歴史にその名を刻んだ中嶋一貴 トヨタがルマン24時間を3連覇

ルマン24時間で3連覇を成し遂げ、喜ぶ中嶋一貴(前列右から2人目)とチームメート(C)TOYOTA GAZOO Racing

 3連覇―。スポーツの世界において、この言葉は特別な価値を持っている。それは日本だけではなく、世界でも同じだ。事実、テレビや新聞といったメディアでも3連覇を成し遂げたチームはひときわ大きく報道されることが多い。

 3年連続で優勝するには、強いチームであり続けなければならない。選手やスタッフが入れ替わることが当たり前の中、チーム力を高いレベルで維持するのは難しいのだ。

 それゆえ、造語もできる。好例が米国で生まれた「スリーピート」。「3」の英語表記である「スリー」と「繰り返す」を意味する「リピート」を組み合わせた言葉だ。米プロバスケットボールNBAのレジェンドであるマイケル・ジョーダン擁するシカゴ・ブルズが1995年から3連覇したときに、一気に市民権を得た。

 過去の記録をひもといても、3連覇の困難さが分かる。80年以上の歴史があるプロ野球で日本シリーズを3連覇以上したのは、わずか5チーム7度しかない。巨人(1951―53、65―73)、西鉄(56―58)、阪急(75―77)、西武(86―88、90―92)、ソフトバンク(2017―19)だ。

 他のカテゴリーも見てみよう。高校野球では「春・夏・春」や「夏・春・夏」「春・春・春」「夏・夏・夏」を含めてもわずか1チーム。31年から夏を3連覇(1931―33)した中京商だけだ。

 NBAに目を向けても、シカゴ・ブルズ(91―93、96―98)、ボストン・セルティックス(59―66)、ロサンゼルス・レイカーズ(52―54=当時はミネアポリス・レイカーズ=、2000―02)、と4チームだけだ。米プロフットボールNFLに至ってはスーパーボウルを三連覇したチームはいまだに存在しない。

 3連覇はそれほどまでに難しい。9月19、20日に行われたトヨタが伝統の耐久レース「ルマン24時間」において見事勝利し、2018年から3連覇を達成した。1923年の初開催から途中ストライキや戦争による中断はあったが、過去88回の歴史において、3連覇以上したチームはベントレーとアルファロメオ、ジャガー、フェラーリ、フォード、マトラ、ポルシェ、アウディ。ここにトヨタの名前が刻まれた。

 このこと自体が貴重だが、今回は中嶋一貴とセバスチャン・ブエミが3連覇達成ドライバーという名誉あるリストに加わった。トップチームやメーカー主導の場合、複数台で参加することが当たり前となっているルマン24時間において、ドライバーとして3連覇をするチャンスは本当に限られている。

 過去の優勝車とそれに乗るドライバーを調べた。全88回で優勝ドライバーは延べ222人いる。前回までに3連覇以上したのはたった8人。中嶋とブエミは9人目、10人目として歴史に名前を刻んだわけだ。

 ちなみに3連覇以上したドライバーのリストは以下の通り。

 ウルフ・バーナード ベントレーで1928年から30年

 オリヴィエ・ジャンドビアン フェラーリで60年から62年

 アンリ・ペスカロロ マトラで72年から74年

 ジャッキー・イクス ミラージュ、ポルシェで75年から77年

 フランク・ビエラ アウディで2000年から03年

 エマニュエル・ピロ アウディで2000年から03年

 トム・クリステンセン アウディで2000年から05年

 マルコ・ヴェルナー アウディで05年から07年

 中嶋一貴 トヨタで18年から20年

 ブエミ トヨタで18年から20年

 レース後、中嶋は「どういうわけか、われわれは他の車よりも運に恵まれているようです」とコメントした。文字だけ読めば、少し冷めているように感じるかもしれない。しかし、中嶋はこれまでルマン24時間で数々の悔しさを味わってきた。そのことを踏まえると、決して第三者的に見ているのではないことが分かる。

 14年、中嶋は日本人初となるポールポジションを獲得した。レースでもトップを快走していたのに、電気系統のトラブルでリタイアしてしまった。

 16年はもっとつらい結果になった。初勝利まであと6分と迫ったときに、突然エンジンパワーを失ってしまった。「No Power!」。中嶋が発したこの悲痛な叫びは今も耳にこびりついている。

 そこで飲まされた苦渋を知るだけに、中嶋は勝つためには実力に加えて、運、つまり勝利の女神を味方に付けることの難しさを一番知っている。だから、彼の言葉にはなんとも言えない重みがあるのだ。

 今年の予選後に口にした「最後までベストを尽くすのみです」やレース後に漏らした「とりあえず(チームが)勝てて良かった」という中嶋の言葉からは、連覇よりもチームに勝利をもたらすことができたことにホッとしているのがひしと伝わってきた。

 忘れてはならないことがある。8月末に開催された2輪のルマン24時間でもホンダが総合優勝しているのだ。今年のルマンは日本勢が完全勝利を飾ったことになる。

 さらに、ホンダの佐藤琢磨がアメリカ伝統のインディアナポリス500マイル(インディ500)で2度目の総合優勝を果たした。

 このようにモータースポーツの世界における日本勢の活躍はめざましい物がある。そんな一面も広く知ってもらいたいものだ。(モータースポーツジャーナリスト・田口浩次)

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