モノのデザイン 第91回 自動調理鍋の定番「ホットクック」、4年越しの小容量モデル開発秘話(前編)

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シャープの大ヒット商品である、水なし自動調理鍋「ヘルシオ ホットクック」。2015年秋に初代が発売され、このほど6世代目にあたる新製品が発売になった。

毎年新しい機能の追加や容量のラインナップの拡充などを行い、着々と進化と発展を続けているホットクック。昨年(2019年)の秋には、待望されていたが発売され、2020年夏にはが発売されるなど、大人気の電気鍋市場においても独自路線を貫いている。

今回は、市場でも地位を確立し、いまやロングセラー商品となったホットクックの機構・設計、デザイン意匠など開発秘話を関係者に訊ねた。

小容量モデルではなく、大容量モデルから出した理由

筆者がずっと気になっていたのは、昨年(2019年)に登場した小容量モデル。以前から多くの要望がありながらも、初代の発売から4年の時を経てからの市場投入だった。その経緯や理由について訊ねると、シャープ Smart Appliances & Solutions 事業本部 国内スモールアプライアンス事業部 商品企画部・主任の吉田麻里氏は次のように答えてくれた。

「2015年の初号機は1.6Lタイプでした。その際、(初号機より)大きいタイプにも小さいタイプにもご要望があり、社内でも議論をしていました。一方で、ホットクックで作られているメニューには、カレーなどの煮込み料理が多く、『たくさん食べたい』、『おかわりしたい』という需要にお応えするために、まずは翌年に2.4Lの大容量タイプを発売するという順番になりました」

吉田氏によると、初号機発売の折にはファミリー層を中心に支持を集めた一方で、シニア層の購入も想定以上に多かったという。また「メニューを増やして欲しい」という声も多く、「第3世代では、無線LAN接続経由でメニューを追加ダウンロードできる製品を発売するに至りました」とのこと。

つまり、大容量・小容量タイプも検討自体は同時に行われていたわけだが、消費者からのニーズに1つひとつ段階的に応えていくというプロセスにおいて、発売から4年目、2019年モデルにしてようやく、満を持しての小容量タイプの発売に至ったわけだ。

小型化の肝は「まぜ技ユニット」

小容量モデルの開発にあたっては、当然ながらただ単に小型化すれば済むということではなかった。ホットクックは、自動のかき混ぜ機能を備えているのも他の電気鍋にはない特長の1つだ。中身をかき混ぜるための回転棒の付いた「まぜ技ユニット」を内蓋にセットして使用する。

同事業本部 海外デザインスタジオ課長の原中陽氏によると、このまぜ技ユニットの構造が、小型化の最も肝になった部分だという。

「全体的な基本構造は同じなのですが、このまぜ技ユニット構造をいかにして小型化するか?というのが実は大きな課題でした」と原中氏。

まぜ技ユニットで具材を混ぜる際にはそれを動かすための動力が必要となる。しかし、具材の大きさや容量によっては、動力源であるモーターに大きな負荷がかかってしまう。この負荷を緩和させるため、モーターとユニットをベルトとギアでつなぐ並列構造を採用していた。

ところが、小容量化モデルでは、この構造を大きく見直さなければならなかったそうだ。

「小容量化モデルの最重要課題は、基本性能は落とさずにコンパクト化を徹底して極めることでした。しかし、極限までコンパクト化を目指そうとすると、ユニットとモーターが横並びの並列構造を大きく見直す必要があります。そこで、ユニットとモーターを直列に並べる『ダイレクトドライブ構造』を採用することになりました。これは、小容量だからこそ可能になった、新しいまぜ技の構造です」(原中氏)

小容量モデルでは、アームと呼ばれるまぜ技ユニットの混ぜ棒の部分が、従来の2本から1本に変更されている。吉田氏によると、その理由は単に物理的に体積を減らすためだけではなく、試作段階では2本の仕様でも実験が行われていたというのだ。

「2本でもやってはみたのですが、同じところをかき混ぜるばかりで、その部分の具材がつぶれてしまいました。そこで、アームを1本にした上で、混ぜる機構を従来とは違った構造に変更して、均一に混ぜられるように改良しました」と明かす。

従来モデルでは、まぜ技ユニットのアームは自動で開閉し、下りたり戻ったりする機構を持つ。ところがこの機構は、小容量モデルでは思わぬ問題をもたらした。

「小容量モデルでまぜ技ユニットのアームの自動開閉機構を採用すると、本体サイズがどうしても大きくなってしまう問題がありました。一方で、コンパクト化を図りアームの自動開閉機能をなくすと、具材の上にアームが乗ったままで混ざっていないという不具合もありました。そこで、加熱時の火の入れ方やかき混ぜのタイミングなどにも工夫と調整が必要でした」と吉田氏は語る。

構造が変わっても、基本性能は変えない

結果として、「本体同様にまぜ技ユニットもコンパクト化を極めるため」(原中氏)、アームは2本から1本になり、自動開閉機構に代わり自重でアームが開く機構となった。

これだけ大幅な変更はあったが、原中氏は、「“基本性能は変えずに”という目標は変えられません」と強調。1本になったアームの形状にこめられたこだわりを話してくれた。

「まぜ技の技術が集約したこの1本アームの形状には、さまざまなアイディアが盛り込まれました。複数の実験を繰り返した結果、先端の部分を独特な三次元のヘラ形状にすることで、自重機構でもアームが具材の中に回転しながら自然と潜り込んでいく仕組みを開発することができました。混ぜる角度や形によって構造が決まったこのヘラの形を、デザイナーとしてはとても合理的で無駄のない形だと思っています」

ホットクックは調理家電である以上、当たり前だがおいしくできることも求められる。設計や構造などハード面を見直す一方で、制御プログラムを調整しながらの調理テストも繰り返された。

「プロトタイプを作っては、安全性やおいしくできるのか、うまく混ざるのかといった部分を、調理ソフト開発チーム中心に実験を重ねて検証しました」と吉田氏。

また、本体の縦横比が他のタイプとはまったく異なるため、従来機と同じ力加減で混ぜるとうまくいかなかったそうだ。

吉田氏は「例えば肉じゃがでは優しすぎてうまく混ざらなかったり、逆に具材がつぶれてしまったりすることもあり、加減を探りながら1つひとつ最適解を見つけていき、内鍋の縁の部分を使うなど、狭い空間の中でも上手に混ぜられるように工夫しました」と振り返った。

前編では、容量の違いによる機構・設計、構造など物理的な部分での改造、改良点のポイントと、工夫箇所、苦労話などを伺った。後編では、メニュー開発や使い勝手、外観デザインなど、商品の企画コンセプト全体にまつわるホットクックの考え方と、今後の方向性についてのエピソードを紹介したい。