スーパーGT:開幕戦での事件。バンドウ&宮田莉朋の気合の写真が却下されていた

 2020年のスーパーGTも、9月12〜13日に開催された第4戦ツインリンクもてぎを終え、シーズンも折り返しを過ぎた。新型コロナウイルス感染拡大の影響で異例のシーズンとなっている今季だが、そんな新型コロナウイルスの影響と言っていいのかどうかはよく分からない事件が、7月18〜19日に行われた第1戦富士で起きていた。すでにSNS等でご存知の方も多いかもしれないが、ご紹介しておこう。

(注:内容はレースとはまったく関係ないので、お忙しい方はそっと戻るボタンを押して下さい)

■“若手登竜門”としてのTGR TEAM WedsSport BANDOH

 今季、6台が参戦するトヨタGRスープラ勢のうち、唯一ヨコハマを履くのがTGR TEAM WedsSport BANDOH。今季、国本雄資のパートナーとして、21歳の若き宮田莉朋が加わった。近年、TGR TEAM WedsSport BANDOHはヨコハマを履くことからテスト時間が多いため、山下健太、坪井翔とトヨタ期待の若手がGT500に慣れるための“登竜門”的位置づけとなっており、宮田もその流れに乗っているのは間違いないだろう。

 さて、そんな宮田とTGR TEAM WedsSport BANDOHだが、第4戦ではスリックで非常に印象的なスピードをみせつけ、予選Q1では宮田がトップタイムをマーク。レースでも不運なアクシデントがなければ、上位進出は間違いなかった。チームを率いる坂東正敬監督が宮田に寄せる期待も大きい。

 そんな坂東正敬監督だが、じつは毎年チームに加わった若手ドライバーたちにプレッシャーをかけている。2018年には山下が「自分はやれる」ことを示すために開幕前に茶髪(どちらかというと金髪)に染め、2019年には坪井がブルーのニュアンスが入った色に染めてきた。目立ち度は抜群で、ふたりともすぐにファンに名前が覚えられた。

 2020年、チームに加わった宮田に対し、坂東監督はどう宮田を“プロデュース”してこようか考えていた。「ウチのチームに入ったからには、気合が入ったドライバーでいて欲しいんですよ」という坂東監督は、2月のセパンテストの時点から、筆者に「リーゼントにしようと思うんですよ」と教えてくれていた。

「金髪にするとか銀髪にするとか手段はあるとは思うんですが、ある意味金髪も銀髪も、オシャレじゃないですか。それは違うなと。で、世の中の人たちに対して『気合が入っている』髪型とは何かと言えば、ソリコミかパンチパーマか、坊主か」と坂東正敬監督。

「で、僕の中では昭和のリーゼントだったんですよ。坊主だとちょっと反省してるみたいだし、パンチだとちょっと反社会的な感じもしてしまいますから」

2018年開幕戦での山下健太
2019年開幕戦での坪井翔

■片方が立ち上がらない!

 本来であれば、開幕戦で多くのファンの前で披露するはずだった宮田のリーゼント姿だったが、新型コロナウイルスの影響で開幕は大幅に遅れてしまう。しかし、坂東監督と宮田にとって、リーゼントをキメる千載一遇のチャンスがやってきた。

 じつは今季、スーパーGTの公式映像に表示されるドライバーの顔写真は、“バラつき”がある。例年は、第1戦の走行前日にあたる金曜日に、公式フォトグラファーがドライバー全員と監督、エンジニアの顔写真とヘルメットを撮影し、金曜の夜を徹して切り抜き作業が行われ、初めて公式映像に顔写真が使われるという大変な作業を経ているのだが、今季は新型コロナウイルスの影響で“密”になるのを避けるため、公式撮影は行われなかったのだ。

 そのため今季はまだ公式サイトのドライバープロフィールにも顔写真が載っていないのだが、公式映像は顔写真ナシ……というわけにもいかない。そこで、GTアソシエイションの公式映像チームから、開幕戦を前に各チームに「ドライバーの顔写真をチームが撮影し、GTアソシエイションまでご送付ください」という連絡が飛んだのだ。

 このチャンスを逃す坂東監督ではない。今こそリーゼントで写真を撮る時だ……。坂東監督は宮田に「リーゼントやったことある?」と聞いた。当然宮田の返答は「ないです」。「そもそも僕すごいクセ毛なので、できないかもしれないです」と躊躇する宮田だったが、坂東監督はリーゼントの作り方を掲載したYoutube動画を宮田に何本も送りつけ「家でやれ」と伝えたが、やはりクセ毛のせいか、なかなか作ることができない。

 最終的にサーキットで作ることになるのだが、ポマードやスプレー、ドライヤーやリーゼント御用達の細い板状のコームを坂東監督が持ち込み、約1時間半(!)ほどをかけて髪を立ち上げるものの、「まあ莉朋の髪質が大変で(坂東監督)」向かって左側はリーゼントになっても、右側がどうしても立ち上がらない。

 とはいえ、半分はリーゼントになっている。横を向けばそれっぽい。「これでいいな! と写真を撮って、GTAに送ったんです」と、ついに宮田のリーゼント写真が撮影され、TGR TEAM WedsSport BANDOHのマネージャーを通じて、GTAの公式映像チームに送られた。

なんとかできあがったリーゼントがコレ。この写真そのものがTGR TEAM WedsSport BANDOHからGTAに送付された。

■凍りついたGTA公式映像チーム

 さて、リーゼントにされた宮田は「ちょっと恥ずかしかったです。なりきれませんでした」と言うが、その髪型のまま、チームで晩御飯を食べに行ったという。「みんなに冷たい顔されて。そのときは『なんのことですか?』で乗り切ったんですが、『まわりはそういう目をするんだ……』と悲しい気持ちになりました。監督の指示には従わないといけないし、すごくイヤというわけではなかったのに、ふざけてるように見られて……」とちょっぴり辛い目にもあった。

 さらに、事態は坂東監督の望まない方向に進んでしまう。せっかく撮った写真がどう表示されるのか、スーパーGT第1戦富士の公式練習中、坂東監督はモニターを注視したが、通常画面右下に国本の写真と並んで表示されるはずの宮田の写真が表示されず、なんと国本の横は空いたままだ。

「あれっ? 莉朋の写真が出てこないぞ」と坂東監督はマネージャーを通じて「どうなっているんだ」と確認するも、「ちゃんと送りましたよ」とマネージャー。

 一方、写真を受け取ったGTAの公式映像チームのI氏(SUPER GT Official Youtube Channelの中の人)は、PC画面の前で「時が止まりました……」と凍りついたという。そもそもリーゼントなうえに、なぜに横向きなのか……!?

「この写真でいいのでしょうか……?」I氏は改めてTGR TEAM WedsSport BANDOHに確認を取った。戻ってきた返信は「はい。これでお願いします」というもの。「このチームの怖さを知りました」というI氏だったが、「はいそうですか」と使うわけにもいかない。「ちゃんとしたのを送ってください」と改めて依頼。それまで宮田の部分は“空き”としていのだ。

 結局、「スーパーGTは“世の中に魅せる”シリーズですし、サッカーでもなんでも、プロフィール写真は横向きのはないですよね。改めて反省して、普通のを送りました」と坂東監督が折れて、通常の写真が入ることになった。

 そんな顛末もあったTGR TEAM WedsSport BANDOHだが、先述のとおり、第4戦もてぎからの躍進は目を見張る部分がある。「莉朋と国本からのフィードバックもありますし、莉朋もシミュレーターをやったりと、もともとの速さに加え努力しています」と坂東監督は宮田に期待を寄せる。

 残念ながら公式映像では“お蔵入り”になってしまったが、宮田をよりファンや関係者に印象づけたい……と願ってのリーゼントだった。ファンが実際に目にするシーンは今後くるだろうか……?

第1戦富士のグリッド紹介映像。宮田莉朋の写真はここには間に合った。
国本雄資と宮田莉朋
WedsSport ADVAN GR Supra

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