので、80歳を過ぎても朝5時半には起床して仕事を頑張っています。年を重ねるごとに毎日が楽しくて〉…▲〈100歳まで現役で働いて、テレビに出るとが私の夢だと言うと、みんな「そりゃよか」ですって。健康にありがとうです〉。結びの筆致がとりわけお若い。人生100年という時代、心の健康寿命も長く、幾久しく。(徹)

 


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