イタリア2連戦はガスリー&クビアトが躍動。優勝には「PU側も貢献できた」と嬉しさ語る/ホンダ本橋CEインタビュー

 2020年F1第8戦イタリアGPでは劇的な初優勝、1週間後の第9戦トスカーナGPでは予選Q1落ち、レースも1周目の事故に巻き込まれてリタイアと、アルファタウリ・ホンダのピエール・ガスリーにとってはジェットコースターのようなアップダウンの激しい2週間だった。

 一方チームメイトのダニール・クビアトは、初開催のムジェロで、今季自己ベストの7位入賞を果たした。そんなイタリア2連戦を、ホンダの本橋正充チーフエンジニアに振り返ってもらった。

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──モンツァで初優勝を果たしたガスリーが、その1週間後のムジェロでは一転して予選Q1落ちと、アップダウンの激しいイタリア2連戦でした。まずは改めて、ガスリーの勝利を振り返っていただけますか。

本橋正充チーフエンジニア(以下、本橋CE):正直、言葉がなかったですね。昨年もブラジルGPの2位表彰台を始め、いいレースが少なくなかった。でもやっぱり表彰台の真ん中は、ひと味違う。一緒にやって来たなかでの感謝の気持ちももちろんですし、モンツァという超高速サーキットでの勝利にパワーユニット(PU)側も貢献できたかなといううれしさもありました。レッドブルとの勝利とも違う、感慨深いものがありました。

2020年F1第8戦イタリアGP ピエール・ガスリー(アルファタウリ・ホンダ)

──ファエンツァのファクトリーでは、祝勝会をしたのですか?

本橋CE:いいえ、しませんでした。こんなご時世ですし、チーム側も「やりたいね」と言っていたのですが、すぐに次戦も控えてましたし、できませんでした。

──ムジェロに来る前に、ファクトリーには立ち寄りましたか?

本橋CE:はい。打ち合わせもあったので行きました。

──1週間後のトスカーナGPも、ガスリーはFP3までは絶好調でした。それが予選で、思わぬ失速をしてしまった。主な原因は、車体側のセッティング変更が外れたということだったのでしょうか。

本橋CE:そうとも言い切れないんですよ。ちょっとよくわからないというのが、正直なところですね。決勝当日、グリッドに着くまでの周回とかで、マシンの挙動は悪くないと言っていましたしね。予選で速さが出せなかった原因を、できればレース中に確認したかったのですが、すぐにリタイアしてしまいました。

──それまでは完璧だったのに、予選用の軽タンクで走ったら突然バランスもグリップも悪化したと、ガスリーは予選後に言っていました。

本橋CE:症状はそういうことなのですが、なぜなのかはわかりません。

──もしレース距離をある程度走れていたら、原因がわかっていたかもしれない?

本橋CE:かもしれないですね。予選後にも車体のダメージが若干見つかって、決勝日までにパーツ交換をしてます(注:バージボード右側の支柱など)。それも関係あったのかなと。そのあたり、レースでしっかり走れていれば、データ解析の助けになったでしょうね。

──予選では最終コーナー立ち上がりからの最高速も、少し落ちていました。デプロイ切れもあったのですか?

本橋CE:はい。最後には確かに切れたのですが、ラップタイムへの影響はそこまで大きくないです。

2020年F1第9戦トスカーナGP ピエール・ガスリー(アルファタウリ・ホンダ)

■苦戦続きのクビアトが勝ち獲った7位入賞

──一方のクビアトは、逆に予選から調子を上げていった印象です。

本橋CE:そうですね。クルマのバランスも良くなっていきました。車体セッティングの方向性は同じように進めていったのですが、予選後のふたりのコメントだと、結果的にずいぶん違った特性になってしまった。そこもちょっとよくわからないと、チーム側は言っていました。

──同じような車体セッティングだったのに、一方はバランスがおかしくなり、一方は改善したと。

本橋CE:そうですね。それで余計にわからなくなった。そこはしっかり解決しておかないと、また同じことが起きる可能性はありますから。

──パワーユニット(PU)で言うと、マックス・フェルスタッペン(レッドブル・ホンダ)に2戦連続トラブルが出ました。同じトラブルがアルファタウリ側にも起きうると、レース中は気になっていたのでは?

本橋CE:そうでした。まったく同じPUシステムですから、1台に起きたことは他の3台に波及する可能性はあると思ってました。ですのでいつも以上にデータをしっかりチェックしてました。

──特に赤旗中断後の再スタート時に気になったと、田辺豊治テクニカルディレクターは言っていました。

本橋CE:私もそうでしたね。しかも2回の再スタートでしたしね。マックスはスタート直前に症状が見つかりましたから、同じ状況で起きるんじゃないかとドキドキしていました。

2019年F1第9戦トスカーナGP ダニール・クビアト(アルファタウリ・ホンダ)

──クビアトはここまで、なかなか結果の出せないレースが続きました。その意味でも、7位入賞は大きかったのではないでしょうか。

本橋CE:私もそう感じました。クルマ自体は戦闘力がありましたし、しっかり走らせてくれました。初めてのコースでクビアトがいろいろなことにトライしながら、勝ち獲った結果だと思います。うれしかったです。

──ガスリーもリタイアしていなければ、レースペースは悪くなかったはずですか?

本橋CE:なんとも言えないですね。初日フリー走行のロングランは速かったですが、そこから路面コンディションもだいぶ変わっていますしね。

■シミュレーション精度の向上が課題に

──ファクトリーがすぐ近くにあるとはいえ、このサーキットの実走データはなかったと思います。にもかかわらず、初日から速さを発揮できました。初開催のサーキットへの準備という点では、満足できる週末だったのでは?

本橋CE:いや、見直すべき点は、PU側にもいろいろありました。初期のシミュレーション精度をもう少し上げる必要があると痛感しました。実際に走って、想定したものからどう変わっていくか。その事前予測がなかなか難しくて、1周ごとに細かいチューニンングを繰り返した感じでした。そこが初サーキットの難しさですが、今後もイモラ、アルガルベと続きますから、精度向上を図っていきます。

──ムジェロは縁石が平らで、トラックリミットの制限も緩かった。それもあって、ドライバーはいろいろな走行ラインを取っていたようです。そのあたりもシミュレーション精度という点で難しい部分でしたか?

本橋CE:そうです。特に予選でのガスリーは、アタック中に乗り方を変えたことが、最後のデプロイ切れに影響しました。クビアトも少しでもパフォーマンスを引き出そうと、いろんな走行ラインに挑戦していました。その都度、エネルギーマネージメントも対応しないといけない。フリー走行では、それが我々の主な仕事でした。

──そうするとガスリーが予選後のコメントで、「攻めすぎてエネルギーが切れた」と言ってたのは、そういうことだったのですね。

本橋CE:はい。乗り方を変えると、影響が出る。頑張ってタイムを出そうとしてくれていましたから。

──エンジン同一モードの影響もあったのでしょうか。

本橋CE:シーズン通してどう使うかには影響していますが、レースごとにパフォーマンスをどう引き出すかには、影響はありません。

2020年F1第8戦イタリアGP ダニール・クビアト(アルファタウリ・ホンダ)
2019年F1第9戦トスカーナGP ダニール・クビアト(アルファタウリ・ホンダ)
2020年F1第8戦イタリアGP ピエール・ガスリー(アルファタウリ・ホンダ)
2020年F1第9戦トスカーナGP ピエール・ガスリー(アルファタウリ・ホンダ)
2020年F1第9戦トスカーナGP ピエール・ガスリー(アルファタウリ・ホンダ)

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