「国道3号線 抵抗の民衆史」刊行 森元斎 長崎大准教授 インタビュー 「近代の九州」掘り起こす 他人と活動、社会変革に

「革命や抵抗という言葉にネガティブなイメージを持たないでほしい」と話す森准教授=長崎市文教町、長崎大の研究室

 西南戦争、水俣病、炭鉱労働者らによる闘争、米騒動-。これら近代の九州で起こった民衆による抵抗運動の歴史を、北九州市門司区から鹿児島県を結ぶ「国道3号線」に沿って掘り起こした「国道3号線 抵抗の民衆史」(共和国・2750円)が刊行された。前述した4件の抵抗運動について各章を設け、問題が発生した理由を探り、運動に関わった宮崎八郎や石牟礼道子、谷川雁といった詩人、活動家らの動向をつづっている。著者の森元斎長崎大准教授(37)=哲学・思想史=に執筆のきっかけや思いなどを聞いた。

 -九州の抵抗運動を題材に取り上げた理由は。
 2011年、福岡に移住してきた時に地域に暮らす住民同士の結び付きや郷土愛の深さに驚かされた。関東圏では考えられないくらい他人にも親切だ。高校教育を巡って「伝習館裁判」を闘った塾講師、故茅嶋洋一さんや、炭鉱労働者の組合活動に呼応した文芸誌「サークル村」の主要人物、森崎和江さんら個性的な人物との出会いにも刺激を受けた。彼ら九州人の気質に興味を持ち、どう培われてきたか調べるうちに、国家や企業への抵抗の歴史に行き着いた。

 -国道3号線に注目したのはなぜ。
 気になる抵抗運動や人物が活躍した場所をマッピングしてみると、驚いたことに、そこにはおおよそ国道3号線が通っていた。

 -民衆の抵抗には詩人、活動家が関わるケースが多い。抵抗運動に思想は必要か。
 「サークル村」では谷川雁が理論的な思想を展開し活動した。水俣病の抵抗史の中で、石牟礼道子は地域の住民の声や感情を積み上げて思想としていった。思想がありながらも民衆とともにある抵抗運動が理想的だろう。思想家の目線を通すことで、抵抗運動に学術的な意義付けが生まれ、研究の対象となったり、マスメディアに取り上げられたりすることもある。

 -本県にも興味深い民衆史はあるか。
 19年4月から長崎市内に住んでいるが、歴史の重層性が“半端ない場所”だと思う。潜伏キリシタンの歴史は調べていて楽しい。イサク・アブラハムというアナキストらが「人間はうんこ以外は作れない」という理念を基に「長崎製糞社」という団体を作ったという面白い史実もある。

 -哲学が民衆の抵抗運動に与えた影響は。
 明治政府による急速な近代化が進む鹿児島で、宮崎八郎はルソーの「社会契約論」を知り、ヨーロッパの自由に触れて閉塞(へいそく)感から解放されたのだと思う。そして「山鹿コミューン」を立ち上げた。哲学は行動や考え方を意義づけすることに使えて便利だ。

 -本を通じて読者に伝えたいことは。
 二つある。まずは自分の住む場所の歴史を調べてみてほしい。そうすることで、地元の景色がこれまでと違って見えてくるだろう。もう一つは、他人と一緒にクリエーティブな活動に取り組んでみてほしい。生活の上での愚痴を言い合い、それを解消するために行動を起こすことが社会の変革につながっていく。

 【略歴】もり・もとなお 1983年、東京生まれ。中央大卒、大阪大大学院人間科学研究科博士後期課程修了。博士(人間科学)。2019年4月から長崎大教員。著書に「アナキズム入門」(ちくま新書、17年)など。

「国道3号線 抵抗の民衆史」の表紙

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