DeNA、史上最長16試合連続○●○●はなぜ起きた? データが示す得失点の“法則”

DeNAのアレックス・ラミレス監督【写真:津高良和】

4番・佐野が筒香の穴を補って余りある貢献、DeNAの前半戦振り返り

開幕前に前評判が高かったDeNA。現時点では首位巨人と大きく離されているものの、勝率5割前後をキープしている。そんなDeNAのペナントレース前半戦を、得点と失点の「移動平均」を使って、チームがどの時期にどのような波に乗れたかを検証する。(数字、成績は9月19日現在)

移動平均とは、大きく変動する時系列データの大まかな傾向を読み取るための統計指標。グラフでは9試合ごとの得点と失点の移動平均の推移を折れ線で示し、「得点>失点」の期間はレッドゾーン、「失点>得点」の期間はブルーゾーンで表している。

DeNAの得失点推移グラフ【図表:鳥越規央】

1試合平均は4.37得点に対して3.91失点と得失点はプラスに。レッドゾーンが目立つ推移グラフとなっている。ただ、グラフの幅が細くなっているのは、チームの得点が増えれば失点も増え、得点が減れば失点も抑えられるというバイオリズムが同調し、ある意味薄氷を踏む思いでシーズンを乗り切っている状況と言える。それは、6月26日から16戦連続で勝ち負けを繰り返した戦いぶりに象徴されている。

次に、DeNAの各ポジションの得点力を両リーグ平均と比較し、グラフで示した。昨年のグラフに比べ、弱点が補えたのかどうかを検証する。

DeNAのポジション別得失点(2019年)【図表:鳥越規央】

グラフでは、野手はポジションごとのwRAA、投手はRSAAで表示。赤色なら平均より高く、青色なら平均より低いことになる。

DeNAのポジション別得失点(2020年)【図表:鳥越規央】

昨季まで攻撃の要として活躍し、左翼の大きなプラスに貢献してきた筒香嘉智がメジャーリーグに移籍したことで「次の4番打者は誰が担うのか」に注目が集まっていたが、ラミレス監督はキャンプ前から佐野恵太を主将かつ「4番・左翼」で起用することを表明。佐野は3月のオープン戦で打点トップと片鱗を見せ、6月に開幕してからも9試合連続安打という好スタートで高打率をキープしてきた。本塁打が少なく長打力が疑問視された面もあったが、7月に入ってから効果的な本塁打も目立つように。打率.356はリーグ1位。さらに本塁打12本、三塁打1本、二塁打18本と長打率も.541に乗せ、OPS.961はリーグ4位と筒香の穴を補って余りある貢献をチームに与えている。

他のポジションでも、復調した梶谷隆幸がセンターとして大きく貢献するなど、穴の少ない布陣が形成されている。また梶谷は1番打者としてもリーグ平均に比べ大きなアドバンテージを生んでいる。また、3番・ソト、4番・佐野が試合の早い段階で機能することが多く、初回得点確率42.1%は12球団トップ。先制点を得ることで先発投手に安心感を与え、優位な試合展開に持ち込める確率を高めている。

DeNAの打順別攻撃力【図表:鳥越規央】

ただ惜しむらくは「2番・右翼」を任せる予定だったオースティンが度重なる怪我により前半戦は長期離脱。上位打線に厚みが増せばより大きなアドバンテージが生まれたはずで、ここはチームとしても計算外だった。

左腕の今永、右腕の平良の両軸失うアクシデント、守護神・山崎の不調も

目立った戦力補強のなかった投手陣だが、今季も大きな貢献を見せている。先発投手陣では、左の今永昇太、右の平良拳太郎の両軸が開幕からしっかりとクオリティスタート(QS、6回以上で自責点3以下)を重ね、ローテーションの中でも大きな存在感を見せた。特に平良は、開幕から8試合連続でQSを達成し、防御率1.72、WHIP0.99と抜群の安定感。制球の改善が昨年からの成長に寄与したものと思われる。しかし、8月16日のヤクルト戦で4回持たずに6失点で降板後、20日に背中の違和感を訴えて登録抹消。また今永も8月15日の同カードで平良と同じく4回持たず6失点の降板後、16日に登録抹消。一気にローテーションの両軸を失うアクシデントに見舞われてしまった。こちらも計算外だっただろう。

その後、大貫晋一や上茶谷大河がQSを重ね先発投手陣の核となっているが、コマ不足感は否めない状況である。

救援投手陣に関しては、前年同様、パットン、エスコバー、石田健大、国吉佑樹が安定した活躍を見せている。ただ入団以来5年連続でクローザーの大役を担っていた山崎康晃が誤算だった。6月27日の阪神戦でサンズに逆転3ランを打たれ敗戦投手となると、7月19日の巨人戦では丸佳浩にタイムリー内野安打を打たれ1点のリードを守れず降板。さらには、7月26日の広島戦で會澤翼に逆転満塁本塁打を喫した。この時点で12試合に登板し6セーブはあげていたが、これまでの安定感は崩壊。過去5年の成績と比べてみても明らかだ。

○2020年7月26日までの成績
防御率8.74 被打率.353 奪三振率4.76 WHIP2.29

○過去5年(2015~19)の成績
防御率2.34 被打率.213 奪三振率9.97 WHIP1.06

代わってクローザーを任された三嶋一輝は、ここまで安定感を見せている。

○7月29日に初セーブを記録してからの18試合、1勝9セーブ
防御率1.50 被打率.119 奪三振率9.00 WHIP0.58

三嶋は2019年からフォークに挑戦し、その成果が2020年シーズンに現れた。昨季のフォーク割合は2%ほどだが、今季は20%を超える割合に。空振り率は7%ほどではあるが、被打率1割以下とバッターを抑えるのに有効な球種となっている。またストレートの平均球速も150キロを超えるようになり、その威力を増している。

投打のバランスが取れていることを示すデータは、シーズン前の評判の高さを裏付けているが、投打の主力の離脱という計算外の事態に見舞われたことが、現在のリーグにおけるポジションに影響しているものと思われる。鳥越規央 プロフィール
統計学者/江戸川大学客員教授
「セイバーメトリクス」(※野球等において、選手データを統計学的見地から客観的に分析し、評価や戦略を立てる際に活用する分析方法)の日本での第一人者。野球の他にも、サッカー、ゴルフなどスポーツ統計学全般の研究を行なっている。また、テレビ・ラジオ番組の監修などエンターテインメント業界でも活躍。JAPAN MENSAの会員。一般社団法人日本セイバーメトリクス協会会長。

© 株式会社Creative2