私立探偵とコミュ障天才少女のバディが、忌まわしき真実を解き明かす――「シロナガス島への帰還」レビュー

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PC用ミステリーアドベンチャーゲーム「シロナガス島への帰還」のレビューをお届けしよう。

「シロナガス島への帰還」は同人サークル、旅の道が制作したミステリーアドベンチャーゲーム。SteamやDMM GAMES、BOOTHでダウンロード購入できるほか、パッケージ版も販売されている。

絶海の孤島で奇怪な事件に巻き込まれた私立探偵と、相棒(?)となる天才少女の奮闘が描かれる本作だが、まず注目してほしいのはその販売価格。クリアまでだいたい7~9時間程度のボリュームがありながら、たったの500円で購入できてしまうのだ。

それでいて、ストーリーのほうもプレイしていてやめどきを失う面白さ。人を選ぶ要素もあるにはあるが、この価格ならばとりあえず買って試してみるのも大いにアリではないだろうか。なお、Steam版ならば9月19日いっぱいは30%オフの350円で販売中だ。

ちなみに現在販売されているバージョンは、後日談を描いたエクストラシナリオや、CGモードが実装された「完全版」となっている。販売サイトによっては完全版であることが分かりづらいが、安心して購入してほしい。

■絶海の孤島で巻き起こる惨劇に、探偵と天才少女が挑む

ニューヨークで私立探偵を営む男・池田戦(いけだ せん)のもとに、ある依頼が舞い込む。依頼主は、有名な資産家のひとり娘、エイダ・ヒギンズ。依頼の内容は、自殺した父、ロイ・ヒギンズの、命を絶たなければならなかったその理由の究明、そして生前の父を苦しめた原因があると思われる、絶海の孤島“シロナガス島”の調査。

池田は、完全記憶能力を持つ天才少女、出雲崎ねね子(いずもざき ねねこ)と共に、ロイ氏宛てに届いた招待状を頼りに、アリューシャン列島のどこかに位置するというシロナガス島へと向かうのだった。

まず本作は、この池田とねね子の掛け合いが面白い。ねね子はその能力を活かし、二十数カ国の言語をネイティブレベルで話すことができるのだが、度を超えたコミュ障のため、池田以外の人物とはまともな会話ができないというひどい宝の持ち腐れぶり。そのくせ池田には無意味に強気な態度に出て、頻繁におちょくるような言動を繰り返す。

対する池田は基本的には良識ある大人だが、大人気ない一面もあり、ねね子のおちょくりにはしっかり仕返しをして痛い目にあわせがちだ。また、普通にデリカシーがない部分もあり、ねね子だけじゃなくほかの登場人物に対してもひんしゅくを買うことが時々ある。それでも、池田とねね子の間には強い絆も確かにあり、窮地に立たされたときにこそ信頼関係が垣間見えるあたり、良き凸凹バディだと感じられる。

池田たちはシロナガス島に着くと、唯一の建物である豪華なホテルに案内される。ほかの7名の招待客も、一癖も二癖もある人物ばかり。変に不便な構造になっている客室棟への扉や、姿を現そうとしないホテルの主人。いくつもの違和感に不安を募らせる招待客たち。そして、やがて恐ろしい惨劇が幕を開けてしまう。

そこからのストーリー展開は、まさに“息つく暇もない”という言葉がピッタリの手に汗握るものとなる。引き起こされる第2、第3の悲劇。池田やねね子にも幾度も生命の危機が訪れ、これを切り抜けて新たな事実が明らかになると、すぐに生じる次なる疑問。池田に助言を与えるも、決して自分の正体は明かそうとしない謎の人物も現れるなど、事態は混迷を極める。

招待客は、皆なんらかの秘密を抱えて島にやってきており、ゲームの序盤と終盤で印象がまるで変わってしまう人物も少なくない。屋敷で働く執事やメイドも同様だ。罪に手を染めてしまった者も含め、多くの登場人物にそうしなければならなかった理由があり、思わず彼らに共感してしまうほどの人物描写が光る。

そうして物語は、この島に隠されたおぞましい真実へと迫ることに。あらゆる伏線が回収され、それぞれの思惑が明らかになってくる中盤以降も、単に“殺人者vsその他”という単純な図式では終わらない複雑なドラマが展開されていく。

極限状況の中、池田とねね子は事件の真相にたどり着き、無事島から脱出することができるだろうか?

■時として制限時間がある捜査や選択肢が、緊迫感を演出

「シロナガス島への帰還」のプレイ時間の多くを占めるのは、ノベルゲーム形式でテキストを読み進めていくパート。その中で時折、選択肢を選ぶ場面や、画面内の気になるところをクリックして調べるパートが挿入される。

選択肢は、間違ってしまうと即ゲームオーバーになってしまうものも存在する。ゲームオーバーになると最後にセーブした地点からやり直しになるので、こまめに進行状況をセーブしておくことをおすすめしたい。

ただ、正解となる選択肢はそれまでの話の流れから判断できる場合がほとんどなので、バックログをしっかり確認すれば、おのずと正しい選択ができるだろう。筆者の場合、どうしても選択肢を絞り込めなかったとき、公式サイトの登場人物紹介をチェックして正解が分かったこともあったので、参考にしてほしい。

選択や付近の捜査に制限時間があるシチュエーションも。リアルタイムでゲージが減少していくので、状況判断にスピードが求められる。緊迫した状況でプレイヤーにも緊迫感を与えることで、登場人物たちの焦りや恐怖がダイレクトに伝わってくるあたりは見事なギミックだ。

いずれも、プレイヤーに高度な推理力が求められるということはなく、巷の謎解き・推理系ゲームと比較すれば難易度は低いほうだと思う。「物語は気になるけど、難しい謎解きはちょっと……」という方も、問題なく楽しめるのではないだろうか。

■いくつかの人を選ぶ要素

価格的にも、ストーリーの面白さとしてもおすすめしたい本作だが、人を選ぶ要素も決して少なくない。

まず、グロテスクな表現に敏感な方は注意が必要だ。グラフィックが用意されている遺体などについては、適度にデフォルメされているためそこまで気にならないと思う。ただ、テキストだけで表現されるある陰惨な光景は、文章の描写力の高さも相まって、想像を拒否したくなるレベルのものがある。

何度か登場する、急に差し挟まれる映像と音によるホラー表現(いわゆるジャンプスケア)も、苦手な方はいるかもしれない。

それから主人公の池田が、女性キャラクターに対してセクハラ気味の言動をすることが何度かある。それは悪意あっての言動というよりデリカシーの無さから来るものなので、“仕方のない人”で済むようなものかもしれないが、それでも苦手な人にとっては嫌だろう。

最後に、ゲームを進めていく中で明かされるある真相は、かなり胸糞の悪いものがある。登場人物に強く感情移入するプレイヤーにとっては、これを飲み込むのは結構な苦しみを伴うだろう。

もちろん、これらはプレイヤーの趣向によってはむしろプラスに働く要素となりうる。それに、トラウマ的な意味であっても“強く記憶に残る”ということは、後年まで語り継がれる作品の条件のひとつではないだろうか。多少の苦手意識を乗り越えてでも遊ぶ価値のある作品であることは、改めて付け加えておきたい。

■読み進める手が止まらない、やめどきを失う傑作

凄惨な描写も多い本作だが、エンディングに到達したときは、切なさもありつつ清々しい気持ちで満たされた。タイトルである「シロナガス島への帰還」に込められた意味には、ストーリーを振り返れば思わず胸が熱くなる。

なお、完全版で追加されたエクストラシナリオは、お色気成分多めのコメディ寄りではありつつ、しっかりホラー要素もあるあたりは本編のテイストと地続きとなっている。

ノベルゲームの魅力はタイトルによって様々だが、ここまで「続きが気になって、読み進める手が止まらない」感覚になったのは、個人的には「レイジングループ」以来だった。これをたったひとりで制作したというのだから、驚きだ。

大作を遊ぶ時間的余裕がない方にとっては程よいボリュームも魅力のひとつだと思うので、秋の夜長の読書代わりに、本作をプレイしてみてはいかがだろう。

「シロナガス島への帰還」公式サイト
https://shironagasu.tabinomichi.com/

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