かかりつけ歯科医への信頼がコロナ禍での不安を軽減

15歳〜79歳の男女10,000人に聞く、「歯科医療に関する生活者調査」
かかりつけ歯科医への信頼がコロナ禍での不安を軽減
コロナ禍での歯科受診に約6割が「不安あり」。不安理由は「感染する・させてしまうリスク」。
「不安に感じない」理由は「かかりつけ歯科医への信頼」。
「歯科医療機関での感染報告がないこと」も安心材料に。

公益社団法人日本歯科医師会(所在地:東京都千代田区九段北、会長:堀 憲郎)は、全国の15歳〜79歳の男女を対象に、2020年7月30日(木)から8月1日(土)まで、「歯科医療に関する一般生活者意識調査」を実施しました。
本調査は、当会の広報活動の趣旨である「歯科医療に対する国民の認知度・理解度向上」および「歯科医師や診療に対する評価・イメージの向上」に向け、現状の歯科医療を取り巻く環境や生活者の意識を把握し、今後の広報展開に役立てることを目的として、2005年からほぼ隔年に実施しているもので、今回で8回目になります。同調査結果によって、以下のような実態が浮き彫りになりました。

①新型コロナウイルス感染拡大と歯科受診

緊急事態宣言期間中、「歯科受診が不安」は63%、7月には58%。受診への不安は和らぐ傾向に

・緊急事態宣言期間中、歯科受診・定期チェックを受けることに対して、63.0%が「不安あり」。7月現在は58.1%に低下。すべての年代で、歯科受診を不安に感じる人は減少している。
・ 歯科受診を不安に感じる人が多いのは、「女性」「30代」「40代」。
・「現在治療中」や「定期的にチェックを受けている」人のうち不安に感じている人は約半数。一方、「現在中断中」の人では約8割が不安に感じている。
・「かかりつけ歯科医」が「いる」人のほうが、「いない」人より、不安度は低い。

コロナ禍でも受診を不安に感じない理由は、「かかりつけ歯科医への信頼」「歯科医療機関で感染がないこと」

・歯科受診に「不安あり」の理由は、「口を開く必要があり、感染リスクがあると思う」(76.5%)、「近い距離で治療や検査を受けるため」(58.5%)など。「自分が感染しているかどうかわからないので」(44.7%)も。
・「不安なし」の理由は「かかりつけ歯科医を信頼している」(44.5%)、「機材や器具が衛生面で十分に配慮されていると思う」(35.1%)、「これまで歯科医療機関で感染したという報告がないため」(27.3%)など。

新型コロナウイルスを理由に、歯科治療を中断・キャンセル

・2020年1~6月に受診をキャンセルした人は「現在治療中」の約2割、「現在中断中」の約3割。3~4月のキャンセルが目立つ。
・治療中断者の中断理由は、「新型コロナウイルスの感染拡大を考慮し、受診やチェックを控えたから」(44.6%)。
・5月以降、歯科受診や定期チェックを受ける人が徐々に増加。

②コロナ禍での生活変化と歯や口の健康のために実践していること

コロナ禍の生活変化で、歯や口の健康リスク増大の可能性あり

・コロナ禍で「運動量減少」(56.8%)、「間食増加」(41.5%)し、約4割(41.9%)が体重増を自覚。 ・マスク着用が常態化し、「口元を見せることが減った」(82.2%)、「人と話すことが減った」(61.4%)など、口を動かすこと自体が減っている。「食べた後は必ず口をゆすぐ」は34.6%、「口の周囲をマッサージしたりよく動かす」は5.5%にとどまる。

「インフルエンザや新型コロナウイルス」と「歯と口の健康」との関連性への認知は低く、対応策の実践者も少ない

・「歯磨きなど口腔(こうくう)内を清潔にすることで、インフルエンザへの感染リスクを下げる」ことの認知者は約2割(23.6%)。
・「歯ぐきと歯の間までしっかり磨く」は約4割(38.6%)。「毎日、舌を磨く」は約2割(16.4%)。

調査概要:■実施時期 2020年7月30日(木)~ 8 月1日(土)■調査手法 インターネット調査 ■調査対象 全国の15〜79歳の男女1万人
*本調査では、小数点第2位を四捨五入しています。そのため、数字の合計が100%とならない場合があります。

新型コロナウイルス感染拡大と歯科受診

日本歯科医師会からのごあいさつと総括
日本歯科医師会では、近年、口腔の健康が全身の健康と密接に関わり、口腔健康管理の充実が健康寿命の延伸につながるデータを発信するとともに、歯や口腔の健康への国民の皆様の関心や理解度を把握するために、10年以上にわたり本意識調査を実施しております。
これまでの本調査では「定期受診」や「かかりつけ歯科医」についてお尋ねしてまいりましたが、今回もそのような項目の調査を継続するとともに、本年発生し、社会生活に大きな混乱をもたらしている新型コロナウイルス感染症についてもお伺いしました。
今回の調査結果によれば、コロナ禍でも、かかりつけ歯科医がいる方の精神的不安が軽減されているという結果や、歯科医療機関での感染報告がないことも安心材料となっていることが明らかとなりました。また緊急事態宣言期間中には、歯科受診を控える傾向が懸念されていましたが、本調査でもそのことが明らかとなっています。
口腔内の痛み等の急性疾患は放置できないものであり、かめない状態が長期に及べば免疫力も含む全身の健康を損ないます。 定期管理、訪問診療等の延期による全身状態の悪化も危惧されます。
歯科医療をご提供する側としては、これまで歯科治療を通じての感染拡大の事例報告がないことを踏まえ、歯科診療所における感染防止の標準予防策に加えてさらなる工夫を行い、国民の皆様の歯や口腔の健康を守るとともに、適切で充実した情報を発信していきたいと考えています。私たちは、これからの新しい生活様式の中でも、国民の皆様の「食べる、話す、笑う」といった生活の基本的な機能がしっかりと維持されるよう努めてまいります。

■すべての年代、全国各地で、歯科受診に対する不安は和らぐ傾向に
新型コロナウイルスの感染拡大が続くなか、歯科医療機関で診療やチェックを受けることを不安に感じるかと聞いたところ、緊急事態宣言期間中は63.0%が「不安」を感じていた(「不安に感じた」「やや不安に感じた」の合計)ことがわかりました。それが7月になると、「不安」を感じている割合は58.1%になり、歯科受診に対する不安はやや弱まってきている様子がうかがえます。緊急事態宣言期間中、71.6%が「不安」を感じていた「女性層」でも、7月には64.9%に下がるなど、性、年代を問わず、不安に感じる人の割合が減ってきています[図1]。

[図1]歯科受診・定期チェックを「不安」に感じている人の割合(全体、性別、年代別)
*「不安に感じる」「やや不安に感じる」と回答した割合の合計値
また、新型コロナウイルス感染の広がりは都道府県によって異なりますが、東京を含む関東地方でも、「不安」を感じている人の割合は、緊急事態宣言期間中の65.8%から7月は60.3%に下がっているように、全国各地で、歯科受診・定期チェックを受けることに対する「不安」は弱まっているようです[図2]。

[図2]歯科受診・定期チェックを「不安」に感じている人の割合(全体、居住地別)
*「不安に感じる」「やや不安に感じる」と回答した割合の合計値

■ コロナ禍の7月現在、女性の約65%、30代・40代の約6割が歯科受診・定期チェックを「不安」に感じている
コロナ禍の2020年7月時点で、歯科受診・定期チェックを受けることに対して、男性は、18.6%が「不安に感じている」、32.4%が「やや不安に感じている」と答え、合わせて51.0%、約半数が「不安」を感じています。一方、女性は、24.3%が「不安に感じている」、40.6%が「やや不安に感じている」と答え、合わせて64.9%が「不安」を感じています。男性に比べ女性の方が不安に感じる人が多くなっています。
年代別に見ると、30代では63.2%、40代では60.2%が「不安」を感じており(「不安に感じている」、「やや不安に感じている」の合計値)、他の年代に比べて、不安に感じる人の割合が高くなっています[図3]。

[図3]歯科受診・定期チェックを「不安」に感じている人の割合(2020年7月時点:全体、性別、年代別)

■ 「現在治療中」や「定期的にチェックを受けている人」で不安に感じているのは約半数。「現在中断中」の約8割が不安に感じている
今回の調査対象者1万人に、現在の歯の治療状況を聞いてみたところ、10.6%が「現在治療中」、6.2%が「治療を受けていたが、現在は中断している(現在中断中)」、33.8%が「現在治療はしていないが、定期的にチェックを受けている」と回答しています。
この治療状況別に不安に感じている割合を見ると、「現在治療中」(1055人)では55.1%、「定期的にチェックを受けている」(3376人)では52.8%が「不安」を感じており、不安を感じている人は半数程度であることがわかりました[図4]。
一方、「現在中断中」(617人)では、不安に感じている人の割合が約8割(78.6%)に上っています。「現在中断中」の人で、緊急事態宣言期間中に治療を不安に感じていた人は82.8%でしたので、当時から比べればその割合は縮小していますが、それでも約8割の人が不安に感じています。

[図4]歯科受診・定期チェックを「不安」に感じている人の割合(2020年7月時点:全体、治療状況別)

■「かかりつけ歯科医」が「いる」ほうが、「いない」より、不安度は低い
「かかりつけ歯科医」がいる人(6212人)といない人(2884人)を比べてみると、不安に感じている人(不安あり)の割合は、「かかりつけ歯科医がいる」では57.5%、「かかりつけ歯科医がいない」では63.4%で、「かかりつけ歯科医がいる」ほうが不安度(不安に感じる人の割合)が低くなっています。かかりつけ歯科医の存在が、コロナ禍での治療やチェックへの安心につながっているようです[図5]。
[図5]歯科受診・定期チェックを「不安」に感じている人の割合(2020年7月時点:全体、かかりつけ歯科医有無別)

■「不安」を感じる理由は、「感染する・させてしまうリスク」。「不安」を感じない理由は「かかりつけ歯科医への信頼」。「歯科医療機関での感染報告がないこと」も安心材料に
7月現在、「不安」を感じている5811人(「不安に感じる」「やや不安に感じる」の合計)にその理由を聞いたところ、4人に3人が「口を開く必要があり、感染リスクがあると思う」(76.5%)と答えています。また、「近い距離で治療や検査を受けることになるから」(58.5%)と答えた人も約6割いました。20代~40代では、約半数の人が「自分が感染しているかどうかがわからないので、感染させるリスクがあるかもしれないため」と答えています。「感染してしまうかもしれないリスク」「感染させてしまうかもしれないリスク」が歯科医療機関に通うことを不安に感じさせているようです[図6-1]。
[図6-1]「不安に感じる」理由(「不安に感じる」「やや不安に感じる」の合計値)

一方、「不安」を感じていない4189人(「不安を感じない」「あまり不安を感じない」の合計)の理由は、 「かかりつけ歯科医を信頼しているため」(44.5%)、「機材や器具なども衛生面で十分に配慮されていると思うから」(35.1%)、「これまで歯科医療機関で感染したという報告がないため」(27.3%)など。60代の51.5%、70代の64.6%が「かかりつけ歯科医を信頼しているため」と答えています。かかりつけ歯科医や歯科医療機関への信頼に加え、「歯科医療機関での感染報告がない」ことも安心材料になっているようです[図6-2]。

[図6-2]「不安に感じない」理由(「不安を感じない」「あまり不安を感じない」の合計値)

■2020年1~6月にキャンセルをした人は「現在中断中」の約3割。3~4月にキャンセルが目立つ
■治療中断者の中断理由は、「新型コロナウイルスの感染拡大を考慮し、受診やチェックを控えたから」がトップ
現在の治療状況について、「現在治療中」と答えた人(1055人)と、「現在中断中」と答えた人(617人)に、2020年1月~6月に、歯科受診や定期チェックをキャンセルしたかを聞くと、「現在治療中」の16.9%、「現在中断中」の30.5%が「キャンセルをした」と答えています[図7]。
[図7]キャンセル実施率(2020年1~6月)

月別のキャンセル率をまとめると、「現在治療中」「現在中断中」ともに、緊急事態宣言が発令された4月にキャンセルをした人の割合が最も高くなっています[図8]。
[図8]月別キャンセル実施率

また、「現在中断中」の人に、中断している理由を聞くと、「新型コロナウイルスの感染拡大を考慮し、受診やチェックを控えたから」(44.6%)が4割を超えており、新型コロナウイルス感染拡大が、歯科受診中断の大きな要因になっていることがうかがえます[図9]。
[図9]「現在中断中」者の中断理由

■5月以降、歯科受診や定期チェックを受ける人が徐々に増加
調査時点(7月~8月)の治療状況について、「現在治療中」と答えた人(1055人)に、1~6月の受診状況を振り返ってもらいました。緊急事態宣言が発令された4月に受診した人の割合は29.1%ですが、5月以降、割合は増加し、6月には 受診を開始した人が含まれるせいか、約6割(59.7%)が受診したと回答しています[図10]。
[図10]「現在治療中」の1~6月に受診した割合

「定期的にチェックを受けている」人でも、4月は1割弱(9.9%)でしたが、6月には22.2%と、倍増しています[図11]。
[図11]「定期的にチェックを受けている人」の1~6月にチェックを受けた割合

コロナ禍での生活変化と歯や口の健康のために実践していること

■コロナ禍で「運動量減少」「間食増加」。約4割が体重増加。約8割がマスク着用で口を動かす機会が減少
新型コロナウイルス感染拡大によって、在宅時間が増えるとともに、新しい生活様式が求められ、人々の日常生活が変わっていることが予想されます。そこで、調査対象者全員に、コロナ禍での生活変化を聞いてみたところ、56.8%が「運動量が減った」、41.9%が「体重が増えた」、41.5%が「間食の頻度や量が増えた」と答えています(いずれも「あてはまる」「ややあてはまる」の合計)[図12]。
[図12]コロナ禍での生活変化

また、「マスクを使うため口元を見せることが減った」(82.2%)、「人と話すことが減った」(61.4%)、「大声で笑うことが減った」(48.2%)など、多くの人が、口を動かすこと自体が減っています(いずれも「あてはまる」「ややあてはまる」の合計) [図13]。
[図13]コロナ禍での「口まわり」に関わる変化

一方、コロナ禍での生活変化を経て、歯や口の健康のためのケアはどのように変化しているのでしょうか。回答者全員に、「歯磨き」、「デンタルフロス」、「口臭ケア」などの回数を、新型コロナウイルスによる生活変化の前と現在とで比較してもらったところ、「うがいや口をゆすぐ回数」が増えたと答えた人が約3割いましたが、それ以外の項目では、多くの人がほとんどの項目で「変わらない」と答えました[図14]。
[図14]コロナ禍での、口や歯の健康のための行動変化

■「歯や口腔の健康のためのケア」の実践率は低い
現在、歯や口の健康のために実践していることを聞いたところ、「歯ぐきと歯の間までしっかり磨く」が約4割(38.6%)で最も多くなっています。コロナ禍の生活変化で、間食が増えた人が約4割いましたが、「食べた後は必ず口をゆすぐ・または歯磨きをして口の中を清潔にする」は3割台(34.6%)にとどまりました。毎日の生活の中で、口の中を清潔に保つためのケアを実践している人は少数のようです。また、図13で見たように、口を動かすことが減っていますが、「口の周囲をマッサージしたり、よく動かす」人は、わずか5.5%にとどまりました[図15]。
[図15]現在、歯や口の健康のために実践していること

■「インフルエンザや新型コロナウイルス」と、「歯や口の健康」との関連性への認知は低く、年代によって認知に差あり
歯や口の健康は全身の健康に密接に関係していますが、具体的な事柄について、どのくらいの人々が知っているのでしょうか?
「歯周病を放置すると、歯周ポケットという深い溝ができてしまい、細菌の温床となり、ウイルス感染しやすくなる可能性があること」を知っているかどうかを聞いたところ、約4割(39.5%)が「知っている」と回答しました。一方、「歯磨きなど口腔内を清潔にすることで、インフルエンザへの感染リスクを下げること」について、「知っている」は約2割(23.6%)、「舌磨きなどが新型コロナウイルス感染の重症化リスクを軽減できる可能性があること」については1割以下(7.3%)の認知にとどまり、インフルエンザやコロナウイルスと歯や口の健康に関する事柄については、まだ十分に知られていないことが明らかになりました。 また、これらの項目について、男性より女性の方が知っている人が多く、年代別では若年層より高齢層で知っている人が多くなっており、性別や年代によって、認知度合いに開きがあることがわかりました[図16]。
自分自身で手軽にできる歯や口のケアが、インフルエンザの感染リスクや新型コロナウイルスの重症化リスクを軽減できることを知っている人はまだまだ少ないといえそうです。

[図16]「インフルエンザや新型コロナウイルス」と「歯や口の健康」との関連性への認知度

■感染症対策の観点からも、歯と口のケアを
■「歯や口を健康にすることで、感染症へのリスクを軽減」実践者はまだ少ないが、効果の認知で実践率が上昇
インフルエンザや新型コロナウイルスと歯や口の健康について知っていると回答した人の、歯や口の健康ケアの実施状況を確認すると、「歯磨きなど口腔内を清潔にすることで、インフルエンザへの感染リスクを下げること」や「歯周病を放置すると、歯周ポケットという深い溝ができてしまい、細菌の温床となり、ウイルス感染がしやすくなる可能性があること」を知っている人のほうが、「歯ぐきと歯の間までしっかり磨いている」人が多いことがわかりました。また、「舌磨きなどが新型コロナウイルス感染の重症化リスクを軽減できる可能性があること」を知っている人の方が、舌磨きをしている人が多いこともわかりました。効果がわかると実践率も上がるようです[図17]。
[図17]「歯や口腔の健康と感染症との関連性」への認知と、「歯ぐき・歯の間までのしっかり歯磨き」および「舌磨き」の実践状況

「歯ぐきと歯の間までしっかり磨いている」人や、「毎日、舌を磨いている」人はまだまだ少数ですが、インフルエンザや新型コロナウイルス感染症対策の観点からも実施していくことが望まれます。