米国大統領選挙でトランプ不利ともいえない本当の理由(歴史家・評論家 八幡和郎)

アメリカ大統領選挙は、いよいよ佳境である。これからの主な日程は、9月29日に両候補による第1回のテレビ討論会、10月7日には副大統領候補同士の討論会、10月15日には第2回の大統領候補同士の討論会、22日に第3回で、11月3日に投票が行われる。そして、来年の1月20日に次期政権が発足する。

これはいずれもアメリカ時間で、だいたい12時間の時差なので、さまざまな行事がある向こうの夜は日本時間だと翌日の朝だ。

アメリカ大統領選挙と日本への影響などについて、私が最近、「アメリカ大統領史100の真実と嘘」 (扶桑社新書)という本で書いたことを少し紹介しておこう。

現在の所は、支持率はバイデンが54%、トランプ45%くらいである。コロナがなければトランプ優位だったかもしれないが、トランプのコロナ対策の失敗と、バイデンが自宅に籠もってネットでだけ運動しているので、失敗しないという二重の意味で得している。

これだと普通に考えればバイデンが圧倒的に有利である。賭けするなら80%くらいバイデンさんが勝つ可能性があるという前提が普通だ。

米大統領選・共和党候補者のドナルド・トランプ氏

しかし、このくらいの差はトランプにとって悲観的になる必要はないと思われる。理由は、以下のようなことである。

①アメリカの大統領選挙は州ごとの総取り方式である。そのために支持が多い方が勝つとは限らない。前回の選挙でも得票総数ではヒラリーがトランプより多かったのだ。

州ごろの総取り方式は普通には、大きな州に強い候補に得であり、ニューヨークとカリフォルニアで強いバイデンに有利なはずである。

これらの州でバイデンはぶっちぎりで勝ちそうなのである。ところが、1票でも多ければいいのであって、圧勝しても死に票になる。

だから、トランプさんが48%、バイデンさんが52%の得票でだいたい選挙人獲得数は同じになりそうなのである。アメリカ大統領選挙は、オハイオ、ペンシルベニア、フロリダ、ウィスコンシン、ネバダ、バージニアあたりがどっちに転ぶかだけが焦点なのだ。

②候補者討論会は、情勢を一気に変える転機にこれまでも成ってきた。普通にはバイデンが不利である。年齢差もあるし、バイデンには認知症の疑惑まである。それに、リアリティ番組の司会者をしていたトランプ氏の話術の巧みさの前ではどうしたって不利とみられる。だから、3回の討論会を経るとトランプが増えそうである。

副大統領候補については、あまり副大統領候補が無能だとか知識がないと、大統領候補の足を引っ張る。記憶に新しいところでは、マケイン大統領候補の副大統領候補のペイリン女史はあまりもの知識の不足を露呈して、状況を大いに変えた。

米大統領選・民主党候補者のジョー・バイデン氏

現職のペンス副大統領は、少なくとも、大きなミスはしないだろう。バイデンもそれが怖いので、どちらが大統領候補かわからなくなる危険には目をつぶって、知的水準も高く、国際感覚はそもそも身についているし、上院議員をやっているので何事にも一応の知識があるジャマイカ系黒人とインド系のハーフであるカマラ・ハリス上院議員を選んだ。

ただ、カマラが調子に乗ってリベラル路線で走りすぎると、路線問題としてトランプに攻撃のきっかけを与えるだろう。

③世論調査については、隠れトランプが多くて、本当はトランプに投票するがそれを公言したくない人がかなりいるといわれる。世論調査では党や候補者によって、本当は投票するのだが、そのことをいいたくないという層がある。

日本では公明党の支持率など世論調査では投票率よりかなり低く出る。どちらの側にもいるだろうが、マスコミがトランプを支持することは悪いとか、知的でないとか宣伝しがちなので、トランプ支持者のほうに隠れキリシタンは多そうだ。

④現職候補は、選挙日にあわせてサプライズを起こすことが容易である。とくに外交はやりやすい。アラブ諸国とイスラエルの国交樹立などかなりのサプライズだったが、まだまだありそうだ。

というわけで、相変わらず、どちらが分からない。

 

それでは、日本にとってどっちがいいのか。それは、いろいろ書いているが、あえていえば、バイデンの方が安心できる。もちろん、トランプは中国や韓国など日本が対立している国に厳しいというのは日本に有利なことである。

安倍首相の交代が来年だったら、それを前提に、トランプ政権の第二期のスタートのときに、安倍首相がしっかり枠をはめてくれるなら、トランプのほうが得かと思っていたのだが、安倍首相が辞めてしまったいま、果たして菅首相のもとでトランプ氏とうまくやっていけるかは未知数である。

それを考えるとバイデンが勝ってくれたほうが無難なのは事実である。なにしろ、菅首相は外交について、ほとんど語っていないのである。そういう意味でも、新政権のもとでの外交体制の整備だとか、菅首相がどの程度、首脳外交をやれるか、固唾を呑んで見守るしかないということだ。

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