角田裕毅には「ルーキーらしからぬ強さが必要」と山本MD。F1昇格に向け、次戦ロシアの結果が重要に

 8月末のFIA-F2第7戦ベルギーのレース1で優勝を遂げた時点では、角田裕毅(カーリン)は選手権3位まで上がっていた。F1のスーパーライセンス取得に必要な選手権4位以内どころか、F2初年度でのタイトル獲得さえ射程距離に捉える勢いだった。

 それがわずか1カ月もしないうちに、選手権6位に後退。シーズンも残り3大会6レースを残すのみだが、毎戦勝者が入れ替わる混戦状態はこれまでと変わらないだろう。角田にとっては、1レースも落とせない厳しい戦いが最後まで続く。そんな角田に、今必要なものは何なのか。ホンダの山本雅史マネージングディレクターが語ってくれた。

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──本人の実力とは関係のない不運で結果が出せなくても、それが度重なると自信を失いかけたりするのではないでしょうか?

山本雅史マネージングディレクター(以下、山本MD):それはあります。特に第9戦ムジェロの2戦は、ダメージが大きいと思います。第8戦モンツァのようにエンジンが壊れただけなら、直後はヘコむにしてもあきらめがつきやすい。だけど(ヘルムート)マルコ博士も憤慨していましたが、レース1で5秒ペナルティを受けたり、マーシャルのマシン撤去に時間がかかりすぎてセーフティカーになってしまったりと、いろいろなことが不運でした。

 煮え切らないレースが続いたわけで、こういうのがドライバー的には(気持ちを)引きずりそうだと思いました。接触自体は本人のミスですけど、いいレースをしているのに結果が出ない時が、一番折れますよね。ましてやシーズン終盤ですし。混戦なので、最後まで頑張れば、角田くんなら勝ち獲れると信じていますけどね。

──9月の終わりに第10戦ロシアがあって、その後のバーレーンまで2カ月ほど空きますよね。マルコ博士は「10月頃には来期のドライバーラインアップが決まるだろう」と言っています。言い換えると、ロシアの結果が重要になるということですか。

山本MD:確かにマルコさんは、そう言っていました。そして僕も、ロシアの結果は重要だと思っています。それが終われば、残りは2大会4レースだけですよね。上位陣のポイントが、クリアに見えてくると思うんです。レッドブルの意向を僕が云々することはできませんが、マルコさんにしてみればロシアが終わった時点の結果を重視しているのではないでしょうか。

──ロシアで結果が出せれば、先が見えてくるということですね。

山本MD:そうだと思います。本人(角田)も言うように、レースのスタイルを変える必要はないでしょう。速さについては、文句ないですから。あとはとにかくスーパーライセンスを取らないといけなくて、そこが彼にもプレッシャーになっている。1年ずつ順調にステップアップしてきたなかで、来年のF1も視野に入っている。そのなかでこの2戦のような煮え切らないレースが続くと、気持ち的にキツイでしょうね。むしろ自分が大きなミスをするとか、モンツァのようなエンジントラブルの方が、ドライバーとしては切り替えやすいかもしれません。

 最後は気持ちの強さ、何がなんでもF1に乗るぞという気迫。それが前にも言ったニキータ・マゼピン(ハイテックGP)に比べると、角田くんにはちょっと足りないかもしれない。レースは一緒に走る相手を魅了する強さが必要ですから。ルーキーらしからぬ強さが必要だと、私は思っています。

2020年FIA-F2第9戦イタリア 角田裕毅(カーリン)

──スーパーライセンスを取れるかどうかにかかわらず、12月のアブダビテストを走る可能性は高いと思います。その話はすでに、レッドブル側とはしていますか?

山本MD:私は常に2年、3年先を見据えて育成ドライバーを見ていますし、F1に乗れるチャンスがあれば乗せてあげたいと思っています。F2とはまったく違う世界を味わうことは、本人の成長にもつながる。松下(信治/MPモータースポーツ)選手もザウバー(現アルファロメオ)でテストしたことが大きな糧になりましたしね。将来さらに強いレーシングドライバーになるためにも、チャンスがあればぜひ乗ってほしいと思っています。

──角田選手が今までのホンダドライバーと違う点は、レッドブルジュニアでもあるということだと思います。マルコ博士としては、たとえホンダのサポートがなかったとしても、角田選手の才能は十分評価できるということなのでしょうか。

山本MD:そう思います。日本人ドライバーとして初めて、レッドブルに認められた。レッドブルジュニアでもあるということは、マルコ博士が将来のレッドブルを担う人材のひとりと評価しているということですからね。

 レース1後もマルコさんは、5秒ペナルティには怒り心頭でしたね。「意味がわからない。誰がジャッジしてるんだ」と。ダニエル・ティクトゥム(ダムス)があんまり無線でうるさく言うから、ペナルティを下したのか。通常ならありえないと、私も感じました。

2020年FIA-F2第9戦イタリア 角田裕毅(カーリン)
2020年FIA-F2第9戦イタリア レース1 角田裕毅(カーリン)

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