国際機関で働く日本人に聞く やりがいは? 求められる能力は?

 猛威を振う新型コロナウイルス感染症が、途上国での貧困解消や国際的な金融
システムの安定化を脅かしている。世界銀行や国際通貨基金(IMF)などは年
明け以降、前例のないハイペースで対応に当たってきた。ただ、国際機関と言うとどうも敷居が高くてどのような人が働いているのかも想像しにくいのではないだろうか。世界の現場へ飛び込み、グローバルな課題に取り組む日本人2人に仕事のやりがいや、国際機関で働いてみたいと考えている人に対して求められる能力を聞いてみた。(共同通信=金友久美子)

世界銀行の西尾昭彦さん.

 ▽途上国の人の喜ぶ姿や自分の成長を実感 西尾昭彦世界銀行副総裁

 アジア、欧州、アフリカ…。出身国も人種も異なる同僚たちから「アキ」のニックネームで呼ばれるのが、世界銀行で開発金融総局担当の副総裁を務める西尾昭彦さんだ。最貧国を援助する財源を確保するため、責任者として各国を駆け回る。新型コロナによる影響で最大1億人もの人が1日1・9ドル(約200円)未満で暮らす「極度の貧困」に陥ると懸念。感染症対策などが滞らないよう、前例にとらわれない機動的な支援にも腐心してきた。

 埼玉県所沢市生まれ。神奈川県立横浜翠嵐高校在学中にブラジルを訪れたことがきっかけで、国際的な仕事への志を抱くようになった。日本での金融機関への就職や留学を経て、32年前に世銀に入行。若手時代はハンガリーやチャドの貧困解消や生活向上に取り組んだ。

インドネシア・スマトラ島で働いていた頃の西尾さん

 インドネシアでは7年にわたり、農村の開発プロジェクトのチームリーダーに。現地を調査すると「土地の登記システムがぜい弱で、所有権が確定できないために土地を担保とした借り入れができなかったり、地上げに抵抗できなかったりという問題が浮かび上がった」。インドネシア政府とともに登記を進める事業を展開し、土地所有証明書を嬉しそうに受け取った人の姿が今でも忘れられない。

 「その国のどこに課題があるのという問題点の洗い出しからプロジェクトの立案、実行まで一連の過程に取り組むことができ、実際に人々の暮らしが良くなっていく様子を実感できる」。開発支援の現場で長く培った経験から、やりがいをこう語る。

 近年は、米首都ワシントンにある世銀本部で資金調達や組織改革の仕事に携わってきた。昨年2月に生え抜きの副総裁に就任。国際機関での仕事について「国籍や宗教などに関係なく、見識や事務能力、人間関係をどうやって作っていくかといった総合的な能力が問われる場所だ」と語る。実力主義の厳しい世界ではあるが「多様性を楽しみ、自分が成長していく姿がみられる素晴らしい職場だと思う」と力を込めた。

国際通貨基金(IMF)の大浦博子さん

 ▽フロンティアを切り拓く 大浦博子・国際通貨基金(IMF)副課長

 新型コロナによる世界的な景気後退は、新興国からの急激な資金流出といったさらなる経済危機につながらないか警戒が続いている。さまざまな問題への対処のベースとなるのが、エコノミストたちの現状分析だ。

 2004年に国際通貨基金(IMF)に入った大浦博子さん(46)は、金融システム分析のエキスパート。現在は金融市場局金融セクター評価政策課の副課長として世界全体や特定国の分析を続けている。「実際の世界で起こっていることに対して、自分の専門性を発揮して政策研究を深める役割がある。(金融機関の危機対応能力を測る)ストレステスト分野では『フロンティア』を切り拓くことができた」と手応えを語る。

大浦さんが得意とする金融セクターの健全性に関する評価分析は、学術界での研究よりも各国の中央銀行など実務の世界で深められてきた分野の一つだ。コロナによる急激な経済情勢の変化に限らず、密接なつながりを築く世界経済の金融安定化にはいまや欠かせない分析。大浦さんらはいち早く、リーマン・ショック以降の金融市場でノンバンク部門の存在感が高まりに着目し、危機発生時のリスクとなりかねない状況について警鐘を鳴らしてきた。

 分野が違う広範囲の専門家とタッグを組むのも、アカデミックの世界とは異なる「国際機関ならではのやりがい」という。現在は気候学や災害リスクの社外専門家と、気候変動が金融セクターの健全性に与える影響を分析中。フィリピンなど特定の国のプロジェクトも同時並行で抱え、多忙な日々を送る。

 愛媛県松山市出身で両親はともに教員。小学生のときにたまたま新聞広告に入っていた子ども向けの海外視察ツアーに参加し、中国やシンガポール、マレーシアを見て回った。「いつか海外で仕事をしたい」という気持ちを抱き続け、経済学を専攻。東京大学で学士、修士課程を終えた後、米国屈指の名門ペンシルベニア大に留学して博士号を取得した。

 IMFが日本の組織と異なるのは「自分のキャリアは自分自身でつくっていく」という点だという。希望するポストが空くと公募がかかり、自ら応募して面接を受けるのが一般的で「誰かがどこかでがんばりを見ていてレールを敷いてくれる、という考えは通用しない」。

 逆に「プロジェクトやキャリアを選ぶ際の自由度はかなり高い」のが面白みでもある。語学や専門性、プログラミングといった能力とともに「やりがいのある仕事をしていくためには、自分が積み上げてきた実績を伝え、次の仕事の意義を論理的に語りかける説明能力が不可欠だ」と話す。

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