ブリティッシュショートヘアの猫店長がいる窯元 うちの福招きねこ~西日本編vol.20

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展示品の陶器に触れることはほとんどない

400年以上の歴史と伝統を持ち、「用の美」(実用性の中にある美しさ)の器として親しまれている唐津焼。佐賀県唐津市鏡山の麓にある「赤水窯(あかみずがま)」では、熊本千治さん(72)、象さん(しょう=43)親子が、伝統と風土をいかしながら、新たな作品を生み出そうと日々作陶に励んでいる。そんな親子を見守り、訪れる人たちを和ませているのが、ブリティッシュショートヘアの「そうへい」店長(オス、8歳)だ。象さんに〝店長〟就任の経緯などを聞いた。

ブリティッシュショートヘアのそうへい店長

象さん: 元々、そうへいは5歳下の弟・由(ゆう)が福岡で一人暮らしをしていたときに飼っていたんですよ。僕も弟も幼いころから実家にはいつも猫がいて身近な存在でした。弟は「一人暮らしをしたら猫を飼いたい」とずっと思っていたようです。8年前、ペットショップで目が合って一目惚れしたそうで、福岡で一緒に暮らしていたんですが、4年前、弟は転職することになり、そうへいを連れてここに戻ってきたんです。

その当時、うちには黒猫のぽん太(オス、3年前に19歳で没)、白黒のしゃらく(オス、4年前に20歳で没)、茶白のむーちゃん(オス、現在18歳)の3匹がいました。3匹とも高齢で1階のギャラリーに降りてくることはなく、工房や住居がある2、3階で暮らしていました。新入りのそうへいがやってくると、先輩猫たちは「あっちいけ」といわんばかりに「シャー」と威嚇しました。でも、そうへいは臆することなく、いい意味で厚かましいというんでしょうか。3階建の建物内を自由自在に動き回り、ギャラリーに来られたお客さんとも接するようになりました。

18歳のムーちゃん。象さんが神戸にいたころ保護した子。ギャラリーにはおらず2、3階で暮らしている

そうして2年が経ったころ、弟は熊本へ。新たな仕事先では寮生活のため、そうへいを一緒に連れていくことができず、そうへいはここに残って「店長」を務めることに。展示会などのイベントで大勢の人たちがやってくると、最初は少し離れた所から眺めていましたけど、次第に人慣れしました。ブリティッシュショートヘアの看板猫は珍しいようで、「こんな猫、初めてみた」と人気者になっていきました。

灰色の毛並みは「ブリティッシュブルー」とも呼ばれる

いまはお客さんが入ってくると「よく来たね」といった感じで自分から興味津々、近寄っていきます。抱っこされるのは嫌いですけど、なでられるのはまんざらでもない様子。「展示している陶器を割ったりしませんか?」とよく尋ねられるのですが、そこはさすが猫。体重6キロの身体ながら器用に避けて歩き、陶器に触れることはめったにありません。

お気に入りの場所でお昼寝

それまで猫をモチーフにした陶器は作ったことがなかったのですが、商品として初めて作ったのは、今も特に猫好きの方々の間で親しまれている「黒猫の箸置き」でした。この猫のモデルはそうへい店長だといつもは言っているんですが、実はこの箸置きを作るきっかけとなった猫がいたんです。それが黒猫のぽん太。

黒猫のぽん太。「人なつこく、しなやかでスマートな子だった」(象さん)

ぽん太は僕が北九州の大学に通っていたころ、里親探しをしている方から譲り受けた保護猫。すらっとした体型で運動神経がよく、喧嘩も強かった。そうへいなんて近寄っても相手にさえしてもらえませんでした。

そうへいがやってきてしばらくたったころ、そのぽん太が扁平上皮がんになったんです。がんを発症したぽん太の顔は、顎の骨が変形してしゃくれ、次第に口が開かなくなりました。そのため、チューブを口に差しこみ、液状にした食べ物をスポイトで流し込まなければなりませんでした。ぽん太はそれでも普段食べていたフードを欲しがり、顔が相当痛いはずなのに僕たちに苦しいそぶりを見せず、ただただ生きようとしていました。

「手術すれば良くなるかもしれないが、高額な費用がかかる」と聞き、僕はいてもたってもいられなくなりました。それで無我夢中で作ったのが「黒猫の箸置き」だったんです。少しでもぽん太の手術費の足しにならないかと、5つの型のデザインを、あっという間に一晩で仕上げていた自分がいました。

「黒猫の箸置き」

結局、「高齢で負担に耐えられないかもしれない」と手術するには至らず、約1年の闘病生活を経て、ぽん太は19歳で虹の橋を渡りました。大往生でした。その後、箸置きはそうへいのイメージも加え、改良を重ねて今の形になり、みなさんに愛される商品になりました。

僕はこれまで磁器の制作が中心でしたが、今年からは地元・唐津の土や伝統の釉薬を使った陶器づくりに取り組んでいます。既成の枠や決まりごとにとらわれず、その時々に思いついたことを、自由気ままに試しているといった感じです。そういう意味では、猫のきまぐれさにちょっと通じるところがあるのかもしれませんね(笑)。仕事を楽しむことが、結果的に楽しい器につながるのではないかと考え、自分なりの唐津焼を模索しています。

1Fギャラリー内では、千治さんや象さんが制作した陶器、磁器を展示販売
店内から道ゆく人などを見つめるのも日課

壁に寄りかかって毛繕いしたり、お腹を出して寝たりと、そうへいのユニークなフォルムや仕草は、いつも家族やお客さんを和ませてくれています。ムードメーカーのような存在ですね。今年のねこの日(2月22日)には、猫をモチーフにしたオーバル皿を作ってみました。オリジナルの技法を試したりしてとても楽しかったので、来年のねこの日も、自分にしかできない器を作りたい。そうへい店長を眺めてはインスピレーションをもらい、試行錯誤の日々を過ごしています。

【窯名】「赤水窯」
【住所】佐賀県唐津市鏡4758
【電話】0955-77-2061
【HP】https://www.akamizugama-karatsu.com

象さんとそうへい。窯の前で
1976年、「加らつ屋クラフト工房」「喫茶加らつ屋」として誕生。工房は「赤水窯」と名を変え現在に至る

(まいどなニュース特約・西松 宏)