ベネチア国際映画祭17年ぶり快挙!黒沢清監督が語る「スパイの妻」にこめた映画愛 ホラーや家族の物語を撮ってきたのになぜ戦争の時代を舞台にサスペンスを?

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黒沢清監督大いに語る(NHKの番組ホームページより)

日中・太平洋戦争前夜、日本軍の野蛮な行為を偶然知ってしまった貿易商(高橋一生)が、正義のためにこの国家秘密を世間に公表しようと奔走し、その妻(蒼井優)も軍部から脅されるミステリー映画「スパイの妻」で、黒沢清監督がベネチア国際映画祭で監督賞を受賞した。日本の監督の受賞は17年ぶりだが、黒沢監督はこれまでホラーや家族の物語などを中心に撮ってきた。なぜ戦争の時代を舞台にサスペンスと夫婦愛を撮ったのか。武田真一キャスターが聞いた。

黒沢「個人の自由と社会との軋轢というのは、どの時代にも当てはまる普遍的なテーマだと思うんです。ホラーでもコメディでも、描いていくと、必ずどこかでここにぶつかってしまう。(スパイの妻も)娯楽映画として楽しく見ていて、(戦争という)重いテーマも受け止めてくれたらいいなと思うんですね」

黒沢映画の3つのポイント「長回し」「光と影、そして風」「恐怖」

黒沢映画には3つの特徴的なポイントがある。1つは「印象的な長回し」だ。長回しとは、シーンを細かくカットでつなげず、カメラを回し続けて長いシーンを1カット撮る撮影法である。「スパイの妻」では5分も続く場面がある。

黒沢「撮影現場はスタートからカットまで緊張した時間が流れます。その緊張感を見る人にそのまんま届けたいと思っても、編集してしまうと伝わりません。1分で撮ったシーンを同じ1分で見せれば、1分間の緊張が伝わるんです」

特徴の2つめは、「光と影、そして、風」である。1つのシーンで急に暗くなったり、明るくなったりという演出が多い。揺れる心理を光と影で表現しているわけだが、風が吹くシーンも多い。「風が吹くことによって、画面の中に予想外のものが入ってくる印象になります。パーッと開かれる気持ちよさや爽やかさが生まれるんです。撮影していて、自然の風が吹いてきたりすると、『やったあ』と思いますものね」

黒沢監督はホラー映画も多く撮っているが、恐怖とは「静かに壊れていく日常」だと話す。これが3つ目の特徴だ。「まったく知らないものが、気が付いたらものすごく近くにいた、あったという瞬間は、すごく恐怖だと思うんですよ。それは死であったりするわけで、ほとんどの人は死の影などまったく感じないで生きているわけですが、次の瞬間、ふと死を感じてしまうと、その時から日常がガラガラと崩れていきます。これは恐怖です」

映画館で映画を見るということは、自分自身を見つめること

映画は映画館で観ないと本当の良さはわからないと言われるが、黒沢監督はこれについてこう語った。

「僕も家で、DVDやパソコン画面の配信で見ることは多いですよ。それはそれで、映画館ではみんなである何かを見て、知らない者たち同士が、一緒にワーッと笑い合う。逆に、つまらない映画でみんな帰っていくのに、自分だけは面白くて最後のエンドロールまで見てしまったということもあるかもしれない。映画館で映画を見るということは、映画と自分との関係だけでなく、自分と他の人との関係、自分のポジションを知ることができるんです。それがエンターテイメントの存在意義じゃないでしょうか」

なんだか、妙にうまくまとめられたクロ現+だったが、それもそのはずで、「スパイの妻」は実は黒沢清監督とNHKが組んで超高精細の8Kドラマとして制作し、1秒あたりのコマ数などを調整して劇場版にしたものだ。6月(2020年)にBS8Kで放送され、10月16日から劇場版が全国公開される。クローズアップ現代+は自画自賛の映画宣伝というわけだった。

NHKクローズアップ現代+(2020年9月23日放送「17年ぶり快挙!ベネチア監督賞 黒沢清監督が語る」)