夫婦関係は破綻でも当分離婚せず、婚姻費用をもらい続けると決めた女性の本心は?

たとえ別居期間中でも、夫婦は同等の生活レベルを保つ必要があります。夫のほうが収入が多ければ、当然、夫から妻への生活費が支払われ、それを「婚姻費用」といいます。妻としては、別居期間が長引けば、それだけ「子どもと平穏な生活」を送ることもできるわけです。


簡単に離婚はしない

ミハルさん(40歳)の夫が突然、家を出て行ったのは2年ほど前のこと。25歳のときに知り合い、28歳で結婚した5歳年上の夫との間には、10歳と7歳の子がいます。

「夫の浮気が発覚して、責めたら出て行ってしまったんです。子煩悩な夫だったので、すぐに帰ってくるのではないかと思っていたんですが帰ってこない。夫の友人が経営しているアパートの一室を安く借りて泊まっているようです」

帰って来ないなら帰ってくるまで待つだけだと、ミハルさんは思っていました。子どもたちのことを考えて、離婚という選択はしないと夫を信じていたのです。

ところがそれからすぐ、裁判所から呼び出しがありました。夫が調停を申し立てたのです。まさかそんなことになるなんてとミハルさんは愕然としました。調停は数回で決裂、すると夫は裁判を起こしました。それほどまでに離婚をしたいのかと、ミハルさんは精神的に不安定な状態に。

「結婚生活がもともと破綻していたと夫は言うのですが、私からみれば破綻などしていません。確かにここ3年くらい夫との夜の生活はなかったけど、それは夫が他に女性を作ったから。その原因が私にあると夫側は言うんですが、そんなことはない。夫がその女性に溺れているのがよくわかりました」

夫の相手は、夫より2歳年上の女性です。そのこともミハルさんを傷つけました。

「若くてきれいな子ならまだしも、自分より上のオバサンにと当時は呪いましたね。夫は『彼女には知性がある。彼女と話しているとおもしろい。きみは自分の人生をよりよくしようと努力なんてしない人だから』って。失礼ですよね。パートとはいえ仕事をしながらワンオペで子どもを育ててきたのは私です。腹が立ったり落ち込んだりで心療内科にも通いました」

裁判が始まったことで、ミハルさんも弁護士をつけました。その弁護士のすすめで、婚姻費用の支払いも求めました。

「毎月14万ほど入るので、私のパート代と合わせ、贅沢しなければ生活はしていけます。義父母が私に同情してくれて、子どもたちの洋服などを買ってくれるのがありがたい。義父母のためにも離婚はしたくありません」

夫婦生活が破綻していたのかどうか、今はそこが争点になっているそうです。

夫を愛しているかどうかは、もうわからない

夫婦は離婚を巡って争っているとはいえ、子どもを巻き込みたくはないとミハルさんは考えていました。かといって夫に子どもたちを会わせるのも不安がありました。

「夫は面会交流権を駆使したんです。代理人同士が話し合い、月に1回、夫は子どもたちに会うことができるようになりました。あとは子どもの意志。ふたりに確認したら会いたいと。上が男の子なので、父親に相談したいこともあるんでしょうね。夫が子どもへの情にほだされて離婚をとりやめるのではないかと、淡い期待をしたこともあります」

子どもたちは父親に会うたび、プレゼントをもらってきます。子どもがかわいい気持ちは変わっていないのでしょう。それでも夫の離婚の意志は固いようです。一方、ミハルさんの離婚拒絶の意志も固いので、このままではいつになったら解決するかわかりません。

「でも婚姻費用がもらえる限り、私は今のままでいいんです」

ミハルさんはそう言って、ほんのり笑みを浮かべました。その裏にあるのは、夫への愛情なのでしょうか。

「私が離婚したら、夫はたぶんそのオンナと結婚するわけですよね。それだけは避けたい。そう簡単に裏切りが正当化されてなるものかと思う。それがいちばん悔しいんですよ。じゃあ、夫がオンナと別れて帰ってくると言ったら私はすべて水に流して受け入れるのかと自問すると、それもすんなりうまくいくとは思えないんですけどね」

中途半端な状態は、人の心を不安定にするものですが、彼女にはむしろ、このハンパな状態のほうが安定しているようです。結論が出たら自分の態度も決めざるを得ませんが、そこに至ることを拒否したいのかもしれません。

「コロナ禍で裁判も延期になっていましたが、最近、再開されました。そろそろ結論を出すべき時期に入ってきているのを実感していますが、私としてはあくまでも離婚をしないと主張し続けるしかありません」

突然、離れていった夫の心をどう考えたらいいかわからない。それが彼女の本当の気持ちなのではないでしょうか。

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