長崎市青山町の住宅団地内の私道の通行を巡り、所有する福岡県の業者と住民との対立が続いている。問題が表面化したのは昨年10月。業者側が通行料を求めて道路の一部を封鎖する一方、住民側は妨害禁止を求めて提訴する事態にまで発展した。市が代替道路を整備するなどの進展も見られたが、私道沿いの住民は「生活に支障が出ている状況は変わらない」と訴える。解決への道筋は不透明だ。
複数の住民によると、問題発覚後からタクシーや福祉車両、宅配業者などの車は私道に入っていない。玄関まで車を付けられず、デイサービス利用者は施設職員が車いすで迎えに行き、市道との境界部分に止めた車まで運んでいる。ある高齢女性はタクシーを降りて自宅まで歩いていた途中で転倒し、頭を数針縫うけがを負ったという。
近くのタクシー会社は玄関まで送迎できず「心苦しい」としつつ、「業者ともめたくない」と複雑な心境を明かす。一定の客離れも起きた。
住民側は通行妨害禁止を求め、昨年10月に長崎地裁に仮処分を申し立て、主張が認められた。ただ、業者側は原告7人以外の通行は認めていない。青城自治会の住民の一人は「仮処分が出て世間的には解決したと思われているが何も変わっていない。以前のように平穏な生活をさせてほしい」と悲痛な表情で話す。
■「なぜ今さら」
96人の住民が原告となっている裁判は長期化の様相を呈している。争点は住民が私道を通行できる権利「通行地役権」の有無だ。住民側、業者側双方の弁護士によると、開発業者と住民との間で通行地役権を設定した契約書は存在せず、住民による登記もされていない。
住民側は分譲時に開発業者から私道も通行できるとの説明を受けた上で購入したと主張。「市道と直接結ばれ各宅地まで各戸に車の横付けができます」と記載された当時の団地のパンフレットも残る。
50年近く、通行料を求められることがなかった事実からも「通行に関して何かしらの同意があったということ。もし合意がなければそれまでに請求があるはずだ」と指摘。道路の舗装や維持、管理も住民がしてきており「なぜ今さら」。
一方、業者側は通行地役権に関する契約書がなく、合意があったとは「認められない」と主張。「道路の所有者が通行料を求めることは法的にも問題はない。一方的に『業者=悪』となっている問題の構図はおかしい」と反論する。
■民間同士の話
住民側は問題解決に向け市の仲介も期待するが、市は「民間同士の話で介入できない」との立場。「住民と相談し、市としてできることをやっていく」とし、代替道路として今年8月、青山自治会内を通る細い市道を普通車が通れるよう拡幅した。市土木総務課によると、住民が一部負担して私道を市道に変更する制度もあり、相談が年間に10件程度寄せられる。多くは数軒のみに係る私道で、青山町のように通行権を巡るトラブルは把握していないという。