「リアリティーショーとSNS」が奪ったもの。木村花さん、母の思い。誹謗中傷に法的措置も

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リアリティーショーとSNS。その“共犯関係”のなかで、追い詰められていった女性がいた。

22歳の若さで亡くなった、プロレスラーの木村花さん。人気リアリティーショー「テラスハウス」に出演し、番組上のあるシーンを機にネット上で多くの誹謗中傷を浴びていた。

母親の響子さんはいま、投稿をした人物に対して法的措置の準備を進めている。いったいどのような気持ちを抱えているのか。その心境を、取材した。

Etsuo Hara / Getty Images

「テレビに映っている人だって、同じ人間なんです。そうした人はダメージを受けないわけではない。そこはちゃんと、もしその人が自分の友達だったら、大事な人だったら、って考えてほしい」

そう、BuzzFeed Newsの取材に語るのは、5月に急逝した木村花さんの母、響子さんだ。こうした悲劇が繰り返されないようにしたいとの強い思いから、取材に応じたという。

「人格批判とか、『消えろ』とか『死んでくれ』『お前なんかいないほうがいい』とか。そういう言葉は誰だって、やっぱり痛みますよね。みんな、今はすごく軽い気持ちで誹謗中傷をしてしまっている。軽い気持ちでされた側がどれだけ傷つくのか、本当に、それぞれで考えてほしい」

生前、花さんに寄せられた誹謗中傷はTwitter上での公開投稿から、インスタのDM、タグ付されたストーリーなど、1日数百件に及ぶこともあったという。

番組側による過度な演出と、それに煽られた視聴者によるSNS上での大量の誹謗中傷。この”共犯関係”こそが、花さんを死に追いやったと、響子さんは思っている。

「番組自体が、そういう狙いの『炎上番組』であるとは思っていました。だって、実際そうでしょう? だから、ある程度の誹謗中傷があるとも思っていた。しかしそれは実際に思っていた以上に、悪質かつ執拗だったんです」

「マイノリティ」だったからこそ

木村響子さん提供

プロレスラーだった響子さんは、20歳で花さんを出産。シングルマザーとして、花さん育ててきた。とにかく明るい、家族のムードメーカーだったという。

「花ちゃんは、本当にすごい賑やかで。明るくて騒々しい家族のなかでも、ひときわうるさかったのが花なんです。いつも面白いことして、笑って……。もうめちゃくちゃ賑やかで、すごく明るい子でした」

「この子がいるから、私は強くなれたし、どこまででも、無理ができました。絶対に食べさせていかなきゃいけないっていうのがあったから、本当にしんどいこともしんどいと思わずに全力でできた。花がいなかったら、ここまで頑張れなかった、そんな存在ですね」

父親は、インドネシア出身だった。それゆえ花さんは子ども時代、学校で「ハーフ」として差別をされるような経験も受けてきたという。

「花自身、マイノリティとして育ってきた。ミックスであるということで、学校で嫌なこと言われたり、差別発言されたりするようなこともありました。だから、弱い立場の人に対して、すごく優しいところがあったんです」

「子どもでも、高齢者でも、障がい者の方でも。そういう人たちを勇気づけたいっていう気持ちがあった。特に子どもが大好きで、見かけたら知らない子でもすぐ話しかけて仲良く遊ぶ、みたいなところもありました」

自分と同じように、マイノリティとして弱い立場に置かれた人たちを、勇気付けたい。そんな思いを強く持っていたという花さんが選んだのは、響子さんと同じ、プロレスラーの道だった。

「ライバルといったらおかしいんですけど、花が頑張っているから私も頑張ろうって思えるようになった存在でしたね。羨ましかったし、よかったねっていう気持ちもありました」

「人前に出て自分の思いを伝えたかった子だったから、すごくいいふうに階段のぼっているなって、思っていたんです。私はその後に引退しちゃったんですけれど、家族のみんなで応援していました。おばあちゃんなんか、出ている番組全部見ていて……」

「煽り」が生んだ事件

木村響子さん提供

「花」という名前そのものの、弾けるような笑顔は多くのファンから愛された。そうして多くの人気を得ていくなか、決まったのがフジテレビの人気リアリティーショー「テラスハウス」への出演だった。

男女が同じシェアハウスで暮らす様子を「台本がない」という名目で描いた番組で、特に若年層に人気が高かった。Netflixを通じて世界190か国にも配信されており、過去のシリーズでは、出演がきっかけで一気に注目を集めるようになった人もいる。

一見、順調なキャリアステップのひとつにも見える。しかし響子さんは危惧もしていた、という。

「テラスハウスに出るってなった時に、誹謗中傷を受けることになるだろうなって、私は思っていたんです。というのも、これは炎上番組ですよね。演出で視聴者の気持ちを煽っていく、そしてそれによって番組が広がっていく、というような……」

「だから、誹謗中傷を見つけたときは、『ああ、とうとうきたか』というような気持ちで。悪質なものは私も通報をしていました。人格批判であったりとか、『死んでくれ』とか『消えろ』というひどい言葉であったりとか……」

散発的だった誹謗中傷が一気に花さんにぶつけられるきっかけになったのが、3月に配信されたエピソード内の「コスチューム事件」だった。

出演者の男性が誤って花さんのプロレス用のコスチュームを洗濯・乾燥して縮ませてしまったことで、花さんが男性に激怒。帽子をはたき落とすという「事件」は、SNS上でも大きく話題を呼び、ネットニュースなどにも相次いでまとめられたのだ。

この「事件」をめぐっては、花さんは響子さんに対し、制作側に「ビンタを煽られた」と語っていたという。

フジテレビ側は指示に従う誓約書の存在を認めた一方、「無理強い」については否定。響子さんは「花が暴力的な女性のように演出・編集された」などとして、放送倫理・番組向上機構(BPO)に人権侵害の申し立てをし、審理が始まった。

そうした現実とは裏腹に、テレビの中の花さんを「悪役」と見立てたネット上の誹謗中傷は一気に加速。花さんは、精神的に不安定となり、リストカットをするほどに、追い込まれるようになっていた。

そして、5月23日。花さんはTwitterに、「毎日100件近く率直な意見」が送られているとして、こう書き記していた。

「傷付いたのは否定できなかったから。死ね、気持ち悪い、消えろ、今までずっと私が1番私に思っていました」

「お母さん産んでくれてありがとう。愛されたかった人生でした。 側で支えてくれたみんなありがとう。 大好きです。弱い私でごめんなさい」

誹謗中傷した人物から届いた「謝罪」

Etsuo Hara / Getty Images

その死後、響子さんは、自らが思っていた以上に大量の、そして執拗ともいえる誹謗中傷が花さんに投げつけられていたことを、知った。

「Twitterの公開の書き込みだけではなく、インスタで、わざわざ花のアカウントをタグ付けして誹謗中傷したりとか、罵詈雑言のDMを送って、ブロックしたらまた違うアカウントで同じような文面で送ったりとか……」

「さらに、その人の友達からも送られて、ブロックしてもキリがない状態だった。そういうことは、私は知らなかったんです。思った以上に執拗で、悪質だった。本当に腹も立ちました。恨むというわけではありませんが、いろいろなマイナスな感情が……ありました」

いま、響子さんは悪質なツイートを寄せたユーザーに対し、刑事・民事両面で法的措置の準備を進めている。また、政府が動き出した法改正についても、与党・自民党の勉強会で講演するなど、協力をしている。

匿名の、そして大量の誹謗中傷がひとりの命を奪うことにつながりかねない。そんな、花さんと同じような悲劇が、二度と起きてはいけないーー。自らの処罰感情だけではなく、そうした思いが、響子さんの背中を押している。

「誹謗中傷が犯罪だということを、知ってほしいんです。そうやって知ってもらうことで、『これは犯罪なんだ。じゃあやめておこう』ってストップもかけられると思った。一人でも、二人でも罰してもらうことによって、抑止力になるんじゃないかなって思っています」

ただ、花さんや、自らに寄せられた誹謗中傷に対し、情報開示請求の手続きなどを進めているなかで、葛藤もあるという。なかには「謝罪」をしてくるような人物もいたからだ。

たとえばそのうちの一人、20代の人物は「後悔をしている。自分に生きる価値なんてない」という趣旨のメールを送ってきた。

「1カ月ちょっとしてから、実際に誹謗中傷していた方からも謝罪のメールがきました。適応障害で自分のやりたいことができなくて、その憂さ晴らし、ではないけれど許されないことだけどやってしまった、と。今は本当に後悔していて、自分なんかに生きている価値もないとも書いていました」

「そのメールを見た時に、やっぱり死なないでほしいと思ったんです。すごく若い方で。やっぱりそうやって人に酷いことを言う人は、自分に対しても普段からそういう酷い言葉を投げつけているんじゃないかなって……」

自分の行為に対し、何の意識をも感じない人には、厳しい対処が必要だ。しかし、自らの行為と向き合うことができる人たちや、その狭間にいる人たちのことも、一緒くたにしてしまって良いのだろうか。響子さんの葛藤は、まだ終わっていない。

「誹謗中傷した人たち、すべてをひとくくりには見られないんですよね、どうしても。でも、本当に難しいところで。『謝ったら許される』ってなってしまうのは、またちょっと違うのかな。自分のしたことについて、きちんと責任をとってもらうことも必要なんじゃないかなとか、いろいろそこは迷っていて、まだ答えが出ない部分ですね」

「加害者も被害者も、紙一重」

Saori Ibuki / BuzzFeed

誰かにとっては憂さ晴らしかもしれない。誰かにとっては、感想を強い言葉で書き込んだつもりだったのかもしれない。

しかし、数の暴力はおそろしい。番組側の「煽り」によってつくられた花さんの言動は多くの人たちに消費され、誹謗中傷はひとつ、ふたつではなく、数百、数千と積み重なっていた。

「テレビの中の人も、人間なんです」という響子さんの言葉通り、画面の向こう側にいる著名人だからといって、そうした大量の誹謗中傷に打ち勝てるわけではない。

「例えばいま外で、誰かが『あいつがお財布を盗んだぞ!』と言って、みんなが追いかけて捕まえるかもしれないですけれど、それでその人をボコボコにすることって今の時代ないと思うんですよ。でも、そういったことが、ネット上では行われている。しかも、お財布を盗ったっていうのが事実なのかどうなのかも分からないなかで、です」

響子さんがもうひとつ危惧していること。それは、ネット上の誹謗中傷は誰でも、加害者にも、被害者にもなりうるということだ。

「加害者も被害者も、紙一重なんです。たとえば、加害者になった人が、その次に『誹謗中傷するなんて最低』と多くの人に言われ、今度は誹謗中傷の被害者になってしまうこともありますよね」

だからこそ。誰でも気をつけるべきことがある、と響子さんは言葉に力を込める。

「みんなが自分の持っている情報だけで判断せずに、相手側の状況とか気持ちを思いやることが少しでもできれば、酷い言葉ってなかなか出てこないはず。だからこそ、大切なのは、情報を疑うことだと思います。ネットに書かれてあるような情報だけで判断しないでほしい」

「そして、みんなやっているからとかではなくて、自分の行動に責任を持って発信をしてほしいですね。『自分の主張が正しいかどうか』ではなくて『自分のやり方が正しいかどうか』を考えてもらいたい」

花さんが望んだ「世界」とは

木村響子さん提供

花さんの葬儀、告別式を終えたあと、響子さんはTwitterにこう書き込んだ。

「どうか 花のことで ご自分を責めないでください 他の誰かを 責めないでください なにかを 恨まないでください」

「ヘイトのスパイラルを 止めてください もうこれ以上 こんなことが起こらないように 花が望んだやさしい世界に 少しでも近づけるように」

花さんが望んだ「やさしい世界」とは、いったい、どんな世界なのだろうか。

「花は、亡くなる少し前に保護猫を引き受けたんです。その猫はマンチカンといって足の短い種類の猫なんですけど、花が引き取ったマンチカンは足の長いマンチカンで。足の長いマンチカンっていうのは売れないんです。売れ残ってしまえば、死んでしまうかもしれない。花はこれにすごく衝撃を受けて、『完璧でないと殺される世界』というような言葉を残していました」

そのマンチカンは、「からあげくん」と呼ばれていた。その愛くるしい見た目から、花さんが名付けたという。

「花は、人間は完璧じゃないということを知っていた。完璧じゃないからこそつくれる、やさしい世界があったと考えていたのかもしれません。互いに相手の気持ちを考える、思いやることができる……。当たり前のことかもしれません。でも、それが、花の望んでいた世界だったんだと思います」

リアリティーショーがつくりあげた世界は、果たしてどのような世界だったのだろうか。それこそまさに「完璧でないと殺される世界」ではなかったのだろうか。

それを煽った番組側と、それに乗じてきたSNSの危うい共犯関係が、ひとりの女性を追い詰め、そして彼女は命を失った。私たちはこの出来事を、決して、忘れてはいけない。


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