【大学野球】甲子園から首都大学リーグへ…「1番で初打席初安打」の2人をつなぐ不思議な縁

東海大・東海林航介【写真:編集部】

東海大・東海林航介外野手と日体大・松浦佑星内野手が大学デビュー

手にするバットが金属から木製に変わった。慣れ親しんだ故郷を離れ、もう1つ高いレベルの世界に飛び込んだ。昨年、甲子園で注目を集めた2人の1番打者が首都大学リーグでデビューした。それも名門の1番打者として、いきなり快音を響かせたのだった。

東海林航介は昨年、奥川恭伸投手(ヤクルト)の背中をずっとセンターで見続けていた。リードオフマンとして、夏の甲子園準優勝に貢献した。春のオープン戦から大きな期待をかけられ、1番を任された。新型コロナウイルスの感染拡大でチームは活動休止。リーグ戦も中止になった。故郷・石川に帰省し、母校で練習をする日もあった。

迎えた初戦の桜美林大との開幕戦(19日・大田スタジアム)。相手先発はプロ志望届を提出した松葉行人投手だった。普段から明るく、堂々としたプレーが持ち味。物怖じとは無縁のようなスタイルの東海林だったが「ものすごく緊張しました。ふわふわしている感じでした」。初回先頭の打席、ボール球の変化球に手を出してしまい、追い込まれたが、最後はしっかりとボールを見極めて、右前安打を放った。大学初打席で記念すべき安打となった。

その後、先制のホームを踏んだ東海林は2回の第2打席では四球を選び、二盗をマーク。続く2番・小松勇輝(東海大相模)の右翼への二塁打で3点目のホームを踏んだ。入学直後からオープン戦で1番起用していた東海大・安藤強監督は「公式戦の中でしっかりと乗っていって欲しいですし、ゆくゆくはスター選手になってほしいですね」と期待。精悍なマスクに、走攻守揃ったプレー。指揮官が描くスター性は十分にある。

名門・東海大で1番打者を任される黄金ルーキー。でも、置かれている自分自身の状況を冷静に受け止めている。東海林は「僕は実力がまだなありません。一歩ずつ、大学で成長していきたいと思います」。高校時代もそうだった。中学時代は他を寄せ付けないほどの実力を持っていたが、奥川や山瀬慎之助(巨人)ら高校卒業後、プロに進んだ同級生を見て、自分の実力不足を痛感。大学に進み、今から3年後のドラフト指名を夢見ている。

「秋のリーグ戦でしっかりとチームが勝つことが目標です」と献身的な言葉を聞いた後、個人としての思いも聞いてみた。

「慣れてきて、2年生になったらタイトルを1個、取りたいですね。最多安打とか取りたいです。3年生になったら、4年生にも負けないというか、信頼してもらえるような圧倒的な力を付けたいです。4年生になったら、次の世代を考えないといけないので、自分だけでなく、周りを見て、自分にも“気付き”が得られるような人間になっていきたいなと思います」

しっかりとビジョンを描いていた。

日体大・松浦佑星【写真:編集部】

ボテボテの一塁ゴロを内野安打にしてしまう脚力を持つ富島の1番打者だった松浦

そして、もう一人。昨夏の甲子園を沸かせた遊撃手を覚えているファンも多いだろう。富島(宮崎)の1番・遊撃手として華麗な守備と走塁を披露した松浦佑星内野手だ。1916年創部の宮崎の県立高校を初の夏の甲子園出場を導いたリードオフマン。初戦で敦賀気比に敗れたが、その存在感は光輝いていた。

敦賀気比戦でボテボテの平凡な一塁へのゴロを内野安打にしてしまった驚異の脚力。二盗はもちろん、忍者のように野手をすり抜けてホームに生還した走塁。左中間へ三塁打も放った。プロ注目の選手だったが、この春から日体大へと進んだ。

日体大の古城隆利監督は「入学することが決まった時から1番で使いたいなと思っていました。足も速いし、守備もいい」。その期待通りの活躍を東海林同様、第1打席から見せたのだった。

武蔵大との試合の初回先頭。好投手・山内大輔(3年・東海大菅生)と対峙した。松浦がとらえた打球は左中間へと抜けていった。柔らかなスイングから、快足を生かして、二塁打をマーク。その後、先制のホームを踏んだ。大学デビュー戦にも緊張はせず「とにかく得点圏へ進むという意識で打席に立ちました」。見事に勝利に貢献し、1番としての役割を果たした。

高校時代は同じ1番打者でも、受け止め方が違っていた。「今は出塁することだけを意識してやっています」。自分だけが打てばいいという考えはもう卒業した。オープン戦の時から1番で起用されている意味を考え、より恐れられる1番打者を目指している。

第1試合で鮮やかにデビューを飾った東海林のことを聞くと、松浦は「僕、星稜と2年生の時に選抜で対戦しているので、意識は少しします。(東海林に)負けないように頑張ります」。2018年春の甲子園、11-2で星稜が勝利しているが、松浦は2年生ながら1番・遊撃で三塁打を含む5打数2安打。一方、東海林は守備で途中出場。打席には立っていなかった。

聖地で戦い、再び、場所を変えて交わった不思議な縁。これからは切磋琢磨する存在となっていくだろう。2人のルーキーの成長を見届けていきたい。(楢崎豊 / Yutaka Narasaki)

© 株式会社Creative2