M-1敗者復活戦唯一のアマチュア「ラランド」 会社員×学生異色コンビの正体

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●学生の漫才大会で賞を総ナメ

22日に決勝戦が生放送される若手漫才師日本一決定戦『M-1グランプリ2019』(ABCテレビ・テレビ朝日系、18:34~)。過去最高のエントリー数となった5,040組から勝ち抜いた10組が王者を争うが、最後の1枠をかけて行われる敗者復活戦に臨むコンビの中で注目したいのが、唯一のアマチュアである「ラランド」だ。

上智大学のお笑いサークルSCSで2014年に結成したツッコミのニシダ(25)とボケのさーや(23)が組む男女コンビだが、アマチュアとは思えない本格派の漫才はプロの芸人からも評価が高く、すでに複数の芸能プロダクションが目をつけている。

この2人は一体何者なのか。その正体を探るべく、M-1敗者復活にかける思いや今後の展望なども含めて、話を聞いた――。

■アマチュアとして活動を続ける理由

2人は上智大学外国語学部イスパニア語学科の同級生。さーやがニシダをお笑いサークルに誘ったが、「本当は女子コンビを組みたいと思ったんですけど、同期の女の子はみんな裏方のスタッフになっちゃったんです。ほかにエネルギッシュな子がいないし、まあいいかと思って泣く泣く…」とコンビを組むことになった。

そんな軽いノリだったが、入学翌月の5月に行われたデビューライブで、早くも頭角を現す。「“彼女がスマートフォンになっちゃう”っていう今考えたらキモいネタをやったんですけど、先輩たちの前でネタ見せしたときから『革命だ!』とか言われて(笑)。本番もめっちゃウケました」(さーや)

その後も、学生の漫才大会で賞を総ナメにし、「就活で履歴書に賞歴を書いたら、『こんなに獲ってたっけ!?』って思いました」(さーや)という活躍ぶり。学生芸人のライブは芸能プロダクションも視察しており、楽屋で名刺を渡されることは何度もあったそうだが、なぜ現在もアマチュアとして活動を続けているのか。

その理由の1つは、ニシダが現在も在学中のため。「2年連続で取らないと強制的に退学させられる単位があったんですけど、そのメキシコ人の先生とケンカして1回退学になって、再入学したんです」という経緯から、まだ現役の学生なのだ。

一方のさーやは、昨年無事卒業したが、「そこまで裕福な家じゃないんですけど、中学・高校・大学まで私立に通わせてもらった恩義があったので、奨学金の返済も考えるとさすがに『プロでお笑いだけでやっていく』とは言えず、就職するのはマストみたいな感じで決めてました」。

仕事と並行してお笑いをやっていくことを在学中から決意し、当時からよくライブ出演オファーをくれていたK-PROの代表・児島気奈氏にも「応援するよ」と言われたことから、広告関係の会社に就職。会社員をしながら芸人もやるという“二足のわらじ”で活動することになった。

■“カップルネタ”は嫌だった

そんな生活スタイルの違う2人だが、ネタ作りはどうしているのか。「大学と私の職場が歩ける距離なので、私が仕事の終わる直前に『ガストに来い』って連絡して来てもらいます」(さーや)というが、「それでガストに行ったものの、仕事が終わらなくて解散ということもよくあります」(ニシダ)。それでも、ニシダは「俺は待ってるだけなんで、その間にサウナ行ったりして楽しく過ごしてます(笑)」とストレスにならないようだ。

ガストで落ち合うと、2人で設定を出し合い、それに合うボケを考えて即興で合わせ、ツッコミを組み立てていくという手法でネタを作成。声を出して稽古するのは、「上智に卒業生でも使える場所があるので、たまに忍び込んでやったり。あとはライブ前に早めに集まって合わせてます」(ニシダ)という。

こうして、現在はほぼ毎週末ライブに出演。男女コンビと言えば、南海キャンディーズ、メイプル超合金、ゆにばーすなど、女性側が強烈なキャラクターを発揮している場合が多いが、ラランドの場合、さーやをイジるやり取りはない。また、男女コンビということで「カップルネタをやるのもすごく嫌だったというのもあります。お互いにお笑いが大好きでそのパターンを見過ぎちゃったというのもあって、男同士の漫才みたいなのをずっとやってました」(さーや)と、自然と本格派の漫才になった。

●M-1準決勝進出…躍進への転機

ラランドの漫才はテンポが早く、ボケの手数が非常に多い“しゃべくり”スタイルだが、「私たちはネタを作ると最初は7~8分のができちゃうんです。そこからギュッと詰め込んでいるので必然的にボケ数が多く見える」(さーや)というのが、その理由だそう。

それに加え、さーやは「社会人になって自分たちを商品として見る目が備わってきた部分もあると思います」と、ネタ作りに変化が。「『ファンベース』(佐藤尚之著)という、広告界隈の人がみんな読んでる本があるんですけど、どういうところに刺すために何をしたらいいのかを意識するようになりました。また、今までお笑いのコアファン向けに作っていたものを、だいぶマス向けにしたというところはある気がします」と、養成所では得られない強みが生かされた。

さらに、アマチュアの大会に出場した際、心に突き刺さるダメ出しをもらったことも転機に。「あんまりニシダのツッコミに文句言ったことはなかったんですけど、『もうちょっと印象に残るようにしよう』って提案したら、ニシダも『俺もちょっと悩んでたんだよね』って言ってくれて」(さーや)。こうして改善を重ねた結果、これまで2回戦止まりだった『M-1』で、今回一気に準決勝まで勝ち進むという躍進を遂げたのだ。

■芸人であることを家族に黙っていたが…

さーやの勤務する会社は、芸人との両立について理解があるそうで、「むしろ人事の人は“二足のわらじ”を面白がってくれて、それをリクルーティングに活用しようとしてたくらい(笑)」とのこと。それだけに、今回『M-1』で準決勝まで勝ち上がったことで、反響も大きかったといい、「売れたらお前をキャスティングできるから頑張れ」と期待をかけられている。

一方のニシダは、芸人をしていることを家族に黙っていたそうで、勘付いた妹に突然「ゾフィーって会ったことある?」と聞かれても、「ハーフタレントですか?」としらを切っていたそう。だが、ちょうどこのインタビューの日の朝に「親に『M-1落ちたんでしょ?』って言われました」とバレたそうで、「準決勝まで行くと親バレするんですね(笑)」と苦笑いしていた。

2人にお笑い遍歴を聞いてみると、ニシダは「中学生のときから地下のお笑いライブに行ってました」というほどのお笑い好きだったが、芸人になりたいという思いは持っていなかったという。漫才を披露するのも、大学のサークルに入って初めてだった。それでも、「クラスの中心メンバーじゃないですけど、ちょけたりしてましたね(笑)」と振り返る。

さーやは、幼少期から『ダウンタウンのごっつええ感じ』(フジテレビ)のビデオを何度も見て育ち、中学生時代に文化祭で初めて漫才を披露すると、「それでプロになりたいと思いました」と自覚。高校を卒業したらNSC(吉本興業の養成所)に入ろうとも考えていたそうだが、「親に『大学には入ったほうがいい』って言い負かされました」と進学した。

2人とも中高6年間、男子校・女子校にそれぞれ通っていたが、さーやは「異性の目を気にしなくていいので、お笑いをやりやすい環境があると思います」と分析する。

●互いへの“恋愛感情”は…

これまでほとんどケンカもせず、コンビ解消を考えたこともないという2人に、互いの魅力を聞いてみると、さーやは「低いけど通る本当にいい声をしてて、ツッコミのための声なんじゃないかと思うくらい。それから先輩芸人さんにも好かれるので、飲み会とか外交的な役割をやってもらって助かってます。あと、男女コンビにとって大事なことなんですが、女遊びを全然しない。めっちゃ遊んでたら見られ方がだいぶ違うと思います」とニシダを称賛。

そのニシダは「月並みな言葉ですけど、やっぱ一番おもろいと思ってます」とクールに話し、さーやが「ダウンタウンさんみたいじゃん(笑)」と謙そんすると、「でもずっとそれは思ってますね。それが組んでる理由でもあるし」とリスペクトの気持ちを語ってくれた。

そんな2人に、互いへの“恋愛感情”というベタな質問をぶつけると、「本当にいやらしいくらいビジネスパートナーで(笑)。利害が一致してるだけです」(さーや)、「仲は悪くないですけど、そういうのはないです(笑)」(ニシダ)と即答した。

ちなみに、コンビ名の由来は、フランスの天文学者、ジェローム・ラランドが発見して、その名前を付けられた星から。2014年に結成したが、16年に映画『ラ・ラ・ランド』が大ヒットしてしまい、「エゴサができなくなっちゃったんです。『すごい面白かった』っていう感想はだいたい映画のこと言ってるし、『オチがちょっとなあ…』っていうツイートを見てヒヤッとすると映画で良かったって(笑)」(さーや)、「たまに『感動した』っていう感想が、俺らのことだったっていうのもあります。映画じゃないんかい!って(笑)」(ニシダ)。

■将来的には芸人に軸足を

今回の『M-1』は、惜しくもストレートでの決勝進出を逃したが、まだ敗者復活戦(ABCテレビ・テレビ朝日系で22日13:55~生放送)が残っている。2人にとってこれが初めてのテレビ出演で、和牛、ミキ、アインシュタイン、カミナリ、四千頭身、トム・ブラウンといった決勝経験者や売れっ子芸人の強豪と争うことになるが、さーやは「気持ちを切り替えて頑張りたいと思います」、ニシダは「決勝に上がれるかどうかは考えずに臨もうと思います」と意気込みを語った。

アマチュア唯一の準決勝進出ということで、すでに注目を集めているが、気になる今後について聞くと、ニシダは「大学生だからよく分かんないです(笑)」と、さーやの意向に従う方針。

そのさーやは「まだ奨学金の返済もありますし、親孝行もしたいし、会社員と芸人を両立できる世の中になってきているので、今のところはどっちも頑張るという感じです。ただ、プロ一本でできる環境になったら、芸人に軸足を置きたいという気持ちはすごくあります」と意欲を示した。

●ラランド
上智大学のお笑いサークルSCSで2014年に結成。『NOROSHI2018』など、数々の学生漫才大会で受賞し、『M-1グランプリ』は16年と17年に2回戦進出、18年はさーやの仕事のため欠席し、今年準決勝まで勝ち進んだ。1月1日(午前0:30~)放送の日本テレビ系『おもしろ荘』への出演も決定した。
ボケのさーやは、95年生まれ、東京都出身。憧れの芸人は、マヂカルラブリー、天竺鼠、ジャルジャル。
ツッコミのニシダは、94年生まれ、山口県出身。憧れの芸人は、南海キャンディーズの山里亮太。