避難所に昨年の教訓 太田市の水害対策 開設に基準 コロナ課題

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ボートで救助活動を行う消防署員=2019年10月13日、太田市

 昨年10月の台風19号で、群馬県の太田市内では浸水被害が相次いだ。大規模な水害を教訓に、市は避難所の開設基準を明確化し、新たな情報共有システムを導入するなどの対策を進めている。一方で、避難所における新型コロナウイルス感染症の拡大を防ぐための対策も課題。近年は異常気象によって降雨予測が難しく、専門家からは避難誘導などを巡る行政の取り組みに限界を指摘する声も上がっている。(中村穂高)

■台風で途中閉鎖

 市内で計333件の浸水被害が確認されたことを受け、市は今年4月、防災防犯課を災害対応に特化した「災害対策課」に変更し、組織体制を強化した。これに先立ち、3月には台風19号への対応を検証した最終報告書を公表。避難所の開設と運用を巡る対応が当時の問題点の一つとされた。

 昨年10月12日、市は避難所を45カ所開設したが、そのうち23カ所が洪水浸水想定区域内にあった。利根川氾濫の危険があるとして、市は同日夕、沢野地区などの避難所8カ所の途中閉鎖を決定。台風が接近する夜間に、住民約980人をバスなどで別の避難所に再移動させた。

 後に、氾濫の危険を知ってから再移動を始めるまで3時間以上かかったことや、住民364人が避難所に残ったことなども判明している。

 市は当時の教訓から、50センチ以上の浸水の恐れがある避難所14カ所を水害時には開設しないことを決定。これまで曖昧だった避難所の開設基準を明確化し、台風の勢力など災害規模に応じて3段階に分けて開くことも決めた。中学校を各地区の拠点避難所と位置付け、開設と運営に携わる職員を指定するとともに備蓄物資も充実させた。

■想定外の可能性

 清水聖義市長は、各部署が総力を挙げて取り組んでいると説明。「状況は改善する。昨年と同じ轍(てつ)は踏まない」と強調する。

 今後の課題は、避難所における新型コロナ感染症の拡大防止だ。分散避難につなげるため、市は9月から専用ホームページで、避難所の開設や混雑状況の情報提供を始めた。民間との避難所協定の締結、車中避難ができる一時避難所の確保も検討している。

 ただ、想定外の事態が発生する可能性もある。7月の熊本豪雨では、高松市が熊本県に派遣した男性保健師のコロナ感染が判明し、約380人が検査を受けるなど避難所運営が混乱した。今まで以上の注意と慎重な対応が求められる。

◎被害情報 より迅速に

 昨年の台風19号を巡る太田市の対応では、被害把握の遅れも問題視された。高島賢二総務部長は「太田は過去数十年間、大規模な水害に遭っていないため、気持ちに油断があったかもしれない」とし、災害対策本部内での情報共有や、台風通過後に現地確認する態勢の不十分な部分が露呈したと分析している。

■報告に丸2日

 昨年10月13日未明、台風19号による大雨特別警報が解除された。だが、朝までに浸水被害の119番通報が20件近くあり、消防署員らがボートなどを使った救助対応に追われた。沢野地区の70代の男性は「午前1時半ごろ起きたら、部屋中水浸しだった。45年前から住んでいるが、こんなことは初めてだった」と話す。

 災害対策本部は、消防の出動状況や被害の概要をファクスや庁内システムで把握できる状態だった。だが、職員の役割分担などが不明確で十分な確認や分析、報告ができず、本部内で情報が共有されなかった。

 市は同日午前8時40分に災害対策本部を廃止したものの、市民からの相談などがないことから本格的な被害調査を行わず、翌14日、災害ごみに関する問い合わせが相次いだため調査を開始。同日夕、沢野地区で開かれた臨時の区長会で、大規模な浸水被害があったことが報告された。清水聖義市長に報告があったのは15日朝で、浸水被害の発生から丸2日経過していた。

■共有システム

 改善策として、市は情報の収集や発信といった職員の役割分担を明確化したほか、民間会社が開発した「災害情報共有システム」の導入も決定。10月から本格的に運用を始める。このシステムでは、災害対策本部や市消防本部の関係者全員が、スマートフォンやパソコンでリアルタイムに情報共有できる。文字だけでなく、現場の映像を送信できる機能もあり、より的確な状況判断が可能となる。

 現地確認をする態勢も改めた。天候が回復した直後に家屋や人的被害などの調査を開始することを決め、天候や河川の水位、被害状況などを総合的に判断した後で、災害対策本部を廃止するとした。

 水害対策が進む一方で、近年は異常気象が顕在化していることから、東京大大学院の片田敏孝特任教授は気象庁の降雨量予測には限界があると指摘。「熊本、西日本では豪雨を予測できなかった。行政の対策に頼る受け身の姿勢を改めて住民が当事者意識を持ち、自分の命は自分で守らなければならない」と警鐘を鳴らしている。