《コロナ現場発》タクシー業界に警戒感 感染リスクに協力求める

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ビニールの仕切りを設け、消毒や換気を徹底するタクシーの車内

 新型コロナウイルスを巡り、車内で不特定の乗客と一定時間をともにするタクシー乗務員は感染拡大に警戒感を強めている。乗務員の高齢化が進み自身への感染を恐れる声も強く、クラスター(感染者集団)の発生などを受け「夜の街」での営業に抵抗感を示す人もいる。通院で利用する客が感染を疑わせる症状の場合もあるが、乗車拒否を申し出ることは難しい。業界では、利用客向けに感染防止対策を促すステッカーを作製し、協力を求めている。

 前橋市で営業する50代の男性乗務員は「7月末ごろから病院の裏口へ送迎することが増えている」と証言する。迎車の際に、看護師から換気を徹底するよう促されることもある。男性はこうした乗客には、新型コロナの検査を受ける目的の通院が少なくないと見ている。病院によっては検査を受ける人に、自家用車がない場合は不特定多数が乗る電車やバスでなく、タクシーでの来院を勧める場合もあるという。

■クラスター発生
 同市では8月、ホストクラブでクラスターが発生。市街地で営業するタクシー会社の担当者は「ひいきにしてもらっていたホストクラブからの配車依頼は途絶えた。乗せた客が感染者だったかもしれないとの思いは拭えない」と漏らす。

 この会社はクラスターが発生した店にも複数の常連客がいた。発覚後に保健所に相談すると、車内は感染防止対策がされているとして「乗務員は濃厚接触者には当たらず、検査対象ではない」とされた。同社では店へ配車した乗務員約10人に対し、独自に抗体検査を実施。感染の疑いがある人はいなかったという。

■乗務員平均63歳超
 「濃厚接触者に当たらないとしても、現場からは不安の声が上がっている。酔ってマスクをしていない客もいて、飲み屋街には行きたくないという乗務員も出てきた」と県タクシー協会前橋市地区の矢嶋敏文地区会長は明かす。

 同協会によると乗務員の平均年齢は63.5歳。高齢に加え、持病のある乗務員もいる。同地区会では市に対し、感染疑いの乗務員が出た場合は迅速に検査し、感染者のタクシー利用が判明した際は情報を共有するよう8月下旬に要望した。

■換気と消毒徹底
 人の移動の増加とともにタクシー利用も増えつつある。各事業者は運転席と後部座席の間にビニールの仕切りを付けたり、車内の換気と消毒を徹底するなど対策を強めている。

 乗客にも感染予防の協力を求めようと、同協会では車両に貼り付けるステッカーを作製した。乗客に (1)マスクの着用 (2)助手席でなく後部座席の利用 (3)常時換気への理解 (4)会話を控えること―を求める内容を記載。今月中旬に加盟61事業者の計1324台に配布した。

 清水憲明会長は「各事業者が対策を徹底している。乗客にも協力をいただきつつ、利用してほしい」と呼び掛けている。(大森未穂菜)

◎乗車拒否は困難

 タクシーを含む一般乗用旅客自動車の運送業務は、道路運送法や関係省令に基づいて行われる。同法令などでは一部の感染症の「患者または新感染症の所見がある者」の運送を拒絶できるとしている。一方、感染が疑われても医師らの所見や客本人からの申告がなければ、乗車を拒むことは現実的には難しい。

 関東運輸局群馬運輸支局は「(新型コロナは)ケース・バイ・ケースでいろいろな解釈がある」としつつ、「(乗客にとっての)公共交通の利用を妨げることはあってはいけない」と説明。一般的には医師らの科学的見地による判断がない人を乗車拒否することはできないとする。

 法令などに定められた正当な理由以外で乗車を拒否した場合、行政処分として車両停止処分などになる可能性があるという。

 コロナ禍で収益減に直面するタクシー業界を巡っては、前橋市などでタクシーが飲食店のテークアウト宅配を請け負っている。こうした事業は特例だが、10月からは恒久的に認められることになっている。