国も支援、災害にも強い再エネを地域で自給できる新たな仕組み

東京に接近する台風の数は過去40年間で約1.5倍に増えた

千葉県を中心に甚大な被害を与えた台風15号から約1年が過ぎた。この際に千葉県の睦沢町は地元産の天然ガスや太陽光で発電し、大手電力会社から独立した独自の送電網で供給する地域新電力が停電時も電力を供給し、防災に強いエリアを印象づけた。こうした事例も参考に、経済産業省は神奈川県小田原市や沖縄県宮古市で計画されている「地域マイクログリッド構想」を支援する。小田原市では蓄電池、EVを組み合わせて系統から切り離されても再生可能エネルギーを地域で活用できる仕組みを構築する。環境省も独立した送電網をもつ地域新電力が防災対策に効果があるとし、「エネルギー自給拠点エリア」の整備を推進している。(環境ライター 箕輪弥生)

自立した送電網がある地域新電力が停電時に活躍

ここ数年、勢力の強い台風の日本上陸が増加し、被害も大きくなりつつある。それに伴う停電、断水といったライフラインの寸断が市民の生活を直撃している。中でも昨年9月に発生した台風15号による停電被害は最大93万戸、復旧に10日以上がかかり、近年の停電被害のなかでは突出している。

千葉県を中心に約2000本の電柱が破損・倒壊し、電力の復旧を拒んだが、その中で完全停電を免れた地域があった。千葉県睦沢町は、地元産の天然ガスによるコージェネ発電設備と電力の自営線を利用して電気と温水を道の駅や住宅などに供給した。自営線は地中化していたため破損などもなかった。

これは町が出資する地域新電力の「CHIBAむつざわエナジー」によるマイクログリッドによるもので、複数の発電設備、蓄電設備などから自営線を使って電力を供給する分散型のエネルギーシステムだ。独立した発電源と送電線を持つため、系統が停電した時も自立運転が可能になる。

小田原市、EVと蓄電池をエネルギー自給システムに活用

小田原市は地産地消のエネルギーモデルにより発電・需要・余剰の運用を一元的に行い、ブロックチェーンによる地域の再エネ共有モデル構築を目指す

環境省は台風15号による長期間の停電障害や、2018年の地震による北海道全域でのブラックアウトなどもとらえ、「エネルギー自給拠点エリア」の整備を推進している。これは再生可能エネルギーの発電設備や、系統から独立して送電できる自営線、蓄電池などを組み合わせた電気供給システムの構築を指す。

一方、経済産業省はこのほど停電障害にも対応する「地域の系統線を活用したエネルギー面的利用事業」(地域マイクログリッド構築事業)の実証実験を神奈川県小田原市と沖縄県宮古市で行うと発表した。

小田原市の事業は、小田原市内の一般家庭に設置された太陽光発電の余剰電力を同地域内の大型蓄電池やEVに供給する。停電時には系統電源から切り離し、太陽光発電と蓄電池、EVを活用したマイクログリッドを運営し、地域のレジリエンスを強化する。

同事業は小田原市と京セラや湘南電力、A.L.I.テクノロジーズ(東京・港)、REXEV(レクシヴ)(東京・千代田)、そして地域の新電力である湘南電力(神奈川・小田原)が官民連携のコンソーシアムを立ち上げて行う。

小田原市はこれまでも再生可能エネルギーの地域利用に力を入れており、同事業に先駆けて再エネを活用したEVのカーシェアリング事業を湘南電力、REXEVと共に進めている。

今回の事業は、EVを「動く蓄電池」と捉え、地域においてエネルギーを無駄なく利用する地域エネルギーマネジメントをさらに進化させ、ブロックチェーンを活用して、どこに再エネが使われているかも紐づけるようにする。

同事業においてEVのエネルギーマネジメントを担うREXEVの藤井崇史取締役は「EVや大型蓄電池を調整役として電力の需給バランスをとる技術は、災害時にも生かせる」と話す。系統と切り離されたマイクログリッド内で、停電時に再エネがどう機能するか、EVや蓄電池がうまく調整役として働くか、実証実験の結果が期待される。

自治体が出資する地域新電力は現在、全国に50社程度あるが、自営線をもつのはそのうち3社ほどだ。自然災害が多発する日本では、自立した送電網、もしくは系統と離れてもエネルギーを自給できる小規模分散型の電力供給システムの確立が急がれる。

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