楽しく、強く。前田美優が常勝軍団・日本生命レッドエルフで輝く理由

中学までの「勝つことがすべての卓球」から一転、高校では「卓球の楽しさ」を知った前田美優。希望が丘高校でインターハイシングルス・ダブルス優勝、全日本選手権混合ダブルス優勝と堂々たる実績を積み重ね、卒業後は女子卓球界の名門・日本生命に入社した。勝ちを求められる常勝軍団で、前田はどのような思いでプレーしているのか。本人の言葉で軌跡をなぞる。

小さい頃からの憧れの「日本生命」

現在は、Tリーグで平野美宇や早田ひなを擁し2連覇を果たした強豪チームとして知られている日本生命。前田の入社時は、日本卓球リーグ実業団連盟に所属していた。実業団でも5大大会で通算72回の優勝に輝くなど、まさに名門だ。

写真:2ndシーズン第2戦の日本生命レッドエルフメンバー(右から2人目が前田美優)/撮影:ラリーズ編集部

前田は、香川にいる幼少期から女子卓球の名門・日本生命に憧れを抱いていた。

「初めて日本生命が香川で卓球教室をした際に、岸田(聡子・現日本生命レッドエルフ監督)さんと試合させていただきました。小学生だったので普通に負けましたが、日本生命の人たちはすごいなとその時に思って、日本生命に入りたい、入るためにはめっちゃ頑張らなきゃいけないと思って頑張りました」。

地域との交流やスポーツの裾野拡大を目指す日本生命卓球部は、各地で卓球教室などを通した普及活動に励んでいる。それが功を奏し、香川県の卓球少女の心を動かした。

写真:充実の練習環境でジュニア選手も汗を流す名門・日本生命/撮影:ハヤシマコ

また、香川には、サウスポーでバック面に表ソフトを貼る前田と同じくダブルス名手の若宮三紗子さんがいる。全日本女子ダブルス4連覇を果たした実績を持つ若宮さんは、香川・尽誠学園高校から日本生命に進んでおり、前田の目標となっていた。

「同じ戦型で、同じ香川で、若宮さんは小さい頃から目標で憧れです。若宮さんが日本生命に入ったことも私の中では、行きたいと思った1つの要因でした」。前田が小学6年生のとき、若宮さんは日本生命に入社した。弱冠12歳の少女が、憧れの先輩の背中を追いかけるのは自然なことだった。

強者揃いの1996年世代で切磋琢磨

前田は、日本生命入社直前の2015年1月、全日本のシングルスと混合ダブルスでベスト4に入り、大型新人としてチームに加わった。同期は、2014年全日本シングルス準優勝、Tリーグセカンドシーズンでは最多勝に輝いた森さくらだ。

左利きでバック面に異質ラバーを貼る技巧派の前田は、試合前はぎりぎりまでずっと話していたいタイプ。一方、右利きで両面裏ソフトを使用し豪快なプレーを持ち味とする森は、試合前は集中して自分の世界に入るタイプ。1996年生まれの対照的な同級生の2人は、幼少期からしのぎを削ってきた。

森は前田を「すごく刺激になる良いライバル」と評し、前田も「良きライバルであり、良き友達。もう戦友みたいな感じですね」とお互いを認め合い、切磋琢磨している。

2015年全日本選手権での好成績は、2014年全日本シングルスで準優勝した森の活躍に発奮したからだと振り返る。「さくらの活躍を見てすごいなと素直に思った。そのあと世界選手権にさくらは出てたので、そういう活躍を見て、同い年のさくらが頑張ってるから、自分も頑張らなきゃなと思いました」。

写真:ダブルスを組んで戦う森さくら(左)・前田美優(日本生命レッドエルフ)/撮影:ラリーズ編集部

森の他にも安藤みなみ、德永美子(ともに十六銀行)、森薗美月琉球アスティーダ)と1996年世代には実力者が名を連ねる。

「小学生のときから、同い年がみんな強くて、みんなのおかげで強くなれたというのはあります。試合前になると全員対策しなきゃいけないので、大変だったけどそのおかげで強くなれた」。96年組への感謝を語る。

常勝軍団・日本生命レッドエルフで放つ存在感

前田は現在、Tリーグの常勝軍団・日本生命レッドエルフでプレーする。

日本生命レッドエルフは、東京五輪代表に内定している平野、全日本女王の早田、シングルス最多勝をあげた森、他にも韓国代表の田志希(チョンジヒ)、チャイニーズタイペイ代表の陳思羽(チェンズーユ)とリーグ随一の層の厚さを誇る。

写真:1stシーズンファイナルでの前田美優(日本生命レッドエルフ)/撮影:ラリーズ編集部

その中でも前田は1stシーズンでは、徐孝元(ソヒョンウォン)や袁雪嬌(エンシュエジャオ)といった強敵を下し、シングルス6勝6敗。2ndシーズンは、シングルス0勝と奮わずも、ダブルスでは8勝をあげ最多勝に輝いた。異なる4選手と組みながらも安定感を見せ、存在感を放った。

写真:開幕戦では陳思羽(チェンズーユ)とペアを組んだ前田美優/撮影:ラリーズ編集部

「ダブルスではいろんな選手と組ませていただいた。いろんな人と組むことは今までなかったので、自分にとっては良い経験で、自分の成長に繋がった良いシーズンだった」と2季目を振り返った。

写真:前田美優は当時中学3年生の赤江夏星とペアを組み戦い2勝をあげた/提供:©T.LEAGUE

もちろん反省も忘れない。「(Tリーグは)1番ダブルスなので、ダブルスに重きを置きすぎて、ダブルスを取った瞬間にどこかでホッとしてしまうところがあった。そのままシングルスに入るときに気持ちの切り替えが2ndシーズンはできなかった。ダブルスとシングルス両方戦うのは、やっぱりすごく難しいことなんだと今シーズンで気づきました」。

卓球の楽しみを知り、勝ちにこだわる

写真:前田美優(日本生命レッドエルフ)/撮影:ラリーズ編集部

幼少期を「きつすぎてあまり思い出したくない」とまで語った前田が、今では最近の選手生活を楽しそうに振り返る。

「海外の試合には『ごっちゃん』と名前をつけたゴリラのぬいぐるみを持っていきます。3年前ぐらいにドイツで買ったんですよ。ちょっと腕が長くていつも腕枕してもらって・・・」。

写真:ゴリラのぬいぐるみ『ごっちゃん』 前田は「女子はぬいぐるみいっぱい持ってるけど、私はもうごっちゃん以外いらないです(笑)」と愛を語る/提供:前田美優

勝つことがすべてだった少女は、卓球の楽しさを知って大人になり、勝ちにこだわるプロ卓球選手になった。「3連覇できるチームは日本生命しかないので、結果を出して貢献できるよう頑張っていきたい」。前田美優、24歳。彼女の行く先に卓球選手の次の形がある。

取材・文:山下大志(ラリーズ編集部)

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