JRグループ営業秋の陣 「せとうち広島DC」10~12月に展開 DCといっても気動車ではありません

新しい観光列車「エトセトラ」は行きと帰りで食事などのサービスメニューが変わります。JR西日本は「両方のサービスを体験してほしい」と呼びかけます。 画像:JR西日本

まだまだ残暑が続きますが、カレンダーは9月。コロナがなければどこかに出かけたくなる「行楽の秋」です。JRグループは今秋、若干控え目ながら営業キャンペーンを展開します。今回は、JR旅客6社が10~12月に共同展開する「せとうち広島デスティネーションキャンペーン(DC)」、そして秋の臨時列車を取り上げましょう。

地元とJRがウィンウィンのDC

最初にDCとは。鉄道ファンの皆さんが想像するのは気動車(DC=ディーゼルカー)かもしれませんが、こちらのDCは「目的地(を売り込む)観光キャンペーン」です。始まりは国鉄時代、1978年の「きらめく紀州路」。広く知られる「京の冬の旅」もDCとして始まりました。着地(旅行目的地=通常は都道府県)が特別な催しなどで旅行のきっかけをつくり、JRが送客します。JRはポスターや車内放送でPRします。着地にもJRにもメリットが発生するウィンウィンの営業キャンペーンです。

せとうち広島DCの実施主体は、せとうち広島デスティネーションキャンペーン推進協議会とJR旅客6社。推進協の実態は広島県と地元の観光・経済団体などです。対象エリアは広島県全域と近隣の山口県岩国市、愛媛県今治市、上島町、松山市、岡山県倉敷市の5市町。キャッチフレーズは「ミタイケンひろしま」。未体験と見たい県の掛け言葉ですね。

観光列車「エトセトラ」が瀬戸内を走る

せとうち広島DCの催しはゴマンとありますが、鉄道チャンネルですから鉄道や2次交通に絞って取り上げましょう。JR西日本がDCに合わせて送り出すのが、新しい観光列車「etSETOra(エトセトラ)」。本サイトでも何回か触れられたようですが、車両はキロ47系2両編成。キロはグリーン気動車を表す記号で、ここで「せとうち広島DCの目玉はDCだった」とオチが付きました。

昨年まで観光列車「瀬戸内マリンビュー」だった車両をリニューアル。外装は海の青や波の白で〝せとうち〟を表現しました。列車名のエトセトラは「etc.」で日本語化していますが、元はラテン語で「その他いろいろ」の意。沿線の魅力がいろいろ現れる、瀬戸内の魅力を表現しています。2両ともグリーン車指定席で、定員40人。10月3日から月、金、土曜日と休日に運転します。行きは呉線経由で広島から尾道へ。逆コースの帰りは山陽線を通りルートを変えます。

車内サービスは、絶品スイーツセットやオリジナルカクテル、沿線の酒、おつまみを用意します。行きは、スイーツセット「瀬戸の小箱~和~」と「瀬戸の小箱~洋~」、手作りもなかとチョコレートケーキなど和洋をそろえます。帰りのカクテルや地酒は大人向きですね。

瀬戸内海には「真珠星」が就航

観光型高速クルーザー「シースピカ」。途中の島々では島内観光の時間が確保されます。 画像:JR西日本

DCでは、瀬戸内海にも新しい交通手段がデビューします。JR西日本グループと瀬戸内海汽船グループが開発した観光高速クルーザー「SEA SPICA(シースピカ)」。全長25.7m、総トン数90tの2階建てで、外観デザインは濃青と白を基調に、瀬戸内海の夕焼けをイメージした金色をあしらいました。船名のスピカは豊穣の女神を象徴する乙女座の1等星で、日本名は真珠星です。

1階客室は瀬戸内の多島美を楽しめるようソファ型座席を配し、4面マルチディスプレーやバリアフリー対応トイレを装備します。壁、座席には2020年就航らしく抗ウイルス・抗菌処置を施しました。旅客定員90人。階上はフリースペースのデッキ「スピカテラス」で、瀬戸内の島々をモチーフとしたソファなどが置かれます。

建造主は、JR西日本イノベーションズと瀬戸内シーラインが共同出資した瀬戸内島たびコーポレーションと、鉄道建設・運輸施設整備支援機構。運航は瀬戸内シーラインが担当します。航路は広島港(宇品)と三原港とを結ぶ、とびしま海道・しまなみ海道エリア。「瀬戸内しまたびライン」と称します。行きは鉄道、帰りはクルーザーと移動手段を変えるのもDCならでは。DC期間中の運航日は10月2日~12月14日の月、金、土、日曜日となっています。

JR西日本は観光客の利便性向上を目指し、DCに合わせて観光型MaaS「setowa」のサービスを本格展開します。出発地からの新幹線のほか、着地の鉄道、船舶、バス、レンタカーなどの交通機関、ホテル、地域の観光施設をスマートフォンで連続的に検索・予約・利用できるようにします。交通と施設入館券をセットした「setowa周遊パス」は、広島ワイドパスなどを発売します。

さらにJR駅のサービス改善にも取り組み、三原駅では改札前に臨時観光案内所を開設。呉駅ではタッチパネルで操作できるデジタルマップ、観光PRスペースの設置やコンコースのリニューアルを実施します。

秋臨は「ウエストエクスプレス銀河」運転など

2020年1月に報道公開されたJR西日本の新たな長距離列車「WEST EXPRESS 銀河」 写真:鉄道チャンネル編集部

最終章では、秋の列車運転計画が分かる「秋の臨時列車」をご報告。コロナの今秋は、注目すべきニュースは多くありません。

JR東日本は新幹線842本、在来線特急685本、合計1527本を増発します。定期列車を合わせた総本数は、新幹線2万1270本、在来線2万1312本、合計4万2582本で、前年を3%上回ります。これはあくまで計画時点の数字で、実際に運転するかは9月中旬に決定します。

JR東海は東海道新幹線の10月分の運転計画と在来線の10、11月分の臨時列車運転計画を決定。東海道新幹線は「のぞみ」中心、在来線は「しなの」「ひだ」「南紀」のそれぞれ臨時列車を設定します。

JR西日本は北陸新幹線で196本の秋臨を計画しますが、指定席発売は見合わせ。山陽新幹線には「のぞみ」「ひかり」を走らせます。在来線特急は「WEST EXPRESS(ウエストエクスプレス)銀河」を臨時運転します。

文:上里夏生

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